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大学の知見をJICA草の根技術協力事業に活用

大学の知見をJICA草の根技術協力事業に活用

「フィリピン共和国イロイロ市におけるコミュニティ防災推進事業(フェーズ2)」

平成27年6月11日、イロイロ市当局関係者、セントラル・フィリピン大学の関係者12名が、日本での研修の一環として本学を訪れました。この研修は、JICA草の根技術協力事業の受入研修で、横浜市の持っている防災に関するノウハウを吸収することが研修団の大きな目的です。本学では、グローバル都市協力研究センター(GCI)、国際都市学系まちづくりコース、医学部看護学科が連携し、大学の知見を活用した研修プログラムを提供しました。

イロイロ市でのJICA草の根技術協力事業

フィリピンのイロイロ市は、マニラから飛行機で1時間ほど南下した諸島部にある、人口40万人を超える都市です。イロイロ市は、市内中心部を流れるイロイロ川の洪水に毎年悩まされ、ODAによる放水路建設などのハード面の対策が軌道にのってきた現在、住民の防災ニーズに合った防災計画といったソフト面への取り組みが重要になってきています。イロイロ市は、横浜市が議長都市を務めているCITYNET(アジア太平洋都市間協力ネットワーク)防災クラスターのメンバーでもあり、JICA、横浜市、CITYNET横浜プロジェクトオフィスが共同で、コミュニティが主導して防災力を高め自主防災体制を構築する目的で、この草の根技術協力事業を推進しています。

研修(1) フィールドワーク:コミュニティに根ざした防災計画づくり

このプロジェクトを通し、イロイロ市では、5つのバランガイ(日本の町内会にあたる組織)をパイロット地区として、コミュニティの防災教育、避難マニュアル、障がい者を含めた防災訓練などを実施してきました。コミュニティに根ざした防災計画の一例として、当日、研修団は、横浜市立大学の教員に案内され、横浜市金沢区の町屋を視察しました。金沢区では、市民が中心になって作成した、市民目線の防災マップが提供されていて、避難経路、今後改善が必要な箇所などが、非常に詳細に記載され、地元の防災計画のニーズが明確に示されています。研修団はこのマップを確認しながら町歩きを行いました。

[防災マップを片手に金沢区の町屋を歩く一団]

防災マップに記載されている防災ポイント(道が狭くなり、避難時に障害になりそうな箇所や交差点等)を実際に確認しました。

[災害時の避難場所に指定されている小学校の前で説明を受ける一団]

洪水や津波で水没した際の避難についての質問が相次ぎました。水害時は、鉄筋コンクリートの建物が、避難所として有効であること、また、今後の課題など、実際に防災マップを作成された担当の方が、丁寧に説明してくださいました。

研修(2) 講義:防災と教育

実際に町歩きをした後、八景キャンパスにて、国際都市学系まちづくりコースの鈴木伸治教授(GCIまちづくりユニットリーダー)と石川永子准教授より、防災におけるまちづくりや住民参画についての講義を受けました。

[いちょうの館での鈴木教授の講義の様子]

[石川准教授の講義の後のQ&Aセッションの様子]

今回の研修では、横浜市の環境や防災への様々な取り組みを視察してきました。その上で、学術的な知見が二人の教員の講義を通して加えられ、講義の中で、参加者自身が考えることにより、防災への理解をより一層深めることができました。実際、講義後の質疑応答では、参加者からは、鈴木教授を「ひやひや」させる程の、非常に鋭い質問が多数出され、予定時間を大幅にオーバーしてしまいました。

研修(3) 交流会:横浜市立大学とイロイロ市

授業の後、本学の理事長、学長との面談を行いました。横浜市立大学では、今年度、看護学科の学生がフィールドワークとしてイロイロ市を訪問し、現地の防災事業を研究する予定です。今回の交流をきっかけに、横浜市立大学とイロイロ市の協力関係の構築が望まれます。「来年3月に、市大の学生が訪問する際は、くれぐれもよろしくお願いします」との叶谷学科長からのお願いに、「お任せください」というバロンダ市議会議員のお言葉を頂きました。

[理事長、学長との懇談会の様子]

[理事長、代表のバロンダ議員、学長]

[昼食は本学学生も参加して学食で]

研修(4) 講義&視察:医療機関と防災

午後は、福浦キャンパスに場所を移し、児玉光也 GCI特任助教による、大学や医療機関における防災対策の講義を受けました。実際に災害が発生した際の医療機関や大学の役割、また、その備えについて、参加者からも様々な意見、質問が出されました。他機関との連携をどのように効率的に行うか、が議論の大きなテーマとなりました。児玉助教の授業の後は、附属病院を見学し、救急医療や災害時の備えを視察しました。

[児玉助教の授業の様子]

[附属病院の災害時用倉庫を見学]

[附属病院の自家発電施設を見学]

終わりに

このプロジェクトにとって、もうひとつ重要なのは、教育の観点です。研修団の中には、セントラル・フィリピン大学から派遣された教職員もいました。教育を通じて、防災や環境についての取り組みをどのように若い世代に引き継いでいけるか?地元大学、地域住民と行政が協働して、どのようにコミュニティに防災の意識を浸透させるか?今回、参加者の口からも、多く、このようなことが課題であるということを耳にしました。大学と行政の協働については、横浜市と本学の連携で進めている様々な取り組みが、イロイロ市にとっても、良いモデルになるのではないかと感じました。防災においての大学のプレゼンスが高まっていることを実感させられる一日でした。