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プロテオーム解析により、卵巣明細胞がんの新規血清診断マーカーとして有用性のある検査方法を開発しました

2016.11.15
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  • 研究

卵巣明細胞がんの新規血清診断マーカーとして有用性のある検査方法を開発しました

米国科学誌『PLOS ONE』に掲載されました

横浜市立大学先端医科学研究センター プロテオミクス 荒川憲昭客員准教授、平野 久特任教授、医学群 がん総合医科学 宮城悦子教授と、東ソー株式会社の研究グループは、卵巣明細胞がんの細胞が作り出す、組織因子経路インヒビター2(tissue factor pathway inhibitor 2、以下TFPI2)というタンパク質に注目し、血清中のTFPI2の測定方法を開発しました。横浜市立大学および奈良県立医科大学で収集された検体で検証した結果、卵巣がんの検査において、高い有用性が期待できることを確認しました。
卵巣明細胞がんは、抗がん剤が効きにくく予後不良例が多い疾患であり、欧米人よりも日本人に多いことが知られています。現行の卵巣がんマーカーCA125は、明細胞がんでは低い値を示すことが多く、また、明細胞がんの発生母地である子宮内膜症でも高値になることから、明細胞がんの検出は難しいと言われており、明細胞がんを高い精度で検出できるバイオマーカーが必要とされていました。
今回、TFPI2の検出試薬を開発し、合計400例以上の婦人科腫瘍患者検体を用いて、詳細な解析を行った結果、TFPI2は明細胞がんの患者血液中だけに高い濃度で存在することがわかり、明細胞がんの血清診断に有用であることがわかりました。
研究グループは、現在、横浜市立大学次世代臨床研究センターによる臨床データや研究全体の進捗管理の支援を受けながら、TFPI2の実用化を目指した臨床研究を開始しており、これが実用化されれば、明細胞がん患者の早期発見や治療成績の改善に繋がることが期待されます。

※本研究成果は、米国科学雑誌『PLOS ONE』に掲載されました(10月31日オンライン)。
※本研究は、文部科学省イノベーションシステム整備事業 先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラムの一環として、また科学研究費補助金の助成を受けて行われました。

研究の背景と経緯

卵巣がん(*1)は婦人科の悪性腫瘍の中で最も死亡数が多い疾患であります。卵巣がんは様々なタイプが存在し、その中でも、明細胞がんは抗がん剤が効きにくいタイプのがんです。また、明細胞がんは、欧米人よりも日本人に多いこともこの疾患の特徴であります。卵巣がんの診断は術前の血液検査が重要な役割を果たしますが、現行の卵巣がんマーカーCA125は、明細胞がんに対する検出率が低く、良性の子宮内膜症でも高値となるといった問題がありました。特に、明細胞がんは子宮内膜症を母地として発生する例が多いことから、この2つの疾患を識別することは臨床的に重要であるにもかかわらず、これらを鑑別できるバイオマーカーは存在しないことが、臨床現場では大きな問題となっています。
横浜市立大学の研究グループは、プロテオーム解析技術を用いて、卵巣がん細胞の培養液を解析したところ、明細胞がんがTFPI2を特徴的に分泌していることを見いだし、新しい卵巣明細胞がんの診断マーカーとなる可能性を報告しました(Arakawa N, Hirano H, Miyagi E et al. J Proteome Res 2013)。このTFPI2は、妊婦の胎盤に特異的に発現するタンパク質分解酵素阻害因子として、約20年前に本学の宮城教授らにより報告されたタンパク質でもありました(Miyagi Y, Miyagi E, Umeda M, Miyazaki K et al. J Biochem, 116: 939-942 1994)。
<図1>明細胞がん細胞の培養液中の分泌タンパク質のプロテオーム解析

研究の内容

今回の研究では、企業と共同でTFPI2の全自動測定系を開発し、まず、過去に集められ保管されていた260例以上の婦人科腫瘍患者の血清の解析を行いました。その結果、子宮内膜症や他の卵巣がんでも増加するCA125とは異なり、TFPI2は明細胞がんの患者だけに高い値を示すことが実証され、適切な基準値を設定することで、明細胞がんの術前検査に有用であることがわかりました。さらに2年間かけて集められた別の150例の患者検体においてもその有用性が確認されました。早期明細胞がん患者の検出率は70%以上と高く、CA125と併用すればさらに向上する可能性が示されました。
<図2> 様々な卵巣疾患および子宮疾患の患者血清中のCA125濃度(A)およびTFPI2濃度(B)

今後の展開

現在、本学の次世代臨床研究センターによる臨床データや研究全体の進捗管理の支援を受けながら、TFPI2の実用化を目指した臨床研究を進めています。TFPI2が臨床現場に登場すれば、卵巣がん疑いの患者が明細胞がんか否か予測でき、最適な手術方法や治療方針の選択に貢献し、患者の経過観察に用いるMRI検査の頻度を減らすことができるようになると期待されます。さらに子宮内膜症フォローアップへの適用にも繋がることが期待されます。明細胞がんの多くは子宮内膜症を母地として発生しますが、CA125のような現行の腫瘍マーカーは感度が悪いため、悪性化を見逃してしまう恐れがあります。TFPI2の臨床現場への登場が、卵巣がんの診療を変えると期待されます。

注釈
*1 卵巣がん:日本人の卵巣がんの罹患数は年間8000人以上と増加傾向にあり、年間約4500人の死亡が報告されている。卵巣がんは、漿液性、類内膜、粘液性、そして明細胞と4つのタイプ(組織型)に分類され、明細胞がんの発生頻度は欧米人(全卵巣がんの8%)よりも日本人(25%)で高い。

掲載論文
Clinical Significance of Tissue Factor Pathway Inhibitor 2, a Serum Biomarker Candidate for Ovarian Clear Cell Carcinoma
Noriaki Arakawa, Hiroshi Kobayashi, Naohiro Yonemoto, Yusuke Masuishi, Yoko Ino, Hiroshi Shigetomi, Naoto Furukawa, Norihisa Ohtake, Yohei Miyagi, Fumiki Hirahara, Hisashi Hirano, Etsuko Miyagi  PLOS ONE October 31, 2016

お問い合わせ先

(取材対応窓口、資料請求など)
研究企画・産学連携推進課長 渡邊 誠
TEL:045-787-2510   E-mail:

(次世代臨床研究センターについて)
臨床研究推進課長 中川 淳孝
TEL:045- 370-7933   E-mail:
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