難病の原因を解明し、
病気に苦しむ子どもたちを笑顔にしたい

医学群 小児科学(発生成育小児医療学)教授

伊藤秀一

いとう・しゅういち

伊藤秀一

少子化が進む現代、これからの小児科医に求められるもの

フィールドが広く、やりがいにあふれる仕事

 私は小児科医ですが、もともと小児科志望だったわけではありません。たまたま大学6年生の時、前教授の勧めで神奈川県立こども医療センターのレジデント(研修医)試験を受け、小児科医になりました。
 小児科の魅力は、まず担当する守備範囲がとても広いことです。風邪の子どもを診ているイメージが強いと思いますが、そうではありません。例えば大人の場合、内科であれば、循環器、消化器、内分泌、糖尿病、血液、 呼吸器、神経など、驚くほど細分化されています。一方、多くの小児科医は内科医のように一つか二つの専門分野を持ってはいるものの、基本的には総合診療医です。したがって、ありふれた風邪から極めて稀で特殊な病気まで診ますし、障がい児や不登校児に関する相談を受けたり、保護者から子育ての悩みを聞いたり、検診で発達発育を評価したり、ワクチンの接種もします。このように総合診療をベースにしながら、それぞれの専門領域の診療や研究も積み上げていくというのが、日本の小児科のスタイルです。もちろん高度な専門性が必要な病気については、小児科の中でも専門家が診ますが、小児科医の多くは他の科の医師に比べてフィールドが相当広いです。私も附属病院での回診の際には、自分の専門分野以外の患者さんにも接するのですが、本当にいろいろな病気があることに、改めて気付かされます。
 小児科には極めて稀な生まれつきの病気がたくさんあり、特定のタンパク質が生まれつき欠けていて起きるような病気が多いです。その原因を解明することにより、そのタンパク質の生体内での役目が解明され、小児科で見つかる病気が生化学、生理学、遺伝学などの教科書を書き換えるきっかけになることも少なくありません。小児科には、医学的に研究するテーマがまだ数多く残されていると言えます。

 

治療だけにとどまらない、小児科医の大事な役目

 もう一つ、小児科の大きな魅力は、社会とのつながりが深いことで、小児科医は疾患の患部だけを診れば良いわけではありません。診察や治療だけでなく、社会に参画することが求められており、例えば、障がい児などの福祉、学校保健、場合によっては教育、さらに救急医療など、さまざまな部分で社会と接する機会があります。また、小児科医は子どもの代弁者という面もあり、子どもたちが言えないことを社会に向かって発言することも大事な役割です。
 YCUは地域に貢献することが求められている大学であり、横浜市の医療にしっかり取り組む責務があります。横浜市には24時間の小児救急医療を実施している病院が7つありますが、そのうち5病院でYCUの小児科に所属する医師たちが地域の小児医療を支えています。これがもし内科であれば救急の医師に任せればいいのですが、小児科はそうはいきません。私も時間ができると救急外来を担当しますが、どんな職業でも最前線の現場が一番大事で、特に小児科医は患者さんを自分で診て病態をしっかり把握することが重要だと思います。
 近年、医学の進歩により命は助かったものの、身体的あるいは社会的な問題を抱えたまま成人になる患者さんが増えており、そのような人たちへの教育や就労が社会的に大きな課題となっています。これは、新しい医療用語で「移行医療」と呼ばれていますが、病気を患っている子どもが社会で自立して生きていくにはどうするか、医療面だけでなく、福祉や職業まで含めて、トータルでサポートする必要が出てきています。
 私は小児科医は健康な子どもに対しても、今以上に関わっていく機会が必要だと思います。例えば、アメリカの小児科では、一年に一度健康な子どもたちに、健康診断をすると同時に、学校でいじめられていないか、家族との間に問題を抱えていないか、思春期なら性の問題などについても話をしています。このように小児科医に求められる領域はますます拡大しており、診療以外の部分にももっと向き合わなくてはならない時代が来ていると感じています。

バックナンバー