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【木原生物学研究所】佐久間助教が第126回講演会で日本育種学会優秀発表賞を受賞しました

2015.01.26
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【木原生物学研究所】佐久間助教が第126回講演会で日本育種学会優秀発表賞を受賞しました

本学木原生物学研究所植物ゲノム科学部門の佐久間助教が、日本育種学会第126回講演会において、優秀発表賞を受賞しました。


【学会発表タイトル】
ガンマ線緩照射による野生オオムギ突然変異集団の作製
(Development of wild barley mutant population induced through chronic gamma-ray irradiation)

佐久間俊1,2, Mohammad Pourkheirandish2, 中川仁2,3, 小松田隆夫2
  1. 横浜市立大学木原生物学研究所
  2. 農業生物資源研究所
  3. 現 国際農林水産業研究センター

学会発表要旨

 野生オオムギ (Hordeum vulgare ssp. spontaneum) は栽培オオムギ (Hordeum vulgare ssp. vulgare) と生殖的隔離がなく相互に遺伝子の交換が可能な一次遺伝子プールである。野生オオムギは二条性、小穂脱落性、種子休眠性などの特徴的な形質を示し、六条性遺伝子 (vrs1)、小穂非脱落性遺伝子 (btr1/btr2)、種子休眠性遺伝子など栽培化関連遺伝子のマップベースクローニングの遺伝解析材料として使われている。栽培化に関連する遺伝子座の多くでは野生種が機能的なアリルを持ち、栽培種で機能喪失している場合が多い。したがって遺伝子破壊法で栽培種からは得ることが出来ない変異体を野生種から得ることが可能であり、得られた系統は遺伝子同定や機能解析の材料としてきわめて有用である。これまで、ヨーロッパを中心に栽培オオムギからの変異体の作製がなされてきたが、野生オオムギを用いた突然変異集団の作製の体系だった発表はない。
 今回、我々は新規変異体の同定と逆遺伝学的な利用を目指し、野生オオムギ「OUH602」を用いた大規模変異集団の作製を行なった。生物研放射線育種場ガンマーフィールド(常陸大宮市)の線源から10-30mの地点に、10月下旬に播種を行ない、6月中旬の収穫まで全生育期間緩照射を行なった。生存したM1個体からM2種子を穂別個体別に袋かけ採種した。M2世代 (約5,000個体) とM3世代 (約5,000系統、1系統あたり10個体) における圃場での表現型スクリーニングの結果、既報の変異体 (六条性、小穂非脱落性、密穂、短芒、分枝穂、追加小穂、早生、晩生) に加えて、これまでに報告のない形態を示す変異体を2系統 (零条性, 超開花性) 同定した。これらの変異体はガンマ線緩照射で誘発した野生オオムギ突然変異集団の確かな有効性を示す。今後、同定した変異体の原因遺伝子の単離を進めていく予定である。

佐久間 俊 助教

研究内容

 麦類(コムギ、オオムギ、ライムギ)は世界的な主要作物であり、私たちの暮らしに欠かすことの出来ない植物である。しかしながら、地球規模の気候変動にともない、麦類の安定生産、安定供給が難しくなってきている。安定生産性や品質維持に関わる有用遺伝子の同定、機能解明を行なうことでこの問題に貢献できると考えている。特に麦類は穂の形態に多様な遺伝変異を示し、穂型の改良を通した多収性品種の開発が期待できる。麦類のモデルであるオオムギは、長年の研究により突然変異系統が多数蓄積されており、穂の形態形成遺伝子の単離と機能解明を行なう上で有用であり、実験材料として活用している。マップベースクローニング、次世代シーケンサーを利用した網羅的発現解析を駆使してオオムギの形態遺伝子の単離、機能証明を行なっている。オオムギで収量増につながる遺伝子を単離できれば、ゲノム構成が複雑で解析に時間のかかるコムギから相同遺伝子を迅速に同定することができ、品種改良にかかる時間を短縮できる。基礎的な分子メカニズムの解明を通して、多収性作物育種に貢献したい。
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