FUMIHIKO KAMIO & JIRO UNO Seminar05   FUMIHIKO KAMIO & JIRO UNO Seminar05

研究セミナー特集

Seminar05 地方公営企業と地方創生 人口減少社会の中、地方自治を支える地方公営企業に着目

開催日 / 2018年12月10日(月)開催
開催会場 / 横浜市立大学 金沢八景キャンパス YCUスクエア Y204
講演 / 神尾 文彦 株式会社野村総合研究所 社会システムコンサルティング部 部長・主席研究員
担当教員 / 宇野 二朗 教授

1. ゲスト 神尾 文彦氏による講演(続き)

ローカルハブの概念を導入することの必要性

セミナー写真1

そのためにどうするか?最初からベンチャーが次々と生まれ成長する構造ができれば問題ないのですが、大企業の力も必要です。
今、例えば小松製作所が石川県に重要な機能(人材育成機能)を移しています。そもそも地方で発祥している企業が東京で成長している企業が結構あります。カルビーという会社は広島が発祥なのです。そういった企業が発祥の地に戻って本社、または重要な拠点を移してくれれば、そこからまた新しいビジネスが生まれるはずです。

とにかくその地域でグローバルに稼ぐ力を持つ企業がいかに育っていくか。これができる地域がローカルハブとなります。例えば、中枢・中核都市と称される、これは人口規模的には東京に伍していけるポテンシャルの高い都市です。ただその人口規模に比して外貨を稼ぐ都市構造になっているか、そこが課題になっています。人口で言えば東北における仙台、九州における福岡、北海道における札幌などは周辺からどんどん人を集めてきています。ただこれも周辺から流入する人口が少なくなると、仙台や札幌や福岡自身もいずれ人口が減っていく。そうした時に、例えば今まで仙台市を支えていたのが、東京の企業の支店だとしたら、その東京の本社が例えば諸外国との競争に敗れたり、シンガポールなど他の海外都市に移ってしまったらどうなるでしょう。おそらく稼ぐ力を失い衰退してしまうことも大いに考えられます。そこで、仙台市は自らグローバルなマーケットの中で稼ぐ産業を作っていかないといけない、となっていくわけです。そういった意味で、日本の中枢都市や中核都市も、ローカルハブという考え方で見直していくことが、これからの地方創生の重要なポイントになるだろうと考えています。

とはいってもこのローカルハブなる、高い生産性を持った都市というのは、実際には皆さんの中でもイメージが湧きにくいかなと思います。これについては、海外・ドイツが参考になりますので、次に紹介したいと思います。

ドイツの地方都市に見られる地方創生のひとつの形

私は3-4年前から、インフラ政策、地域活性政策などにおいてドイツが非常に先進的だということを聞き、ドイツの社会経済システムについて事例研究しています。ドイツで活気がある地方都市を調べながら実際に現地に行ってフィールドワークを行い、それを分析したりしてきました。まず、ドイツでは、GDPが市町村単位で比較的揃っています。400市町村(郡や都市圏をイメージ)の人口と生産性(GRPを人口で割ったもの)をみると、20万人前後の都市で高い生産性を有していることがわかります。ドイツ全体人口が約8000万人なので、日本でいえば30万人前後の都市になるでしょうか?日本は東京に一極集中しているので、東京が生産性も高く、人口も多い。ところがドイツの場合は分散しているので、人口がそれほどでもなくても生産性が高い都市があるわけです。フォルクス・ワーゲンのあるフォルクスブルグ、そしてアウディの本社があるインゴルシュタットなどが上位に位置しています。それ以外にも企業の本社や重要な拠点を持っている都市の生産性が高い。ハンブルグは洋上風力発電が盛んです。北海に面しており、風力がある。そこで風力発電に関する会社の重要な拠点が置かれています。
 そしてもっと小さな街で頑張っているところもあります。レーゲンスブルグというところは12万人くらいの街ですが、中心街は朝からすごく賑やかです。写真をお見せしますが、こんなコンパクトシティです。ここには海外の企業の本社が集まっています。市の6割が海外から収入を得ているということです。またBMWという大きな企業がドイツにはありますが、そこからスピンアウトして事業を起こす人が結構いて、それをレーゲンスブルグが地域で応援するといったこともあるようです。一回ここで事業をおこしたら本社は移さない。行政を含めて、そこに本社があることを応援してくれるのです。就業環境を改善したり、豊かな居住環境を創造しようと試みる。そうすると、企業側もこのレーゲンスブルグで事業をすることに価値を置くようになる。ドイツ人は企業に勤めるというよりも、気に入った街で働くことに価値を置く傾向が強いので、例えばレーゲンスブルグという町を気に入ってしまえば、世帯をもち、住宅を購入すれば、もうあまり転居をしないのです。そのため定着率は相当高い。
 もう一つエアランゲンという街があります。ここにはグローバル企業であるシーメンスのヘルスケアテクノロジーの本社があります。シーメンスの大きなビルが街中にあることがこの都市の経済を支えている一つの象徴になっています。なぜかというと、ここでは地域で医療系を始めとしたベンチャーを育てています。育てたベンチャーは最終的にはシーメンスの一つの部署になる可能性もあります。セミナー写真2新薬の開発はリスクが高いので、シーメンスでは自分たちだけで全部のリスクを負うのではなく、ベンチャー企業に研究開発の資金を拠出し、成功したらオプションとして買収する。そういった契約も多くみられます。このように大きな企業があっても、地域の企業と一緒になって地域を支える構造ができていることがすごく重要です。なんでシーメンスが来たかというと、医療系の大学がここにあるというのが大きなポイントですが、そこからもベンチャーに対して出資をしたり、人材を派遣したりしています。
 そして最後にコープルグという街を紹介します。ここには最近行ったのですが、人口4万人もいないのに生産性がベスト10に入っています。ここでは専門職大学があって、いろいろな企業の経営者に経営変革の指南もしています。昔家具を作っていた企業が、自動車のバルブにシフトし、センサー製造に変革するためにどうすればよいか、といったアドバイスをしているわけです。多様な産業が時代環境にうまく適応して、常にその地域の経済を支える産業として生き続けるということができているようです。この専門職大学の存在が非常にキーポイントだと思います。鍵となっているのは循環ということで、その地域の中で企業が生まれ、中堅企業になり、グローバルに活躍します。大学や企業の本社が地域のために応援するということです。日本の場合、多様な産業があって、しかも本社もある都市としては、京都ですね。任天堂、島津製作所、京セラ、オムロン、それからワコール。いろいろな本社があり、すべて京都のコミュニティの中でグローバル化を実現しています。この京都などはドイツの街に近いモデルを有していると思いますが、みんなドイツや京都のようにはなかなかなれない、これが日本の実情で、悩ましいところです。

