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泌尿器科学 蓮見壽史助教、矢尾正祐教授らの研究グループが腎臓がんの発生や増殖のメカニズムを解明!

2015.03.18
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泌尿器科学 蓮見壽史助教、矢尾正祐教授らの研究グループが腎臓がんの発生や増殖のメカニズムを解明!

~『米科学アカデミー紀要 Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)』に掲載~

横浜市立大学大学院医学研究科 泌尿器科学 蓮見壽史助教、矢尾正祐教授らの研究グループは、熊本大学、東京大学、米国立衛生研究所(NIH)との共同研究により、今まで全く機能が解明されていなかった二つの新規遺伝子Folliculin-interacting protein-1 (FNIP1)と-2 (FNIP2)が、腎臓がんの原因遺伝子であるFolliculin (FLCN)と協調して、腎臓がんの発生や増殖を抑えていることを発見しました。
腎臓がんは早期発見が難しい一方で、進行した症例に対する有効な治療法がないことが大きな問題でした。今回の結果により腎臓がんの発生や増殖のメカニズムが明らかになり、腎臓がんに対する有効な薬剤の開発が期待できます。

研究の背景

一つのがん細胞の中では多数の遺伝子に異常が起きていますが、その遺伝子の異常自体ががんの発生や増殖を引き起こしているような重要な遺伝子は実は少数で、これらはがん抑制遺伝子と呼ばれています。そして、がん抑制遺伝子に異常が起きた場合にどのようなことが起こり、がんの発生や増殖が起きるのかを解明すれば、これらを標的としたがん治療薬の開発につながります。 腎臓がんでは、2002年にFolliculin (FLCN)というがん抑制遺伝子が報告され、同研究グループは2006年と2008年にFLCNに結合するFolliculin-interacting protein-1 (FNIP1)と-2 (FNIP2)という二つの遺伝子を発見し、報告しました (Baba et al, PNAS, 2006, Hasumi et al, Gene, 2008)。しかしながら、FNIP1やFNIP2の腎臓における役割は全く不明で、この二つの遺伝子がFLCNのがん抑制機能に関わっているかどうかは解っていませんでした。

研究の概要と成果

同研究グループはこれまでにFLCN遺伝子が取り除かれたマウスを用いて、様々な臓器におけるFLCNの役割を明らかにしてきました。FLCN遺伝子が取り除かれたマウスでは、1)腎臓の細胞が異常増殖を起こすことにより腎臓が巨大化し(Baba et al, JNCI, 2008)、長期的には腎臓がんを発生し(Hasumi et al, PNAS, 2009)、2)筋肉ではミトコンドリアが増えるために筋肉の色が赤くなり(Hasumi et al, JNCI, 2012)、3)心臓では心筋細胞が大きくなるために心肥大が起きました(Hasumi et al, HumMolGenet, 2014)。
今回の研究で、マウスからFNIP1を取り除いたところ、FLCNを取り除いた時のようにマウスの筋肉の色が赤くなり、心臓に心肥大が起きましたが、腎臓には何も起きませんでした。このことから、FLCNとFNIP1は筋肉や心臓では協調的に働いていることが解りましたが、一方で何故、FNIP1を腎臓から取り除いても何も起きないのかが疑問でした。
腎臓においては、FNIP1にとてもよく似た遺伝子であるFNIP2が重要な役割を果たしているのではないかと考え、FNIP2をマウスから取り除いてみましたが、腎臓で何も起きないばかりか、全身の臓器で何も起こりませんでした。そこでマウスのいろいろな臓器でFNIP1とFNIP2の発現量を比べみたところ、面白いことに、筋肉と心臓ではFNIP1が圧倒的に多い一方で、腎臓ではFNIP2の発現量がFNIP1と同じレベルであるということが解りました。この腎臓におけるFNIP2の発現が、FNIP1を取り除いたマウスの腎臓に何も起こらなかった原因ではないかと考え、マウスの腎臓でFNIP1とFNIP2を同時に取り除いたところ、驚くべきことに腎臓細胞が異常増殖を起こし最終的に腎臓の重量は10倍以上にもなりました。この巨大化した腎臓を様々な方法を用いて解析したところ、FLCNを取り除いた時と全く同様のメカニズムにより腎臓が巨大化しているということが解りました。(図)
さらに、FNIP1とFNIP2を同時に取り除いたマウスを長期的に観察していると、生後2年で、FLCNを取り除いたマウスに形成された腎臓がんと全く同じタイプの腎臓がんが形成され、FNIP1とFNIP2は、FLCNと協調して腎臓がんの発生を抑制しているということが証明されました。
FLCN、FNIP1、FNIP2という遺伝子はお互いが結合して複合体を形成することが解っていますので、FLCN/FNIP1/FNIP2が複合体を形成ができなくなった時に、腎臓細胞は異常増殖を始め最終的にがん化するのではないかと考えられます。また今回の結果を進化生物学の観点から検討すると、ハエなどの下等生物ではFNIPは一つしか存在しないので、もともと一つだったFNIPが、ヒトのような高等生物に進化する過程で、腎臓細胞の異常増殖を確実に予防するために、FNIP1とFNIP2という二つのFNIPに分かれていったのかもしれません。

(図)

今後の展開

今回の発見により、腎臓がんの異常増殖を抑えるためには、FLCN、FNIP1、FNIP2という遺伝子群の協調が鍵となることが解りました。今後はさらなる基礎研究によって、この遺伝子群による複合体形成の詳しいメカニズムの解明を行う一方で、将来的には複合体形成を促進するような、腎臓がんに対して有効な薬剤の開発を目指していく予定です。

※本研究成果は、科学雑誌『米国科学アカデミー紀要 Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)』に掲載されました。(米国東海岸時間3月16日午後3時付:日本時間3月17日午前4時付オンライン)

掲載論文
Folliculin-interacting proteins Fnip1 and Fnip2 play critical roles in kidney tumor suppression in cooperation with Flcn

Hisashi Hasumi, Masaya Baba, Yukiko Hasumi, Martin Lang, Ying Huang, HyoungBin F. Oh, Masayuki Matsuo, Maria J. Merino, Masahiro Yao, Yusuke Ito, Mitsuko Furuya, Yasuhiro Iribe, Tatsuhiko Kodama, Eileen Southon, Lino Tessarollo, Kunio Nagashima, Diana C. Haines, W. Marston Linehan, and Laura S. Schmidt
(PNAS 2015 ; published ahead of print March 16, 2015, doi:10.1073/pnas.1419502112)

(本資料の内容に関するお問い合わせ) 公立大学法人横浜市立大学大学院医学研究科 泌尿器科学

tel045-787-2679 (fax:045-786-5775)

mail蓮見壽史:hasumi@yokohama-cu.ac.jp

(取材対応窓口、資料請求など) 公立大学法人横浜市立大学先端医科学研究課長立石建

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