臨床の現場や子育て支援に役立つ
心理学の研究を目指したい

国際総合科学群 臨床心理学 准教授

平井美佳

ひらい・みか

平井美佳

「自己の確立と重要な他者との関係」に着目

心理学の研究の楽しさを知った卒業論文

平井美佳ひらい・みか

国際総合科学群 臨床心理学 准教授

(大学)国際総合科学部 国際教養学系 人間科学コース
(大学院)都市社会文化研究科
臨床心理学と発達心理学を専門とし、「自己と他者の調整」をテーマにした研究を行っている。また、臨床心理士として心理的援助を行っている。

 学生時代の私はカウンセラーの仕事に興味があり、心理学を専攻し、発達心理学のゼミで学んでいました。そして、卒業論文を書くプロセスの中で研究のおもしろさを知り、大学院へ進学して、研究の道を歩むことにしました。
 当時私が所属していたゼミでは、文化の違いに関してよく話題になっていました。一般に、「日本人はなかなか自分の意見を言わない。欧米人は自己主張が強い」などとよく言われることについてです。これは「個人主義 対 集団主義」などとして、心理学も含めいろいろな分野で研究されていました。しかし私は、外国人を含む自分の周りの友人たちと語り合う中で、「これらのイメージは、本当に日本人みんなに当てはまるのか?」「みんな自分のことも周りの人のことも大事にしているのではないか?」と疑問に感じ、卒業論文のテーマでは「日本人らしさとは何か」について調べることに決めました。
 調査では、まず前述したような日本人のイメージの中から、代表的な日本人論で繰り返し取り上げられる内容をピックアップし、各項目について「一般的な日本人にどの程度当てはまると思うか?」、「あなた自身にはどの程度当てはまるか?」を答えてもらうアンケートを実施しました。そして、いわゆる集団主義的な項目で「一般の日本人」について高く肯定され、「自分自身」との評価の差が大きいという結果を得ました。この約200人の大学生の回答を分析して論文にまとめる過程で、自分が感じた素朴な疑問について、データを基に明らかにしていくという研究に魅力を感じました。素朴なアイデアを「面白い、面白い」と応援してくださった先生がいたからだと思います。

 

修士・博士論文から続く研究テーマ「自己と他者の調整」

 大学院から取り組んでいる研究テーマは、「自己と他者の調整」です。このテーマは、卒業論文の発端にもなった「みんな自分のことも周りのことも大事にしているのではないか?」という、いわば当たり前の疑問から生まれました。人は、自己の要求と他者の要求が葛藤した場合、両者がともに重要だからこそ、時にはその葛藤に苦しみながらも、両者を調整するものだと考えたからです。これまで、人々がどのようにこの両者のバランスをとっているのかを調べようとしてきました。
 最初の調査では、架空のジレンマの場面を用意し、大学生ら約60人に話を聞いて分析しました。たとえば「家族」との場面では、「家族と夕食を食べに行く約束になっていますが、出かけてしまうとレポート課題が終わりそうにありません」といった深刻度の低いジレンマから、「恋人と結婚したいと思うようになりましたが、あなたの親は結婚にとても反対しました」といった深刻度の高いジレンマまでを設定し、それぞれの場面について「もしあなただったらどうするか?」を答えてもらいました。他に、「友人」や「その他の集団」とのシーンも設定しました。そして、大学生らが場面の相手や深刻度といった状況に応じて、時には相手を立て、時には自分を主張することを明らかにしました。その後、高齢者や幼児にも同様のインタビューを行い、また、さまざまなパターンの質問紙調査も行いました。最近では、アメリカ、中国、台湾、韓国の大学生に対しても調査を行い、ようやくデータがそろったところです。今後はこれを分析していく予定で、文化に共有された価値観や認識などによってどのような違い、また、文化によらない共通性があるのかを検討していきます。
 このように、個としての自己の確立と周りの重要な他者との関係性はともに重要で、両者が葛藤する場合には、人々がこのバランスを取ろうとすることをデータで示してきました。この研究テーマは、臨床的な実践を行う上でも重要であると考えています。

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