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微生物学 梁教授ら共同研究グループが人類の脅威となるMERSコロナウイルスを迅速、簡便、正確に検出する方法の開発に成功

2016.04.27
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微生物学 梁教授ら共同研究グループが人類の脅威となるMERSコロナウイルスを迅速、簡便、正確に検出する方法の開発に成功

☆研究成果のポイント
○コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系により作製した高品質な抗原を用いて、MERSコロナウイルスを正確に検出可能なモノクローナル抗体を開発
○本抗体を用いてMERSコロナウイルスを 1)短時間に 2)簡単に 3)正確に検出可能なイムノクロマトキットの開発に国内で初めて成功
横浜市立大学大学院医学研究科の梁明秀教授を中心とした共同研究グループは、MERSコロナウイルスを短時間で簡易に、かつ正確に検出可能なイムノクロマトキットの開発に成功しました。これにより、MERSコロナウイルスを迅速に特定し即時対応できるようになります。本共同研究の成果により感染の拡大阻止への寄与が期待されます。
※ 本研究成果は「Frontiers in Microbiology」(平成28年4月20日オンライン版)に掲載されました。

背景

MERS(中東呼吸器症候群)コロナウイルスは、2012年にサウジアラビアで同定された重症の呼吸器疾患を引き起こす新型のコロナウイルスであり、致死率が約36%と非常に高いことがWHOから報告されています。これまでに世界で1600人を超える症例があり、2015年には隣国の韓国で大流行が見られました。現在、韓国国内での流行は収束していますが、サウジアラビア等の中東地域では依然として感染者の発生が続いており、我が国への感染流入のリスクは続いています。
MERSコロナウイルスに対する抗ウイルス薬や感染予防のためのワクチンは未だ存在していないため、ウイルスを素早く特定し、迅速に対応することがウイルスの蔓延を防ぐためには非常に重要となります。これまでMERSコロナウイルスの検出には遺伝子検出法が採用されており、遺伝子を取り扱うことのできる熟練した技術と特別な装置が必要なことに加え、検出までに要する時間が長い事が問題となっていました。また、MERSコロナウイルスは、風邪の原因となる病原性の低いウイルス(229E、HKU1、OC43、NL63等)や、2002年頃に流行が見られたSARSと同じコロナウイルス属に分類され、これらとは遺伝子的に類似した部分が存在しています。一方でMERSコロナウイルスは遺伝子的に変異しやすいウイルスであることも知られています。以上の理由から、MERSコロナウイルスを誰でも簡単な操作で短時間に、かつ正確に検出できるキットの開発が求められていました。

研究の概要と成果

本研究グループでは、まずMERSコロナウイルスを構成するタンパク質を、梁教授の保有技術であるコムギ胚芽無細胞系(*1)を応用した病原体タンパク質合成法で大量に調製しました(図1)。次に、これを免疫原とすることにより、MERSコロナウイルスを検出できるマウスモノクローナル抗体を新たに開発しました。本抗体の認識する部位をバイオインフォマティクス手法により詳細に解析したところ、遺伝子型が異なるMERSコロナウイルスにおいても保存されており、MERSコロナウイルスを網羅的に検出できる優れた特性を有することが示唆されました。一方で、この認識部位は近縁のウイルスとは類似性が非常に低く、実際に本抗体は他のウイルスとは全く反応せず、MERSコロナウイルスとのみ反応することが明らかになりました(図2)。
さらに、この高性能な抗体を関東化学の試薬キット化技術と組み合わせることで、MERSコロナウイルスを簡単・迅速に検出できるキットの開発に成功しました(図3)。本検出キットはイムノクロマト法(*2)とよばれる原理に基づくもので、遺伝子検出法と比べ、特別な装置を必要とせず、簡単な操作で短時間にウイルスを検出することが可能です(表1)。また、国立感染症研究所の協力を得て、実際にMERSコロナウイルスを約15分で目視検出できることを確認しました。

今後の展開

本研究で開発した検出キットをより信頼性の高い結果が得られるように最適化し、試験研究用試薬としての実用化を目指します。また近年、世界はMERSコロナウイルスだけでなく数多くの新興・再興感染症(*3)の脅威にさらされています。こうした高い病原性を示すウイルスによるパンデミックを阻止するためには、今回の開発品のような検出キットを用いてウイルスを迅速・簡便・正確に検出し、安全を確保しながら適切な措置を講じることが必要不可欠です。本研究グループでは今後も様々な新興・再興感染症に分類されるウイルス等の検出キットを創出し、人類にとって脅威となるウイルスへの備えを進めていきます。

<用語解説>
*1コムギ胚芽無細胞系
タンパク質合成阻害物質を除去した小麦胚芽抽出液に、アミノ酸などの基質と目的mRNAを加えるだけで、安定・効率的にタンパク質を合成する技術。本手法を用いることで従来合成が困難とされてきたウイルスタンパク質の大量合成が可能となる。
*2イムノクロマト法
抗原抗体反応と毛細管現象を応用した免疫測定試薬。簡単な操作で病原体等を目視で検出することが可能であり、既にインフルエンザや妊娠診断等で実用化されている。
*3新興・再興感染症
新たに発生したか、以前から存在はしていたが近年再び患者数の急速な増加や発生地域の急速な拡大がみられる感染症。MERS、SARS、エボラ出血熱、HIV、デング熱、ウエストナイル熱などがある。

発表論文
<論文タイトル>
Development of monoclonal antibody and diagnostic test for Middle East respiratory syndrome coronavirus using cell-free synthesized nucleocapsid antigen
<著者名>
Yutaro Yamaoka, Shutoku Matsuyama, Shuetsu Fukushi, Satoko Matsunaga, Yuki Matsushima, Hiroyuki Kuroyama, Hirokazu Kimura, Makoto Takeda, Tomoyuki Chimuro, Akihide Ryo
<雑誌名>
Frontiers in Microbiology, section Virology
<掲載日>
2016年4月20日オンライン版

(研究内容に関するお問い合わせ) 公立大学法人横浜市立大学 大学院医学研究科微生物学 教授 梁 明秀

tel045-787-2602

mailaryo@yokohama-cu.ac.jp

(取材対応窓口、資料請求など) 公立大学法人横浜市立大学研究企画・産学連携推進課長渡邊 誠

tel045-787-2510

(検出キットに関するお問い合わせ) 関東化学株式会社 技術・開発本部 技術・開発部高木 信幸

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