NOBUHARU SUZUKI & RIKEN YAMAMOTO Seminar02 NOBUHARU SUZUKI & RIKEN YAMAMOTO Seminar02

研究セミナー特集

Seminar02 「開かれた大学と地域社会圏」 YCUスクエアの設計者と語る超高齢社会のまちづくり

開催日 / 2016年7月12日(火) pm6:00〜7:30
開催場所 / 横浜市立大学 金沢八景キャンパス YCUスクエア 1階ピオニーホール
講演 / 鈴木 伸治 研究科長 教授
ゲスト / 山本 理顕氏(建築家 横浜国立大学客員教授)

1. ゲストスピーカー 山本 理顕氏による講演

山本 理顕氏

Riken Yamamoto山本 理顕氏

山本 理顕氏

建築家、山本理顕設計工場代表、日本大学理工学部建築学科卒業
東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻修了
東京大学生産技術研究所原広司研究室を経て山本理顕設計工場設立

2000年より横浜国立大学大学院Y-GSA教授に。以降日本大学大学院特任教授を経て2011年横浜国立大学客員教授、山本理顕設計工場代表取締役を兼任。2016年春にオープンした横浜市立大学YCUスクエアの設計コンペティションで採用され、独自のコンセプトに基づきYCUスクエアを設計。

建築と社会のあり方をテーマに取り組み、「地域社会圏」という考え方を提示。著書に「地域社会圏主義」(LIXIL出版)「権力の空間/空間の権力 個人と国家の〈あいだ〉を設計せよ」 (講談社選書)などがある。

YCUスクエアの設計コンセプトについて

今、鈴木先生から紹介していただきましたが、この建物、YCUスクエアの設計者の山本理顕です。

今日はまずこのYCUスクエアがどうやってできたかというお話をしましょう。

実は学校という建物というのは一般的に非常に排他的なんです。例えば教室。普通は授業を行っている状態が、外からうかがい知れないように作られますね。なるべく授業を受ける環境を大切に、音も反響しないようにとつくります。先生方はその中のことはよく考えるんですね。どう授業を進めるとか…。じゃあそこで授業さえできればいいのかっていうのが僕の意見で、もっと開放的にできないのかと。ここも皆さんが座っている後ろがすっかり解放されていますね。YCUスクエアはそんな思想で設計しました。

そもそもこういう建物を設計するためには、プロポーザルコンペというものがありまして、設計者達がアイデアを競う訳ですね。このプロポーザルコンペで出されたときの設計要件は、300人教室が3つ、100人教室が3つ、それに50人教室で1700平米、学生の自主活動スペースに休憩室、それから学生受験生用相談ブースに自習室といった具合です。その他に倉庫とか、機械設備スペース等を入れて全部で3900平米の校舎を作ってくださいと言われた訳です。セミナー写真1その説明図によれば自習室や受験生用相談ブース、自主活動スペース、教室などが大雑把に示されているんですけどどうもピンと来ない。で、これを一回、全部解体して、プレゼンテーションギャラリーというスペースを設ける提案をしたんです、それからもうひとつ、スチューデントオフィスというものをあわせて提案したんです。この大学のホームページを見ると、地域の人と一緒に活動することも多いようですし、そういう地域社会の人たちと活動できるような場所を、学生たちのためのオフィスというふうに名付けて、そういう部屋をつくろうと考えました。全体として、外の景色とか、濃い緑と一体化した感じで、光も充分取り入れて、部屋と部屋の境を取り払ったような、そういった提案で組み立て直しました。プレゼンテーションギャラリーがあって、スチューデントオフィスがある。ここで研究したり、自主活動したり、研究成果の展示をしたり発表をしたりと。学生たちの活動がいつも見えているような風景になったらいいんじゃないかな、っていうことと、できるだけ地域社会に開かれるようなかたちで活動できる雰囲気づくりというのが、今回の提案の骨子だったんですね。提案が選ばれたあとはこちらにいる鈴木先生も参加して、デザインを検討する会議を開いてもらい、そこで今のような設計の話をしながら具体的に形作っていきました。最終的には、この提案がほぼそのまま実現し、細かい部分では建物内のサインは無印良品などのデザインをされているグラフィックデザイナーの広村さんという方に依頼し、家具も藤森さんという方にお願いして、こういうものができあがりました。こんどはこの建物を皆さんのアイディアで、もっと豊かに使ってくれればいいなと思います。

