vol.5 環境ホルモンが生体に及ぼす影響、その解明に向けて 国際総合科学群 内分泌学 教授 佐藤 友美(さとう・ともみ) vol.5 環境ホルモンが生体に及ぼす影響、その解明に向けて 国際総合科学群 内分泌学 教授 佐藤 友美(さとう・ともみ)

女性ホルモンと同じ作用を起こす化学物質とは

ホルモンは体の状態を一定に保つ役割を果たします

佐藤 友美(さとう・ともみ)
国際総合科学群 内分泌学 教授
  • (学部)国際総合科学部 理学系 生命環境コース
  • (大学院)生命ナノシステム科学研究科 生命環境システム科学専攻
生殖腺細胞の分化に対する性ホルモンの作用を解析し、環境ホルモンと生殖機能との関連性についても研究している。自身も横浜市立大学・大学院の出身。

 一般にホルモンと言えば、からだの成長を促す成長ホルモンや、血糖値を下げる作用があるインスリンなどがよく知られています。これらの物質は、新陳代謝を促したり、体の状態を一定に保つなどの大切な役割を果たしています。そうしたホルモンを分泌する内分泌器官や、様々なホルモンの働きなどを研究する分野が、内分泌学です。
 これまでホルモンは、1つの器官で作られた後、血液などで運ばれて、離れた場所にある器官で作用するものと定義されていました。近年ではそれらに当てはまらなくても、体内で情報を伝達する物質をホルモンの定義に含めることが多く、100種類以上のホルモンがあるとされています。
 私が主要な研究テーマとしているホルモンは、通称「女性ホルモン」と呼ばれるものの1つであるエストロゲン[Keyword 1]です。エストロゲンはコレステロールから合成されるステロイドホルモンの一種で、ステロイド骨格をもちます。
 エストロゲンは、動物の生殖活動にはもちろん、性的アイデンティティの形成に重要な役割を担っています。生殖器官だけに受容体があるのではなく、乳房や皮膚など全身で作用するとされており、解明されてない点が多くあります。

[Keyword 1]エストロゲン
卵巣から分泌され、卵胞ホルモンとも呼ばれる。思春期に分泌量が増え始めて第二次性徴を引き起こす。女性の月経周期をつかさどり、妊娠や出産に適した体にする。

環境ホルモンの研究は、これから進めなければなりません

 環境中に存在している様々な化学物質には、エストロゲンと同じ作用を起こしたり、他のホルモンの作用を阻害するものが含まれています。それら「内分泌かく乱物質」の通称である「環境ホルモン」[Keyword 2]は、私の恩師である井口泰泉先生(現・岡崎統合バイオサイエンスセンター教授)が、横浜市立大学に在職されていた時に考案した言葉です。
 環境ホルモンが注目されるようになった背景には、野生動物の生殖機能に異常が見られる現象が報告され、化学物質との関連性が指摘されたことがあります。ヒトでも同様のことが起これば、子孫を残すのが困難になるという仮説があり、日本でも国や研究機関が調査を行っています。
 例えば、ポリカーボネート製のプラスチック製品(食器など)の原材料に用いられるビスフェノールAという化学物質は、高温にすると成分が溶け出して食事を通して人体に入る可能性があることがわかっています。低用量での影響はまだ詳しくは明らかになっていませんが、厚生労働省では「摂取をできるだけ減らすことが適当」として、関係業界に自主的な取り組みを呼びかけています。
 実際のところ、環境ホルモンの研究はまだそれほど進展しているとは言えません。私たちの身の周りにある化学物質の数は膨大なうえに、胎児や乳幼児の時に摂取した物質が生殖機能にどう影響するかは、何十年も待たないとわからないからです。

[Keyword 2]環境ホルモン(内分泌かく乱物質)
「外因性内分泌かく乱化学物質」とも呼ばれ、環境中に存在する化学物質のうち、動物の体内でホルモンに似た作用を起こす物質。1990年代後半にベストセラーとなった『奪われし未来』で話題となる。欧米などでも実態研究が進められているが、人体への影響の明確な因果関係はわかっていない。

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