FUMIHIKO KAMIO & JIRO UNO Seminar05   FUMIHIKO KAMIO & JIRO UNO Seminar05

研究セミナー特集

Seminar05 地方公営企業と地方創生 人口減少社会の中、地方自治を支える地方公営企業に着目

開催日 / 2018年12月10日(月)開催
開催会場 / 横浜市立大学 金沢八景キャンパス YCUスクエア Y204
講演 / 神尾 文彦 株式会社野村総合研究所 社会システムコンサルティング部 部長・主席研究員
担当教員 / 宇野 二朗 教授

2. 質疑応答

セミナー写真1

【宇野】大変有意義なお話をいただきました。ではここからは、皆さんからの質問にお答えしていこうと思います。疑問に思ったこと、知りたいこと、なんでもおたずねください。


Q.今回の授業ではドイツをモデルにお話をされていたと思うのですが、日本がローカルリソースマネジメント的なものを取り入れるにあたって、一番の課題はなんだと考えていますか?


【神尾】はい。ちょっと抽象的にいいますと、地域への愛なのです。ドイツは愛があるのですね。地元が本当に好きなのです。日本は愛があるかないかっていうと何ですけど、やはり地方に行って、また戻ってきている人がいるのです。それはなんで戻ってきているかというと究極的には地域愛みたいなところです。もうちょっと愛が欲しいかな、日本は…。そんなふうに思いますね。この論で行くと、アメリカと中国はお金だと思います。お金を用意すれば地方に来るのか、愛を用意すれば地方に来るのか、そうではないのか、日本人は何に訴えかければ地方を盛り上げる人材が地方に向かってくれるのか、私自身も研究しなければならないところだと思います。


Q.私の研究では地域愛とか地元愛みたいなものに多く触れることがあって、経営と言うよりもまちづくりを市民の討議とか話し合いとか、市民レベルで作っていくということだったのですが、あまりこういう、企業の地域の財政みたいなところから考えることが少ないので、わからないことも多かったのですが、地域自身で自分たちの生活を整える、つまりインフラというものを構築する、そこではハードもそうだし、ソフト面もそうだったのですが、私も一番実感したのが、自分が住んでいるところをどういう風に考えるか。出てきたいのか、残りたいのか、本当に今個人レベルでは自由なので、地元に愛着を持つというのを最近私の研究でも特に言われているのですが、愛着を持てるかどうか。持ってもらえるにはどうしたらいいのかが鍵だなと思っています。質問ではないですが、講義を伺っていて一番思ったことでした。ありがとうございました。


Q. 地方公営企業がガスとかインフラ別に分かれているものを一括管理し、自分たちも活動を自分たちで守っていくっていうことに対して、確かに愛みたいなものとも考えられますが、危機感とも感じました。ドイツの例などをお聞きすると、仮に中央が駄目になってしまっても、自分たちでどうにかできるというシステムを自分たちで作り上げるといった、リスク管理もちゃんとしているのだなと感じたところです。愛以外のものも何かあるのじゃないかと感じたところであります。


【神尾】愛とリスクと経営と、この三つが重要で、それが地域を支えるキーワードだと思います。ドイツでもいろいろ悩んではいます。今日はこのキーワードをしっかり覚えて帰っていただければいいと思います。


Q.地方に若者を招く時にはどのように進めていくのでしょうか?