セミナー写真1

限界にきた現代の住宅と街

ここからは私の提唱する「地域社会圏」についてお話しします。先ほどご覧いただいたスライド、戸建て住宅が密集した空撮画像と、みなとみらいのマンションの写真ですね。これについて説明します。

まず、住宅の空撮の方ですけど、これを見てどう思いましたでしょうか? もう見慣れちゃって何とも思わないかもしれませんが、ここに誰が住んでいるかわかりますよね? もちろん家族です。お父さん、お母さんに、子どもたち、おじいちゃん、おばあちゃんがなんとか住めるぐらいの戸建て住宅がびっしりです。ところが高齢化が進んで2人暮らしとか、一人暮らしといった世帯がどんどん増えています。こうした住宅で本来あるべき家族の営みが壊れている、それを表しているのがこの空撮なんです。写っているほとんどの家は戦後サラリーマンとなった人で、つまり賃金労働者ですから、働いている時間にはここにいなかったはずです。それが高齢化してリタイアをすると、今度は働いていないひとり、ふたりがずっとここに住んでいる。これだけの広い住宅地で、誰ひとりお金を稼いでいない、といった状況すら考えられる訳です。高齢になって家のメンテナンスも充分にできず、かといって引っ越すわけでもない。建築家としてはこういうところに人が住んでいていいんだろうか、と疑問に思うわけです。

これに対して、もうひとつお見せした方の画像、みなとみらいのマンション、地上100メートルのマンションですね。こちらはどうかというと、これもまた問題なんですね。どういうことかというと、こうしたマンションはセキュリティー万全、プライバシーは完璧です、ということなんですけど、実はこれ、本質的に、先ほどお見せした空撮の住宅と同じことなんですね。

こうしたマンションの1階部分というのは玄関ロビーと駐車場の入口なんかで、ほとんど壁です。全部ロックされていて、他者を排除する住宅。人をあたたかく迎え入れる雰囲気なんてない世界です。しかもこうしたマンションでも当然高齢化が進んで行きます。

結局、コミュニティーとして成り立っていないという意味でどちらも人が住む環境としてどうなの?と考えてしまいます。どうしてこんなことになってしまったのかということですが、戦後の高度成長期と深く関係してくる話なのですが、1960年代の1世帯あたりの人数が平均して4人。戸建て住宅とともにいろいろなところに公団住宅が建てられました。セミナー写真2世帯主の多くの人がサラリーマンで通勤をする人たちですね。昼間は家におらず別の世界で生きています。だから帰ってきても家の外との交流はほとんどない。その時間もないという状態ですね。そうやって年を重ねてきた結果、現在では高齢化率が25%近くなり、2013年の1世帯の人数は東京では1.98人になってしまいました。こうしたモデルが限界なのは、誰が見ても明らかなのですが、いまだにデベロッパーはファミリータイプと言われる住宅を造り続けている。結果、さっきの写真のような人のいない住宅密集地と閉鎖的なマンションだらけになってしまったわけです。

そこで考えられるのが、次のテーマである私たちが提案している、地域社会圏という考え方です。これは1住宅1家族に変わって500人からせいぜい1500人ぐらいが一緒に住んだらどうだろう、という考え方で、なるべく多くの人が家業を持つ、ということが前提になる社会です。この500人ぐらいが一緒に住むということですが、これはパリのパッサージュという、18世紀から19世紀ぐらいにできた街に習うことができます。職住接近で、1階が店舗で2階が住宅、それらが併せて500世帯ぐらいというものです。屋根にはアーケードが掛かっていて雨にぬれずに生活ができるというつくりになっています。実はこれと似たものが横浜市にもあります。神奈川区六角橋の仲通商店街などはほぼこの形態を保っていて、いまでも活気のある街として栄えています。

