FUMIHIKO KAMIO & JIRO UNO Seminar05   FUMIHIKO KAMIO & JIRO UNO Seminar05

研究セミナー特集

Seminar05 地方公営企業と地方創生 人口減少社会の中、地方自治を支える地方公営企業に着目

開催日 / 2018年12月10日(月)開催
開催会場 / 横浜市立大学 金沢八景キャンパス YCUスクエア Y204
講演 / 神尾 文彦 株式会社野村総合研究所 社会システムコンサルティング部 部長・主席研究員
担当教員 / 宇野 二朗 教授

1. ゲスト 神尾 文彦氏による講演

神尾 文彦氏

FUMIHIKO KAMIO神尾 文彦氏

神尾 文彦氏

 慶應義塾大学経済学部卒。株式会社野村総合研究所 社会システムコンサルティング部 部長 主席研究員を務める。
 社会インフラ政策に寄与する公的組織の改革等の業務に関与し、総務省、横浜商工会議所などの委員を歴任。
 また、海外の自治体や公営企業のあり方に詳しく、欧米の公的組織が、どのようにして地域の民間企業や住民と連携して発展を支えているか、といったことについて、フィールドワークを積極的に行い数多くの事例に触れた上で、独自の分析を行う。
 また、高齢化や人材不足、中国をはじめとするアジア圏各国の台頭に伴い、我が国が直面すると想定されるさまざまな課題に対して、経済、社会、文化的な側面から、日本の地方公営企業や自治体ができること、行うべきことを研究し、地域創生の実現のためのさまざまな提言を行っている。

宇野 二朗 先生

UNO JIRO宇野 二朗教授

宇野 二朗 先生

 横浜市立大学国際総合科学群人文社会科学系列教授。
 早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程単位取得退学後、 札幌大学を経て現職。
 専門分野は地方自治論、行政学。
 特に地方公営企業制度を研究している。

(宇野教授)
 本日は、特別に講師の方をお招きしての授業になります。地方創生と地方公営企業についてお話いただきます。
 皆さんが地方自治を勉強するにあたっては、地方自治体の仕組みですとか、中央政府と地方政府の関係、あるいは地方自治体における住民参加のあり方を選挙なども含めて学んでいらっしゃると思いますが、同時に地方自治体は、地域社会や地域経済に対して、自治体自身がさまざまな働きかけを行うという側面を持ちます。本日はそうした観点から、人口が減少していく日本の社会において、地方自治体がどのような働きをしているのか、そして今後はどうあるべきなのか、そうした点を考えていきたいと思います。今回はその中でもとりわけ、地方自治体が直接サービスを供給し、あるいは経済活動に働きかけをしている分野として地方公営企業という分野に着目をしてお話をしていただこうと思います。
 本日お話をしていただくのは、野村総合研究所の神尾部長です。神尾部長は慶應義塾大学経済学部を卒業後に野村総合研究所に入職をされました。都市地域戦略、道路、上下水道の社会インフラ政策、公的組織の改革等の業務に関与されております。これまで総務省、それから横浜商工会議所などの委員を歴任されております。また、来年度には内閣官房の地方創生に関わる検討会の委員を務める予定です。では、神尾部長、本日はよろしくお願いします

