難病の原因を解明し、
病気に苦しむ子どもたちを笑顔にしたい

医学群 小児科学(発生成育小児医療学)教授

伊藤秀一

いとう・しゅういち

伊藤秀一

病気に苦しんだ自身の経験が、医学者としての原点に

幼少の頃から意識してきた医学の道

伊藤秀一いとう・しゅういち

医学群 小児科学(発生成育小児医療学)教授

(学部)医学部医学科
(大学院)医学研究科
(附属病院)小児科
主にネフローゼ症候群などの小児の腎臓やリウマチの疾患が専門。これらの難病に対する薬剤の開発や治療法の確立、原因不明の病気の解明に注力している。

 私は幼い頃から小児ぜんそくがひどくて、何人もの医師にお世話になりました。中でも、家の近くの小さな雑居ビルの中で開業していたYCU出身の先生は、私が医師という職業を意識する最初のきっかけを与えてくれた方でした。

 また、私の父は国家公務員でしたが、家族が結核で亡くなった経験を持ち、元々は医師志望で医学部に入学する予定でした。しかし、家庭の事情により志半ばで進路を変えざるをえなくなったそうです。そのためか、父は自分の夢を託していた部分もあり、私は少年時代から医師になりたいと思っていました。 

 現在、私はリウマチや腎臓病など免疫の異常によって発症する病気のお子さんを専門に診療しています。実は、私が子どもの頃に苦しんだ小児ぜんそく、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎も、免疫の異常が引き起こすアレルギーが原因の病気でした。免疫というのは、身体に入ってきた細菌、ウイルス、アレルギーを起こす物質などの異物を除去する大切な機能であり、そのおかげで私たちは感染症などから身を守ることができますが、体の中で免疫が適切に働かないこともあります。異物に過剰にしたり、自己免疫といって自分の体の一部であるタンパク質や細胞を敵と誤認して攻撃してしまうのです。これらの免疫の異常により炎症が起こり、私たちは発熱したり、体のいろいろな部位が痛くなったり、腫れたりしますが、なぜ自分を異物と間違えるようなことが起こるのか、とても不思議でした。そうした思いがきっかけとなり、私は免疫学を自分の研究の対象として選びました。

 

子どもたちのため、薬の開発と治療法を模索する日々

 近年、免疫の異常が原因となる病気の患者さんが増えており、治療法が確立されていない難病に苦しむ患者さんもいまだにたくさんいます。このような患者さんのために、一刻も早く病気の原因を解明し、病気の治癒や症状を改善するための薬の開発する必要があります。その一方で、免疫学の進歩は、難病の革新的な治療法を次々と生み出しており、最近、私たちが力を入れているのは、最新のバイオテクノロジー技術を駆使したリウマチや腎臓の疾患の治療薬としての生物学的製剤[keyword1]の開発です。「抗体」という言葉を聞いたことがあると思いますが、抗体はウイルスや細菌と結合し、体内からこれらの病原体を除去してくれるタンパク質で、ワクチンは抗体を作るために使用されます。そのため、例えばバイオテクノロジーの技術を用いて、体内で炎症を起こす物質に結合する人工の抗体を作ればその炎症を起こす物質が体内から除去されます。このような仕組みは抗がん剤の開発にも有用であり、がん細胞にしか発現しない特定のタンパク質を発見し、そのタンパク質に対する人工抗体を作れば、健康な細胞を傷つけることなく、がん細胞のみを除去することが可能となります。そうすると、従来の抗がん剤より副作用のリスクが少なくなり、患者さんの負担も大幅に軽減できるようになります。
 私はこれまで、臨床試験や治験を通じて、複数の生物学的製剤の開発や承認に関わってきましたが、長期入院を余儀なくされていたお子さんたちが、これらの薬により症状が劇的に改善した時に見せる笑顔が大好きです。これからも小児の難病の病態解明と治療法の開発を進めていこうと考えています。

Keyword 1生物学的製剤
リウマチの炎症、痛みなどを引き起こす物質や細胞の機能に関わる物質をピンポイントで抑えたり、ある種の細胞のみを体内から除去する事ができ、リウマチやがんの治療によく用いられる。2014年に「リツキシマブ」という生物学的製剤がネフローゼ症候群に高い効果があることが、臨床試験により世界で初めて実証された。

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