【神尾】先ほどお話したドイツのコーブルクという町の例を上げてみます。ここでは幾つかの段階があって、まずは出身地であるが、現在は、別の国、別の都市に行った人に対してしっかりPRしています。こんなにいい街になっていますよと。職もあります、企業も成長していますという点を、ダイレクトメールまでして伝えています。つまり、まずはちゃんと自分たちの地域をわかっている人たちにわかってもらう、ということをやっていました。あとはやっていることをPRしたり、視察に来たり、観光資源があるので、時々来る人に、一つは自然、一つはコンサートや劇場とかイベントとか、そういうものを見に来る若い人も結構いるのでこうした活動から入っていく方法ですね。その人たちに対してその地域の良さをその都度PRする、根強い活動をしています。自分たちの地域の出身者じゃなくても、関係人口と言って、そこに興味を持ったり関わりを持ったり、関心を持ったり、その人たちに対してその地域で住むことの意義、暮らすことの意義、幸せを訴えかけるような活動です。手帳のようなものもあって、コーブルクを本にしてこういうところがいいよ、というきめ細かく作った冊子を渡したりしていますね。そういう地道な活動をしていくことで、自分たちの町に関心を持ってくれる人を増やしています。
 日本でもいろいろとやってはいるのですが、あんまり不特定多数にPRしてもなかなか人は集まってきませんね。日本の場合は使命感に訴えかける、東京の大企業とか、地域に何か貢献したいという思いを持っている人にどういう風にアクセスできるかがすごく重要になりますね。今のところ、ネットでも対面でも難しいので、試行錯誤しているところだと思います。まずは、出身者には戻ってきてもらう、というのと、それ以外の人で、関心がある人に訴えかける。その辺りだと思います。

セミナー写真2


【宇野】私からも何点か質問です。大都市にローカルハブ、中核都市を作って、そしてそこをマネジメントする主体が必要ということでしたけれども、一方で民営化ということも進みつつあります。そうなってくると地方自治体はコントロールの可能性を失うということにもなります。そうした日本の現状の動きについてどのようにお考えでしょうか。
 もう一点は,ローカルハブになれない地域についてです。ローカルハブを作っていくという発想は非常に魅力的だとは思いますが、ハブにならなかったところも存在します。そのようなところの生活をどうやって維持をしていくのかという点について、このコンセプトの下ではどのような議論があるのかをお聞きしたいです。
 三点目ですが、最終的にこうした地方創生のあり方を進めていく際に、地方自治体、あるいは地方自治体の職員にとっては何が求められているとお考えでしょうか?


【神尾】一点目ですけど、統一なコンセプトがなく民営化が進んでいるのが現状かと思います。民営化の動きの中で、民営でできるところ(大都市等)は民営でやってもらうのですが、さっきの中核都市で、民営化が及ばないところはローカルリソースマネジメントで組み立てて、つまり分野をパッケージ化して、その上でPPP(Public Private Partnership=官民連携)なりを出していくというやり方が考えられると思います。
 二点目ですが、ローカルハブになりにくいところについてですね。一つは都市圏という一つの中でローカルハブになるところと一緒に一つの圏域を組む。ローカルハブに依存するということになるかもしれませんが…。それでも難しい場合は、極論にはなりますけど、国が直轄で、そこに補助を入れるということになるでしょう。ローカルハブは自立させてこそのものなので、そこに投入させる税金を抑えて、その分を回すと。そういう風になるかなと思います。
 三点目ですが、地域愛を持ってもらいたいなということと、なかなか難しいかもしれませんが、長期志向というか、その地方がどういう方向にむかって、そこに何があるべきかという、そういう新しい概念やコンセプトを共有してもらうことでしょうね。そこに新しい政策が生まれてくると思います。

セミナー取材にあたって

セミナー写真3

世界でも類を見ない少子高齢化と、間もなく始まる人口減少、それにともなう、地域産業の衰退など、課題は山積みにある中で、地域創生は常に問われる大きな課題であると思います。
一時期は何でも民営化と叫ばれていた様に思いますが、地方公営企業という言葉は、聞き慣れていたようでいて、実に新鮮な響きのある言葉だと感じました。また、ドイツで見聞きされた体験をもとにされたシュタットベルケのお話や、ローカルハブやローカルリソースマネジメントの必要性など、課題とともに、希望につながる解決策も垣間見え、聴講生の皆さんにとっても、有意義なひとときであったのではないかと思います。

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