我が国において、地方創生は急務と言える重要課題

みなさんこんにちは。神尾です。本日はよろしくお願いいたします。
 先生からご紹介いただいたテーマで一時間弱くらいになりますが、大きく3点についてお話をさせていただきます。1点目と2点目が地方創生の話です。公営企業の話は3番目に出てきます。
 まず国の委員会などでも、必ず出てくる、地方創生というのがあります。それからその前に国土政策というものもあります。そして議論をしていくと大都市の地方分散、そういったことが課題として出てくるのですが、それを語る上で必ず出てくる図表があります。(図表を示し)この図表の3大都市圏を説明します。東京圏は1都三県、東京、神奈川、千葉、埼玉を含んでいます。大阪圏は大阪府、それから京都、兵庫です。それから名古屋圏は岐阜、三重、愛知県。この三つの都市圏の県域を大都市圏と呼び、それ以外を地方圏と呼びます。こちらのグラフですが、0から上が入ってくる数字は、入ってくる人数の方がどれだけ出て行く人数よりも多いかというのを示しているグラフです。逆に0から下、地方圏からは人が出て行くということがグラフに現れています。ご覧の通り、地方圏は人口減少になってもう10年ぐらい経っているわけですね。人口減少が起きたのは、おそらく江戸時代も含めて、1000年単位で初めて人口が減ったと言われているのですが、実は大都市圏と地方圏の関係においては、たとえ人口が減っても、今なお、特に東京圏の人口が顕著なのですが、地方圏から人が入り続けているという現状があります。一番直近で、東京圏に100万人強の人が入っているということです。大都市と地方圏の間の人の流れというのは、一時期縮まったのですが、1995-6年から2017-8年までの20何年間はずっと東京に人が入り続けているということです。あまりにも大都市圏に人口が集中するのは良くないということで、国もこれまでいろいろな施策を打っているんです。テクノポリスとか、いろいろなことをやってきて…。ところが国がこういう政策を打てば打つほど地方圏から東京にくるということで、私も一緒になって手伝って調査したのですが、地方分散の政策を打っても、人はそれになびかない。そんな状況がずっと続いています。
 人口が減るということは大きな転換点としてあるのですが、東京から地方への人の移動(逆流)はなかなか難しいことです。それにチャレンジしていくということが地方創生の政策ということであります。一部には東京に集中すれば日本の活力は維持されるはずだ、という意見もあります。それも一理あるとは思うのですが、例えば、税収、お金の流れについて考えると、そうも言っていられなくて、大都市と地方というより国と地方の関係なのですが、日本では国に45%、地方に55%、つまり税収の半分近くが地方に行っています。しかし地方は結局収支採算が悪く、少し言葉は良くないですが、損失を補填するという形で20兆円近く、のお金が地方に行っている計算になります。こちらの例を見てみますと、これはイギリスですね。イギリスは徹底的に国集権となっています。税収はまず国に行って、国から補助金を中心としたひも付きの支援が地方になされています。しかし地方にも頑張ってもらい、結果的に一部穴埋め的なものでお金が国から地方に回ります。セミナー写真2活力のある地方が生まれてくればこのお金がどんどん減っていくわけです。日本においてもこうしたお金を別の産業の育成に使ったら国力は伸びるのではないかという意見もあります。さらにドイツの例を見てみると、ドイツは州が中心になっていますので、州間の助け合いも行われていますし、州が自立しているので、地方に支援する額というのは日本より一桁小さくなっています。とにかく日本の今の地方の現状では国としてもプラスアルファの税金、財政支出をしなければいけない。それがこれからも続くかもしれない、ということが背景にあり、地方創生は急務ではあるわけです。
 消滅可能性都市という、市町村がなくなってしまいますよ、という警鐘を鳴らしました。900市町村以上がこれに該当するということです。これは20代から39歳までの女性が2040年までに半減すると、その地域の人口が増えて行くということは難しいという仮定の元で計算しているわけですね。少子高齢化に伴い、そうした消滅可能都市もなんとかしなければいけないということで、2014年に地方創生という政策の枠組みが作られました。

