データを重視した研究で、
世の中のできごとの本質を見極める
国際総合科学群 税務会計論 准教授
高橋隆幸
たかはし・たかゆき

研究の中心は規範理論から実証理論へ
数学的な根拠に基づいた客観的な分析が重要

高橋隆幸たかはし・たかゆき
国際総合科学群 税務会計論 准教授
(大学院)国際マネジメント研究科
私の研究テーマは「法人税および所得税について、租税が納税者の意思決定に与える影響」です。与党税制改正大綱に明記された2015年度からの法人税減税は、アベノミクスの目玉政策と位置づけられていたこともあり、「法人税減税の賛否についてどう考えるか?」と聞かれることがよくあります。世の中には、「これが正しい」と言えるものばかりではありませんから、こういうものに正解はないと思っています。
法人税減税の賛否についても、例えば「減税により企業の手持ち資金が増え、設備投資に使われれば景気回復につながるだろう」などと持論を展開される方がいますが、これはあくまで推測であり、私には根拠が乏しいように感じます。
大学での学びについても、正解のないものの中から、さまざまな研究を行い、自分の意見を確立させていくことが多くあります。ただし、そのプロセスの中で、私はより根拠のあるものを見出す研究に注力してほしいと思っています。それが、私が取り組んでいる「実証理論」という研究手法です。
「実証理論」とは、データベースや統計学を使い、実証的な研究によって仮説を検証していく手法です。私が「実証理論」にこだわる理由は、研究者の仕事とは、世の中で起こっていることの本質を調べることだと思うからです。あくまで事実を解明することまでが仕事であり、そこから先、解明したことを題材に「どうするか」を議論することは私たち研究者の仕事ではないと考えているからです。要するに、科学とは「物が落ちる」ことを証明することであり、「物が落ちてはならない」とか、「物は浮かび続けるのが望ましい」と規定することではないと思うのです。これが研究者のあるべき姿だと私は思います。
実証理論による研究の魅力
私が専門とする会計学は社会科学の中の一つですが、現在、世界の社会科学の研究は実証理論が主流になってきています。会計学で最初に実証理論による研究が主流になったのは、1980年代のアメリカでした。80年代というと私はまだ学生で、ゼミで「アメリカで実証理論という研究手法がある」と聞いたのが、実証理論に興味をもった最初の一歩でした。しかし、当時は日本でもまだあまり認知されていなかったため、日本語で書かれた教科書もないような時代でした。
その後アメリカでは、90年代からは税務会計の分野においても実証理論が主流となりました。日本でも実証理論による研究が注目されるようになってきていますが、まだその歴史は浅く、未開拓の部分が多く残されています。そのため、いざ研究を始めてみると、それが日本で初めての研究になるケースがよくあります。このことも、私が実証理論で税務会計を研究する楽しみの一つになっています。
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