vol.8 地球内部の構造を明らかにして、防災に役立てたい 国際総合科学群 地震学 教授 吉本 和生(よしもと・かずお) vol.8 地球内部の構造を明らかにして、防災に役立てたい 国際総合科学群 地震学 教授 吉本 和生(よしもと・かずお)

地震波の伝わり方を調べ、地盤構造のモデルを構築

地震計の設置場所が増え、データ解析もより精細に

吉本 和生(よしもと・かずお)
国際総合科学群 地震学 教授
  • (学部)国際総合科学部 理学系 物質科学コース
  • (大学院)生命ナノシステム科学研究科 物質システム科学専攻
地震波が地盤を伝わってどのように増幅されるか、地球内部構造の不均質性などについて研究している。地震研究センター教授を兼務。

 地震の研究というと「予知はできないの?」と思う方もいるかもしれません。それは地震学にとって究極のテーマであり、研究は進んでいるものの、発生を完全に予測するのは難しいのが現状です。その一方で、地震の波が地球内部を伝わるメカニズムを明らかにしていくことにより、被害予測や防災に役立てていくのも、地震学の重要な役割です。
  ここで紹介する地震学は地球物理学の領域の一つであり、コンピュータなどを用いた物理学的手法によって、様々な観測データの解析を行います。その中で私の専門は、地震の波が地球の中をどのように伝わるかを調べて、地球の内部構造を研究する分野です。
 私が研究を始めた頃は、地震計といえば気象庁や一部の研究機関が設置しているくらいで、特定の観測データを得るには、自分たちで地震計を用意しなければなりませんでした。それが1995年1月の阪神・淡路大震災をきっかけに、自治体などが地震の観測にも積極的に取り組むようになり、計測技術の進歩も伴って、利用できる観測データが大幅に増えたのです。
 さらに、ガス会社が緊急時に備えて、供給エリアの各地に地震センサーを設置するようになり、そのデータも利用することが可能となりました。将来、各家庭にも地震センサーが置かれて、ネットワークで瞬時に測定結果がわかるようになれば、かなり精細なデータ解析が進むはずです。データが膨大になって研究者は大変ですが、防災の観点からは理想的と言えます。


関東平野の地盤構造モデルは、いよいよ検証の段階

 2011年3月の東日本大震災の際、震源から遠く離れた東京でも、新宿の高層ビルなどで10分以上の揺れを観測しました。2004年10月の新潟県中越地震でも、エレベーターが停止しました。これは長周期地震動[Keyword 1]の影響によるものです。
 地表付近で地震波を増幅させる堆積層は、厚いところだと5キロ程度になるのですが、この堆積層がどの地域でどれくらいの厚さかを調べることによって、長周期地震動の予測に役立てていくことが、研究の大きな目的です。このため私たちの研究室では現在、関東地域約1,500カ所の観測データをもとに、P波(地震波の第一波)やS波(地震波の第二波)などと呼ばれる地震波の解析を行って、関東平野の地盤構造のモデルを作成しています。
 例に挙げた東京での揺れについて、私たちの解析では、新宿周辺の堆積層は非常に厚いことがわかっており、その地盤構造によって地震波が大きくなったという解釈をしています。
 数年前から作ってきたこの地盤構造モデルは、ようやく完成しつつあり、2013年度から数値シミュレーションの段階に入っています。実際の観測値と突き合わせて検証を重ねることによって、構造モデルの精度をさらに高めていくのです。
 将来的には、この地盤構造のモデルを用いて、地震がどの場所でどれくらいの大きさで起こった際、どういう揺れが起こるか予測できることを目標にしています。気象庁が目指している、長周期地震動の緊急速報のような形での情報提供にも貢献できると考えています。

[Keyword 1]長周期地震動
地震発生によって起こる、周期が数秒以上のゆっくりとした長い揺れ。震源から離れた場所にも伝播しやすく、高層ビルや石油タンクなどの巨大建築物に大きな被害を与える。気象庁では揺れの大きさを4段階に区分し、2013年3月から試行的に観測情報を発表している。