vol.1 温かみのある企業再生の戦略的な手法の研究を進めています 国際総合科学群経営管理論 准教授 芦澤 美智子(あしざわ・みちこ) vol.1 温かみのある企業再生の戦略的な手法の研究を進めています 国際総合科学群経営管理論 准教授 芦澤 美智子(あしざわ・みちこ)

日本の将来を考えた「M&A研究」の重要性

M&Aは、前向きでポジティブな企業再生の手段へ

芦澤 美智子(あしざわ・みちこ)
国際総合科学群 准教授 経営管理論
  • (学部)国際総合科学部 経営科学系 経営学コース
  • (大学院)国際マネジメント研究科
産業再生機構や監査法人などで約10年の実務経験を持ち、M&Aによる企業再生のフレームワーク作りに取り組んでいる。

 私の専門分野は「企業再生M&Aの戦略研究」です。M&A[Keyword 1]は、かつては「身売り」や「敵対的買収」、ひいては「企業乗っ取り」といったマイナスイメージでとらえられていましたが、最近は必ずしもそういった側面ばかりではありません。報道されるような大企業だけではなく、身近な中小企業でも後継者不足などの理由で、日常的にM&Aが行なわれており、日本ではここ十数年は年間2,000件前後にまで増えています。
 本格的な少子高齢化を迎えた日本が低成長の時代にさしかかったいま、M&Aは前向きな意味で必要とされています。企業がグローバル競争に打ち勝つためには、事業をきちんと再編することによって、まずは日本の中で強い会社となることが重要だと考えられているからです。
 また、新しい産業が生まれる一方で、これまでの古い産業をどうするかを考えた際、M&Aによる再生が、とても有効な解決方法となります。倒産して大リストラを行い、多くの従業員や家族を路頭に迷わせることに比べると、M&Aは非常にソフトな着地点を作ることができるからです。
 これからの日本にとってM&Aは、ポジティブな戦略的手段であると重要視されると同時に、研究を進めなければならない分野としてもたいへん注目されています。

[Keyword 1]M&A
企業の合併と買収を意味する。Mergers(=合併) and Acquisitions(=吸収)の略。株式の取得による子会社化、吸収合併などの手法のほか、広義には資本提携や営業譲渡なども含まれる。新規事業への進出、競争力の強化、経営不振の企業救済などを目的に行われ、企業戦略のうえで有効な手段の一つ。近年では、日本企業と海外企業のグローバルなM&Aも加速している。

過去に学び、研究を積み重ねて未来に生かす

 実は、日本の企業再生M&Aの研究はまだ始まって間もない、歴史の浅い分野です。財務面に関する研究は進んでいるのですが、戦略面についての研究は、日本に限らずアメリカでもあまり進んでいないのが現状です。
 世間の注目も、ITや通信業界で何千億や何兆円単位での買収が行われると、その金額がクローズアップされ、ニュースになり、どうしてもお金の話にスポットライトが当たってしまいがちです。
 しかしながら、M&Aは企業や事業を買収して終わりではなく、むしろその後が重要なのです。そして多くのお金、多くの人が動くからこそ、うまく企業を再生させるための戦略が必要です。私もかつて企業再生の現場で働き、「ゆっくり変えるべきか、一気に変えるべきか」「現場に任せるか否か」など多くの意見や疑問を見聞してきた経験から、企業再生M&Aの実務に示唆を与えられるような戦略研究を進めるべきだと思っています。
 日本の将来を考えると、過去に学んで失敗を減らすためには、研究の積み重ねが大切です。M&Aに生じる様々な「なぜ?」を整理して実証していくことで、私は社会に貢献してきたいと考えています。