患者さんのために科学的根拠のある
看護ケアの研究を深めたい
この思いは世界へと続きます
医学群 看護生命科学 教授
赤瀬智子
あかせ・ともこ

看護師であり、薬剤師でもある私にできること
世界レベルの看護師育成を目指して

私が担当している看護生命科学領域では、まず看護職の基盤となる基礎医学系の科目である解剖生理学や生化学、栄養学、病態学、薬理学などの教育を行っています。国内にある約200校の看護系大学では、これらの科目はその多くが医師や薬剤師、基礎系教員などの非常勤講師が講義を受け持っていますが、YCUは看護学科の専任教員が中心となり医学科と協同して基礎教育を行っています。またこれらの基礎科目を連携させながら行っており、これはYCUの大きな特徴の一つとなっています。
私は薬理学を主に担当していますが、医師、薬剤師、看護師では、同じ薬理学でも重視して学ぶ分野が異なります。医師には治療に必要な薬理学の知識が必要になるでしょうし、薬剤師は主にその薬物の特徴や体への薬物の吸収、分布、代謝、排泄などの特徴を中心とした知識が重要になります。これに対して、看護師は効果的に安全に治療に用いる薬を管理する役割がありますので、薬の効果や副作用の観察事項、効果的にいつどのように薬を服用すべきかといった投薬の知識や技術が必要になります。そのため、私の看護薬理学の講義では、看護師の視点で必要な薬理学の知識と技術の習得に軸足を置いています。
このように、近年の医療では看護師に求められる仕事、必要とされる知識の範囲が広がっています。しかし、看護師を目指す若者たちのその認識が不足しているように感じており、私はまずこの認識から変え、世の中に貢献できる看護師、グローバルに通用する世界レベルの看護師を育成したいと思っています。
無限大に広がる、今後の展望

私が進めている研究の中には、現場の看護師が「何とかしたい」という熱い思いで大学院生となり、始まったものもあります。それは、女性なら誰しも経験する更年期障害に関連する研究です。更年期障害の症状の中でも最も頻度の高いホットフラッシュ[keyword2]は、更年期女性のおよそ88%が5年以上にわたって苦しむという代表的な症状です。
ホットフラッシュの治療はホルモン補充療法が第一に選択されますが、症状の緩和には漢方薬やアロマテラピーを使用したりします。ただし、アロマテラピーの効果は、経験値として一定の期待はできるものの、科学的根拠や安全性については十分な研究が行われていません。そこで私たちは、アロマオイルの一部の成分に女性ホルモン作用があるから効くのか、それは安全なのか、皮膚から吸収され効果を示すのかそれとも芳香浴のような嗅覚刺激によって効果を示すのかなどについて検証しています。そして、アロマテラピーを科学的根拠のある看護ケアとして確立させ、患者さんに提供できることを目指しています。
このように、私は高い意識をもった看護師の育成や、看護学におけるバイオサイエンス分野の発展に力を入れて取り組んでいますが、今後は看護師であり薬剤師でもある私にこそできる、効果的であり安全である薬の投薬と治療管理について、その患者さんにとっての薬の投与時間や剤形から考えた適切な投薬方法などの提案ができる、看護師のための「看護薬剤学」という新しい学問分野を作ることにもチャレンジしたいと考えています。また、研究成果が日本だけでなく世界中の患者さんのサポートにつながるよう、世界へ向けて積極的に発信していくつもりです。
Keyword 2ホットフラッシュ
周囲の環境に関係なく、「のぼせ」「ほてり」「発汗」の症状が突然出ること。精神的な動揺や激しい運動など、特に大きな理由もなく、何の前触れもなく生じるのが特徴。
踊っている時は、バレエに夢中になっています。研究に没頭している時間と、バレエの時間はまったく異なる時間ですので、私の日常生活において非常に良いメリハリをもたらしてくれています。
(2015年3月掲載)
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