もちろん全てのエリアをいまからレトロな六角橋にするというのは無理がありますよね。そこで考えたのが次世代型の地域社会圏と住宅、まちの作り方といったお話になります。

セミナー写真2

「地域社会圏」の実現で未来を創る

かつての京都の町家や江戸の町家、つまり商店街ですが、お店や職人さん達が働く場所で成り立っているところ、こうしたところは住むところと働くところが一体となっているのが特徴でした。これが崩壊したのは先ほども出てきたように戦後に多くの人がサラリーマンとして都会に出て働き始めたことによります。そこで新しい形の職住接近の街づくりがができないかというのが地域社会圏の考え方です。どのような方法を取るかというと、どんな小さな商売でもいい、なんらかの売り買いやサービスを提供することを皆がはじめて、ひとつのグループを形成します。この小さい単位のグループをSグループと仮に呼びます。だいたい5つから7つの世帯からなる集団で、これを可能にするのが、トイレやシャワーやキッチンを共有とした住宅の作り方です。それぞれが自分の商売に必要な最低限のスペースとプライベートに占有するスペースを1キューブという単位として借り受けます。1キューブは家族が寝たり、子どもが勉強したりするのに充分な最低限の広さだけを求めます。

こうしたSグループ6つぐらいに対して、エネルギー源をひとつ確保します。太陽エネルギーなどでまかなえる単位ですね。これをMグループとします。このMグループで生活の基本的なことを賄います。このグループ内でエネルギーを賄うというのは、現在問題とされている距離とエネルギーロス、つまり発電所と自宅が遠いほどエネルギーをロスする、実際に200キロぐらいの距離があると40%以上ロスするのですが、エネルギーを地産地消にすると、この効率が非常に良くて、作ったエネルギーを90%ぐらい利用することも技術的に可能になってきています。

さらにこのMグループが十数個あつまったより大きな単位の中で、スパやレストラン、コンビニレベルのやや大きな店を運営します。これで職住一体型の街づくりを行い、普段の生活はここで完結できるように工夫するというのが「地域社会圏」の基本的な姿です。

現在のマンションなどでは専用スペースが70〜80%、残り20%程度が共用部分となっているはずですが、これを思い切って逆転させることで生活のコストがものすごく安くなります。皆さんネットカフェに泊まったことはあります? ネットカフェを1ヶ月借り続けるとだいたい6万円掛かります。それがこの地域社会圏の住宅では1キューブあたりの賃料は34000円程度におさまる計算です。ネットカフェより安く暮らして行くことができます。

セミナー写真3

プライベートな空間を確保しつつ、生活のかなりの部分を他の人と共用することで、これまで隠れていたコミュニケーションも産まれ、多彩な年齢層が集まることで、高齢者の介護の問題もある程度解決させることが可能です。現在の高齢者介護は要介護1、2、3、4、5といった区分けがされていて、要介護の4、5にとなるとプロの介護が必要ですが、要介護1、2であれば生活援助が中心なので、これは地域社会の中の人たちが助けられるわけです。これも職住一体だからできることで、通勤する人ばかりでは、ちょっとした生活援助もできない。残念ながら、それが現代社会なんですね。

この地域社会圏を突飛で不可能なものと思わずに、ちょっとした意識改革と現在のテクノロジーで可能となる次世代のまちのイメージとして考えて欲しいです。また、これを窮屈と思わせない洒落たまちづくりをすることが「地域社会圏」に課せられる使命であり、これからの建築家が工夫しないといけない部分であると考えます。

地域社会全体と自分のことを同時に考える、こうした考え方は、ハンナ・アレントという人が、エレメンタリー・リパブリックと呼んで提唱しています。小さな商売をしている人たちが、自分たちで地域全体を支え合う関係性のことをいっているのですが、経済至上主義のひずみや超高齢社会の到来、その後に来る人口減少、あるいは、海外の人との共生といったさまざまな課題に満ちた現代にあっては、非常に高い可能性を持っているのではないでしょうか。

セミナー写真3