地域経済の基礎を固める公営企業の役割と地方創生

日本では、企業城下町といったところはここで新しいビジネスを産んで本社に育てられれば発展することも可能でしょう。こういったことができると日本の都市の中でもローカルハブなるものができてくるのではないかと考えます。つまり、ローカルハブが成立するには、その地域で経済をまとめる存在が必要です。誰が主導しているか、企業の行く末を監督しているか、誰が自分たちの生活を管理しているか。その真ん中に優れたマネジメント組織が必要になってくるわけです。これを私はローカルリソースマネジメントと呼んでいます。経済を発展させるためにはインフラの整備、充実というのはすごく重要な意味を持ちます。インフラといっても高速道路などハードインフラももちろん重要ですが、それ以外でも、犯罪率の低さとか、女性の就業率とか、障害者の雇用の環境なども重要な要素です。また近くに家族で楽しめる自然公園があるかないかとか。そういったハードとソフトのインフラが整っていないと企業も人も来ない。なのでやはりハードプラスソフトインフラ、こういったものがいかに良質な状況で維持管理されていくか。この基礎固めが都市の競争力を高める源泉となります。そこをトータルでマネジメントする組織が機能しているかかがすごく重要です。ローカルリソースマネジメントには、このインフラ経営と経済政策。政策的なものとインフラと両方で攻めと守りで組織が機能しているのです。こういった組織があるかないかというのは地方の都市がこれから成長する絶対的なインフラになるわけです。そこで地方公営企業の存在が重要性を帯びてきます。
 ドイツに話を戻しますが、ドイツでは、政策側に対しても、商工会議所が中心となって、中小企業の育成をするだけでなく、その都市の経済力を高めるために機能することが求められています。商工会議所は全企業の参加を前提としています。インフラの整備・管理という観点でみると、地域をベースとした公営企業によるユーティリティサービス、つまりLPU(Local Public Utility)という組織が、ドイツの中で存在感があるようです。LPUはドイツで400強くらいあると思うのですが、トータルで73万人くらいの雇用を維持し、予算規模も1670億ユーロです。こういうサービスがあることによって、地域に根ざした産業が生まれている。そんなイメージです。ドイツ各地域で、シュタットベルケという、地域をベースに複数の分野にわたってインフラ経営をするという主体・受け皿ができています。これにもいろいろあって、水道だけもあれば水道と下水道、水道と下水道と路面電車というように、さらには熱供給まで公営企業が地域でやる場合もあります。ここで行う事業の内容と収支の関係では、生活に近いものと経済活動に貢献できるもの。このバランスを見ながらトータルで収支を合わすということをやっているのが基本のようです。
 ミュンヘン市のシュタットベルケはもはや一つの大きな企業のようになっています。電力やガスなどエネルギー事業が主軸ですが、民間企業と同じく企画・経営戦略や広告の部門もあります。いかに安定して低廉なインフラコストを実現し、競争力のある企業を誘致するか、公営企業が積極的に取り組んでいます。こういった公営企業は都市の経済力と密接に関わっていますし、単に守りの公営企業ではなくて、経済力を高める攻めの公営企業に近いような形です。
 もうひとつ、シュタットベルケの例としてはマインツという地域を上げてみましょう。ここは20万人くらいの街ですが、ここも公営企業がいろいろな分野に関わっています。そこまでと思うくらいの多角経営をしています。WiFi基盤の整備、情報通信、電気自動車、さらには水素。こういった新しい領域に対しても、場合によっては別に電力会社に出資して配当までもらっているという状況です。もう株式会社なのか地域の公営企業なのかわからなくなっています。マインツの市出資の公営企業という形ではあるのですが、市に対して配当を出すぐらい収益も出しています。地域の拠点都市にこういった企業体、電力会社やガス会社がもっと地域のサービスや交通も含めて発展しているというようなイメージだと思います。 このようにドイツでは、いろいろな形でうまく収支を保ちながら地域でインフラを最低限度のコストで運営しようとする姿勢が見て取れます。ただ、水道事業や交通事業は地域の人口に依存します。人口が減っていくとやはり経営が成り立たなくなります。
 このシュタットベルケは現在では、シュタットベルケ自体を買収したりシュタットベルケ間を統合したりする動きも最近出てきています。結局は全ドイツがシュタットベルケ一つの株式で持ち合ったりする可能性もあります。その動向は今後も注目すべきでしょう。

