データを重視した研究で、
世の中のできごとの本質を見極める

国際総合科学群 税務会計論 准教授

高橋隆幸

たかはし・たかゆき

高橋隆幸

実証研究により明らかになった、企業の税金対策

海外と日本の税率の違いによる影響を調査

 私が最近関わった研究では、日本企業が持つ海外の子会社で、法人税率の低い国の子会社ほど利益率が高いとする仮説を証明したものがあります。企業はさまざまな国に子会社を作っていますが、それぞれの国により法人税の税率が異なります。そのため、企業全体としての収益が同じだとしても、どの国に子会社をもち、どの国の子会社の収益が多いかにより、全世界における納税額は大きく異なります。
 要するに、企業は税率の高い国の収益を税率の低い国に移せば、企業全体としての納税額を抑えることができるということです。これについては、グローバルに事業を展開する大企業が納めている納税額が、事業規模に比べて驚くほど少ないという批判的な報道を受け、たびたび話題になっているので、耳にしたことがある人は多いかもしれません。
 しかし、それはあくまで推測であって、実証理論による研究はほとんど行われてきませんでした。そこで、私は国内のグローバル企業を対象に研究を行った結果、日本のグローバル企業も海外のグローバル企業と同じように、税負担を意識して経営を行っていることが明らかになりました。

 

拡大するグローバル経済に合わせた制度改変

 前述したものは、税率の高いA国で得た収益を、税率の低いB国の収益として移すケースでした。では、税率の低いB国の収益を、税率の高い日本に戻すとどうなるでしょう。従来の日本の制度では、たとえ現地で法人税を納めていても、日本の税率との差があった場合、その差額は日本に納税しなければなりませんでした。そのため、企業にとってみれば、B国で得た収益を日本に戻して税金を払うより、そのまま海外で再投資した方が合理的だという話になります。そうすると、日本にとっては好ましくない状況になってしまいます。
 そこで、現在の日本の制度では、外国企業であっても一定の要件を満たす子会社であれば、その配当の95%までは益金[keyword1]に算入しなくてもよいということになっています。とくにグローバル化が進む昨今、日本企業による海外投資はますます増えていますので、この制度改変は時代に合った政策だと言って良いでしょう。
 私は、この制度に関して、改正前と改正後のデータを収集し、企業が経営上、自由にお金を回せるようになったかどうかを研究しました。現在、その結果を表すデータは集まりましたが、まだ論文にしていないので、近いうちにまとめる予定です。

Keyword 1益金
資本などの取引によるものを除いた、法人の資産の増加をきたす収益の額。法人税法上の用語で、課税所得の対象となる収入のことを指す。法人税は、この益金から損金を引き、税率をかけて算出される。

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