vol.12 企業の生き残りのためには、戦略的なCSRが不可欠です 国際総合科学群 比較社会システム論 教授 影山 摩子弥(かげやま・まこや) vol.12 企業の生き残りのためには、戦略的なCSRが不可欠です 国際総合科学群 比較社会システム論 教授 影山 摩子弥(かげやま・まこや)

個人としてのCSRを実践してほしい

社会は「理性」と「感性」の両方を必要としている

 私が現代の経済や社会をシステムとして研究する際に念頭に置いているのは、人間の「理性」と「感性」の両方が大事だという点です。よく人間の脳は、左脳が理性、右脳が感性をつかさどると言われます。人間が理性と感性を持っているのは、その両方を社会が必要としていることを意味しています。「欲望にも必然性はあるだろうし、人間の頭脳と社会の仕組みは連動しているはずだ」と考え、私は大学院では社会主義と資本主義のシステムの違いを研究し、現在のCSR研究へと至りました。
 話は数十年前にさかのぼります。憲法学者だった父の書斎にはたくさんの本があり、私も幼い頃から読書が大好きでした。背伸びしたい年頃になり、中学生の時に哲学の本を読み始めました。最初にはまったヘーゲルは、理性が世界の全てを作っていると説明していて、「これはすごい」と思ったのですが、やがて論理が奇麗すぎると考えるようになります。そこで、いろいろと読むうちに、理性を批判的に見るニーチェや、生や直観を重視するベルクソンにひかれていきました。
 当時から私は「人間はドロドロした感情もあるし、物事は理屈だけで割り切れないだろう」との思いを強く持っていました。だから、理性に重きを置いたヘーゲルよりも、ニーチェやベルクソンに魅力を感じたのかもしれません。
 今の時代は、品質が良いだけではモノは売れません。一人ひとりのニーズが多様化しているので、それぞれの感性に合わせた売り方が必要とされています。CSRに当てはめると、社会貢献活動をしている企業の商品をある人が買おうとするのは、その人の理性ではなくハートに企業が訴えかけているからだと言えます。まさに、感性に訴える仕組みが重要になってきている時代なのです。


社会に貢献していくことで、やりがいも感じられる

 ゼミの研究でも、中心となっているテーマはCSRです。例えば、学生が企業からヒアリングをして、その企業がどのようなCSRを実施すべきかを考え、企業の社長やCSR担当者に対してプレゼンテーションを行っています。実際に、学生のアイデアをヒントにして企業が取り組みを進めたというケースもあります。
 ゼミ生の研究テーマは、中小企業の社員がやる気を出す方法や、障がい者雇用をどう進めたらよいかなどです。就職を希望する学生は、学んだCSRのノウハウを企業で生かしたいという学生が多いです。また、政府主導でCSRを推進している中国からの優秀な留学生が、私のゼミにも在籍しています。
 私が学生に望むのは、自分の培った知識を、広く社会のために役立ててほしいということです。これは個人レベルでのCSRと言っても良いかもしれません。オープン・イノベーションにみられるように、自分だけが生き残ろうとか儲けようという志向は、企業の内でも外でも受け入れられず、自らの存続を危うくします。お互いがうまくいっている関係を目指すことが、今の社会では求められています。
 大学生の頃の私は、決して優秀な学生とは言えませんでした。研究者の道を選ぶか企業に就職するかで迷っていた時期もあります。そんな私が、大学やCSRセンターを通じて企業や行政機関、NPOの相談を受け、企業を救ったり、地域の課題を解決したりすることで社会に貢献していく。こんなにもやりがいを感じることはありません。この道を選んだ自分の判断は、間違っていなかったと思っています。
 学生にも、自分で判断して行動することを大切にしてほしいですね。企業や行政機関やNPOなども、自分で判断できる人材を求めています。適正な方向を考えて、自分の判断で動いていく。そうすることによって、ビジネスチャンスが拡大し、自分もやりがいや面白さを感じることができると思うのです。

【My Favorite】
 仕事で原稿を書いている時は、もっぱらハードロックをBGMにしています。ガンズ・アンド・ローゼズやスコーピオンズ、レッド・ツェッペリンに、最近ではホワイトスネイクをよく聴きます。自分に気合を入れたい時にはディープ・パープル。中学から大学にかけて、のめり込んだハードロックバンドです。私自身もバンドを組んだことがあるほど、影響を受けました。
 先日、息子にギターを買ってあげたら、「勉強があるのに」と妻に渋い顔をされてしまいました。息子が聴く音楽は、私の知らないような最近の曲ばかり。逆に、自分が青春時代を共に過ごしたバンドの名前を、学生たちに「知らない」と言われるのは、少し寂しさを感じますね。