地方創生のために日本が抱える課題と解決策とは

ここまで、ドイツを中心に地方公営企業がどのように機能しているか、実例を見てきました。翻って、日本はどうか、ということが私たちにとっては何より重要ですね。日本の場合はなかなか難しいところがあって、ドイツにおけるシュタットベルケの基軸は電力だったりガスだったりするのですが、日本の場合しっかりした電力会社もガス会社もあるわけです。ですので、例えば太陽光とか風力とか再生可能エネルギーなどを中心とした地域新電力という会社がどんどんできつつあるのですが、既存の電力やガス会社の存在が大きいので、新規参入者はなかなか経営が難しくなっています。もう少し大きいところで、こういった仕組みがうまくいけば、日本もローカルパブリックユーティリティーズとか、シュタットベルケのようなものがうまく機能していくのではないかなと思います。そういった意味で今注目している地域の一つに宇都宮市があります。宇都宮のような中核的な都市で、地域新電力や次世代の交通システムの経営がうまくいけば、シュタットベルケが日本で定着していくかもしれません。
 シュタットベルケもローカルパブリックユーティリティーズも、その目的によってさまざまなかたちがあります。都市経済と一体化させるのか、地域のインフラを総合的に管理する主体として位置させるのか、あるいは人口が小さいところでいかにコンパクトに水道も下水道も経営するか、などで事業内容や予算規模も違ってきます。日本の場合ですと、日本海側では、大津市などを含めて企業局と言われているところで、上水道も下水道もガス事業も行っているところもあったりします。そこで人材の共有化やマネジメントの多角化による難しさが出てきます。水道の管理をやっている人は下水道の管理、ガスだと電気が必要だとか、いろいろあるのですが、できる限り技能や技術を共通化することで業務を多角的にマネジメントし、今より少ない人数できちんと管理もできるようにしていくべきだと思います。
セミナー写真3 海外ですとベルリンウオーターのように一時期民営化を果たして、海外展開までしようとしているところが、むしろ国内のベルリン市のインフラ、水道以外のエネルギーも含めて、地域のユーティリティ会社になるべきだという意見がベルリン市民の間で広がり、再公営化に方向転換する事例もありました。そういう意味で地域のインフラのあり方というのは完全に民間を入れてやるやり方もあれば、このように公営の形態を維持したまま、地域の総合インフラ企業を目指すものもあります。その地域にふさわしい形を見つけるのが一番望ましいのではないかと思います。 日本の場合は、中核となるエネルギーとか電力改革がどうなっていくのかがすごく重要ですし、水道とかいろいろな分野が民営化も含めて変化してくる、地域でなかなかコントロールしにくくなってきます。
 デジタル化の流れが、地域ベースでインフラ事業を再編する可能性を高めます。これは電力のブロックチェーンと言われているような新しい仕組みが入ることで、地域をベースに再生可能エネルギーでビジネスができるのでは、とか、地方創生で先程述べた中枢中核都市の育成が入ってくると、そこをしっかりマネジメントするような組織があればうまくいくのでは、など、課題と解決策も見えてきます。技術的な動向と制度、政策、こういったものがうまくマッチすれば実現に近づくのではないでしょうか。
 地方創生に関して言えば、地域をベースに地域活性化に資するという視点でインフラを管理するような主体を根付かせていくことが重要です。その一つの答えが地方公営企業にありそうだと思うわけです。以上になります。ありがとうございました。