EIICHI YOSHIDA ADVANCED EXTENSION PROGRAM Seminar06 EIICHI YOSHIDA ADVANCED EXTENSION PROGRAM Seminar06

研究セミナー特集

Seminar06 アドバンストエクステンション講座 アフリカ現代美術への誘い グローバリゼーションとポストコロニアリズムの中で

※本講座は地域の方の生涯学習の一助として行われる公開講座です。
開催日 / 2019年11月16日(土)開催
開催会場 / 横浜市立大学 金沢八景キャンパス いちょうの館 多目的ホール
講演 / 吉田 栄一 教授

吉田栄一教授によるアドバンスドエクステンション講座

EIICHI YOSHIDA

吉田 栄一 教授

名古屋大学大学院国際開発研究科満期単位取得(国際開発学博士)、外務省専門調査員(在南アフリカ日本大使館)、アジア経済研究所などを経て、2011(平成23)年より現職。
アフリカ地域研究、開発地理学、地域振興に注力し、近年の研究例として、途上国の一村一品運動と地方開発、アフリカ大都市(ヨハネスブルグ)のグローバル都市化戦略、中国のアフリカ進出、対アフリカODA評価研究などがあり、アフリカに関連した多彩な活動を行う。そうした中で、アフリカの現代芸術の素晴らしさや、その背景、ヨーロッパや日本との関連性にも興味を抱き、自身の研究フィールドに加えている。

ポストコロニアルと深い関係にあった、アフリカの現代アート

 8月には、この横浜で第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が開催されるなど、2019年はアフリカへの関心が高まった年であったように思います。そうしたなか、11月17日土曜日15時より、YCUきってのアフリカ研究者である吉田栄一教授によるアドバンスド・エクステンション講座「アフリカ現代美術への誘い」が、金沢八景キャンパスで行われました。
 ご存知のとおり、アドバンストエクステンション講座(プログラム)は、YCU大学院 都市社会文化研究科が行う地域の方々の生涯学習支援の一環のプログラムであり、これを楽しみにしている市民の方が多くいらっしゃいます。
 吉田教授は、かつて在南アフリカ大使館において外務省専門調査員として活躍し、自身何度もアフリカ各地においてフィールドワークを重ね、昨今話題となる中国の進出に対する考察や、対アフリカODA評価などについて数多くの研究成果を持っています。そんな教授が深く語る「アフリカ現代アート」とはどのようなものか? そもそも何故に芸術に関する講座を設けられたのか、興味津々といった雰囲気の中で講座は始まりました。
 教授は冒頭の説明で、自分は美術の専門家ではなく、社会科学者であること、地域開発などが専門であると明言したうえで1990年代、外務省の仕事でアパルトヘイト下の黒人居住区の調査を行っている頃より、ヨハネスブルグで伝統的なアフリカのアートに触れ、その後南アフリカの外から持ち込まれる現代アートの存在感に感動し、1995年、我が国のアフリカ文化研究の第一人者・白石顕二氏との出会いを通して、より深くアフリカの芸術や文化についても考察するようになったことを述べられました。さらに2001年〜2002年、ウガンダのマケレレ大学に研究留学をし家具木工研究及び都市研究を行っているときに、首都カンパラで眼にした数々のアフリカ現代アートの色、空間、人々に「溺れた」という表現を使うほど、アフリカ現代アートにのめり込んでいったと述べられます。
 さらに、世界地図が2つ示され、そのうちの一つは私達がよく見る「メルカトール図法」で、もう一つ示されたのが「ピーターズ投影図法」です。どちらも球体である地球を平面で表しているので、各国・各大陸の形は正確ではないのですが、極に行くほど面積が肥大化する「メルカトール図法」に対して面積をできるだけ正しく表示するように調整された「ピーターズ投影図法」でみると、アフリカはヨーロッパ、ロシア、北アメリカなどに対してかなり大きいことを視覚的に見せてくれます。日本や中国も大きめに見えます。しかし、普段使われるのはあくまでも「メルカトール図法」であり、その理由は、北半球に位置する欧米の植民地主義の思想が背景にあることがわかります。ヨーロッパ、アメリカは大きく見えるほうが都合が良いということです。
 南アフリカで顕著だったように、白人による黒人差別は根深く社会の記憶に刻まれており、独立後今日に至るまでに起きた政治や社会の変革を、アフリカの現代アートは実に感性豊かに反映し、あるいは発展して、ヨーロッパやアメリカにも入り込んでいったことが語られます。そして、そこで重要なのが「ポストコロニアル(ポスト植民地主義)」の考え方であると述べられます。ポストであるから次の主義かというと必ずしもそうではなく、植民地が開放されたあとも、その思想は引きずられるということです。そこで起きたのがアフリカ人の意識革命であり、そこにも芸術は深く関わってきます。講座ではそうした流れの説明とともに、1998年頃より日本で開かれたアフリカンアートアートの展示会の様子と、作品が順に示されていきます。1998年東武美術館での「アフリカ・アフリカ展」、2003年〜2005年の「アフリカのストリートアート展」、2006年の「アフリカ・リミックス展」、2010年の「ウィリアム・ケントリッジ展」、2012年の「ビーズインアフリカ展」、2017年の「サプール平和をまとった戦士写真展」等々、その数の多さに驚かされました。
 そうした中でも大規模展は視点がアフリカに寄り添っていないことがあったり、逆に例えば2019年福岡市美術館での「イシカ・ショ二バレ」の作品展示などは、アジアや欧米だけに固執しない真のアフリカ・ポストコロニアルが感じられたことなど、アフリカ研究の第一人者である教授ならではの視点や感想が聞けたことも収穫でした。さらに、欧米から離れたところで創作されている芸術ということで、アフリカの芸術と日本の芸術には共通点が多いという指摘もあり、アドバンストエクステンションプログラムならではの深い考察にあふれた講座でした。