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生命医科学研究科 竹居教授、 医学研究科神経内科学・脳卒中医学 田中教授らの研究グループが多発性硬化症の診断マーカーを発見!

2014.12.04
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生命医科学研究科 竹居教授、 医学研究科神経内科学・脳卒中医学 田中教授らの研究グループが多発性硬化症の診断マーカーを発見!

診断薬への応用に期待 ~米国医師会雑誌『JAMA Neurology』に掲載~

横浜市立大学 大学院生命医科学研究科 生体機能医科学 竹居 光太郎教授、医学研究科 神経内科・脳卒中医学 田中 章景教授と高橋 慶太医師らの研究グループは、神経回路形成因子であるLOTUSが、国の指定難病の一つである多発性硬化症*1の病勢に従い脳脊髄液中で顕著に変動することを発見しました。
神経難病である多発性硬化症には、病勢を判断する有効な血液・脳脊髄液のバイオマーカー*2がなく、検査を簡易に行うことが出来る血液・脳脊髄液のバイオマーカーが必要とされています。この発見で、脳脊髄液中のLOTUSの変動が、多発性硬化症の新たなバイオマーカー(診断薬)として臨床応用され、多発性硬化症の診断・診療に大きく貢献すると考えられます。また、LOTUSの変動とその要因の関係を調べることで病態の解明にも繋がると期待されます。

研究の背景

多発性硬化症は、発症すると再発を繰り返しながら神経障害が進行する神経難病で、患者数はわが国全体で約12,000人、人口10万人あたり8~9人程度と推定されています。 この病気は再発を頻繁に繰り返すため、再発時の早期診断・早期治療が病態(神経障害)を進行させないために重要です。しかし、再発の診断において、血液・脳脊髄液ともに信頼性の高いバイオマーカーはありません。現在、多発性硬化症の再発診断は臨床症候に加え、主に造影MRI 検査で判断されています。しかし、MRI 検査のできる施設は限られていることに加え、緊急での検査が出来ないことも少なくありません。従って、実際の診療では臨床症候に基づく医師の判断に委ねられることも多く、簡易に検査のできる血液・脳脊髄液のバイオマーカーなどの客観的指標が必要とされています。また、病態を反映するバイオマーカーがないことが、病気の原因の解明や治療分野の発展を妨げる一因となっており、この点においても、病態を反映する再発・病勢診断のバイオマーカーの開発が重要な課題となっています。 一方、本研究で注目したLOTUSとは、神経回路形成に係る機能分子で、内在性のNogo 受容体アンタゴニスト(拮抗物質)として機能します。Nogo 受容体とは、神経が障害された後の神経再生を阻む分子として知られ、多発性硬化症の病態・病勢と機能的関連が近年注目されています。そこで、我々は、Nogo 受容体と同様に、LOTUSが多発性硬化症の病態・病勢と関連があるのではないかと想定し、本研究を行いました。

研究の内容

我々は、ウェスタンブロッティング法と質量分析法を用いてヒトの脳脊髄液からLOTUS を検出・同定することに成功しました。そして、脳脊髄液中のLOTUS濃度を測定する方法を確立し、健常人(NC)、多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多系統萎縮症(MSA)の患者さんの脳脊髄液でLOTUS 濃度を比較しました(図1)。
その結果、多発性硬化症の患者さんではLOTUS 濃度が著明に低下していることを発見しました。多発性硬化症の多くは再発と寛解を繰り返す再発寛解型であり、さらに病状が進むと緩徐に神経障害が進行する二次進行型の病型に移行することが知られています。今回、多発性硬化症の患者さんを再発期(relapse)、寛解期(remission)、二次進行期(SPMS)の3つの病期に分けてLOTUS濃度の解析を行ったところ、再発期にはLOTUS濃度は著明に低下していましたが、寛解期では健常人と同程度まで改善していることが分かりました。さらに、二次進行期では明らかな再発がなくともLOTUS濃度の低下が認められました(図2)。
以上の結果より、LOTUS濃度が多発性硬化症の病勢に一致して変動することが示されました。

(図1)(図2)

今後の展開

本研究によって多発性硬化症の病勢に伴いLOTUS濃度が変動することが明らかにされました。今後、多発性硬化症の再発や神経障害の進行を早期に診断できるバイオマーカー(診断薬)として臨床応用され、早期治療や新たな治療戦略の発展につながることが期待されます。また、LOTUSはNogo受容体の拮抗物質であることから、Nogo受容体が病態に関連する多発性硬化症の病態解明へ繋がることが期待されます。


用語解説
*1多発性硬化症
脳、脊髄、視神経など、中枢神経の様々な部位が急激に障害され、脱髄を伴って多様な神経症状が認められる神経難病です。再発と寛解を繰り返しながら病態が進行していきます。原因はよく分かっていませんが、自己免疫の異常が原因の一つと考えられています。世界的にも患者数の多い神経難病で、日本では特定疾患に認定されている指定難病です。
*2バイオマーカー
人の身体の状態を客観的に評価するための指標で、診断・治療の際に参考とされます。さまざまな分類がありますが、一般的には生化学検査、血液検査、といった臨床検査値、CTやMRIなどの画像診断データを指します。

※本研究成果は米国医師会雑誌『JAMA Neurology』に掲載されました。(米国12月1日オンライン掲載)

※この研究は、文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「脳内環境」の研究費、公益財団法人武田生命科学振興財団、公益財団法人アステラス病態代謝研究会、および日本多発性硬化症協会の研究助成金により行われました。本学においては「学長裁量事業(戦略的研究推進費)」のひとつに位置付けられており、先端医科学研究センターの研究開発プロジェクトユニットが推進しています。

(本資料の内容に関するお問い合わせ) 公立大学法人横浜市立大学大学院生命医科学研究科 生体機能医科学研究室竹居 光太郎

tel045-508-7240, 7628 (fax:045-508-7370)

mailkohtaro@yokohama-cu.ac.jp

(取材対応窓口、資料請求など) 公立大学法人横浜市立大学先端医科学研究課長立石建

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