地域の中で世界と戦える、グローバルな視点が
これからの地方の拠点に必要となる

さて、地方創生に関連して、大きな課題が2つ出てきました。最初に大都市圏への集中を是正すること、それから消滅可能性都市をなんとかしないといけないということです。実は東京にも消滅可能性都市や区があり、それもなんとかしなくてはいけない。そういう背景があって、地方創生という政策が実現されたということです。ですがやはり、中長期的な目標は2060年の時に人口が1億を割らないということをもとに建てられています。加えて東京から地方圏に人口を分散する。大きな二つの目標のもとに動き出しているという状況です。遠くの目標ということでありますが、具体的にやっていることはここ5年間の地方活性化のための戦略作りとその人口対策。それに対して国が財政支援を中心としたさまざまな支援をするということです。2015年から2019年度、この5カ年計画を各自治体に作ってもらっています。これは地方版のまち・ひと・しごと創生戦略と地方人口ビジョンと呼ばれるもので、ほぼ100%の地方自治体でこの5カ年の計画を作りました。 最近ですと地方創生の計画を作り、事業を推進することを支援するのに加え、個別テーマを決めて支援する動きがあります。
 地方の国立大学改革や、空家や遊休資産の有効活用さらには一部中央から政府の機関を移転することなども検討し、一部は実現しています。
 ただ現在の課題は、これらの施策を一通り実施しても、地方圏から東京圏への人の動きが変化していない、むしろ増えているのです。五ヵ年計画の中で、比較的成果を出しているのはどちらかといえば中小の市町村なのです。ただその取組みを重ねても、大都市圏から地方圏に人が動くというところまでいたらない。やはり人が動くためにはもっと力強い地方を作っていかなければいけない。
 我々も全ての市町村のポテンシャルを引き上げたいと思っていました。ただ力強い地域というのは全国の中でもそうそう多くはないので、まずは成長のポテンシャルがあるところに支援を集中しようという意見を出しています。人口と生産性。可能性のあるところからやっていったらどうかと。大都市圏と地方圏の生産性を上げる部分を政策的に分けて、それで特に地方圏の場合は、中枢拠点といわれているものを選択的に選んで、そこに集中的に投資したらどうだろうと提案させていただきました。もしこれが難しければ、行政費用の方を減らしていって、収支をなんとか均衡するしかないのではと、そのようなことも言いました。その意見については、コストを下げてコンパクトシティをつくっていこうという、これはこれで一つ大きな議論もでてきました。ただ、これを詳しく言いますと、論点がずれてくるので、今回はコンパクトシティ構想にはあまり触れません。地方創生のポイントは稼ぐ力である、といったところでいくと、メガリージョン(大都市とその周辺都市で構成される新しい経済活動単位)と言う言葉で表現しているのですが、例えばリニアができると東京から名古屋・大阪までが一つの圏域になって、スーパーメガリージョンとなります。あわせて国際化に対応できるような都市を創造していくことが求められていきます。国内外からさまざまな人が流入してきても、生産性が高まるなら受け入れようとする都市です。セミナー写真3例えばロンドンの人口の4割がイギリス以外の国籍をもった人です。ロンドンの経済を引っ張っているのはオランダだったりデンマークが本社の企業であったり、中国系の企業であったりするわけです。東京の場合は外国人比率が高まってきたことが注目されますが、ロンドンにしろ、シンガポールにしろ、東京とは桁が違います。そう言った国際都市を目指すというのは一つの方向性だと思います。そしてメガリージョンを考えた時に地方圏の拠点都市っていうのはどのような成長の姿が考えられるのか。これを考えていかなければなりません。そのひとつの答えがローカルハブという考え方です。概念としてはグローバル。人口が減っていきますからやはり人、モノ、サービスをグローバルな方向に持っていく。そこから人と物と金をしっかり呼び込んでくる。こういうことを各拠点がそれぞれできれば可能性が広がります。これは空港などのハードな問題にこだわらずとも、最近のデジタル化、ネットワーク社会では、いろいろな形で企業も売り込むことができるはずです。これらのことは今まで東京が担っていた側面があります。巨大な国際ハブ空港もあり、企業の本社が集中しており、証券取引所もある…。地方圏はその東京圏が日本の経済社会を牽引する力を維持・高めるために、人材を供給し、所定の財政支援を受ける。成長時代にはこのような相互依存が築かれていました。ところが先ほど申し上げたように、実は今東京圏も大変です。例えば本社立地を巡ってシンガポールと戦わなければいけない。香港、上海と戦わなければいけないという中で、地方圏への支援をするある種の余裕はなくなってきています。そのような事情もあり、地方圏もそれなりに独立して経済を回していかなければいけない。地域を単位に自立した経済を構築するという、構造転換をしていかなければいけないでしょう。要するにその地域の中で世界を舞台にビジネスを展開できる企業をどれだけ作っていけるかということが課題である、その認識が必要だと考えています。