vol.12 企業の生き残りのためには、戦略的なCSRが不可欠です 国際総合科学群 比較社会システム論 教授 影山 摩子弥(かげやま・まこや) vol.12 企業の生き残りのためには、戦略的なCSRが不可欠です 国際総合科学群 比較社会システム論 教授 影山 摩子弥(かげやま・まこや)

CSRに取り組む企業を支援するために

中小企業もCSRを積極的に導入する時代へ

 これからの時代は、中小企業の存在がいっそう重要になっていくと、私は考えています。中小企業は大企業に比べると、顧客などの重要な関係者が特定しやすく、より大きなCSRの効果が期待できます。だからこそ、CSRに積極的に取り組む必要性は、中小企業の方が高いのです。
 高度成長期の日本は、手本にしたアメリカに追い付こうとすることよって、成長していきました。企業は向かうべき方向が明らかだったので効率よく進めましたし、作った製品は、アメリカで売れました。ところが、アメリカとそれほど差がなくなると目標にすべき大きな存在がいなくなりますから、日本の企業は自分たちの戦略が弱いことに気付きました。そして、CSRはここ10年でようやく注目されるようになってきたのです。
 例えば、印刷の技術は、日本が世界一と言っても過言ではありません。日本にはそのような優れた技術がたくさんありますが、売るための戦略を持っていないことが多いのです。解決策の1つが、いろんな企業の人々が集まって、オープン・イノベーション[Keyword 2]によって新しい技術や売るためのノウハウを開発していくことです。
 そして、オープン・イノベーションのような柔軟な動きをしやすいのが、中小企業です。オープン・イノベーションが有効なのは、利益を得る領域だけではありません。社会貢献をしたいけれど、中小企業なので、お金も、人も、ノウハウもないという企業であれば、その分野が得意なNPOと連携すれば、効果的な社会貢献になりますし、NPOも活動の幅が広がります。
 CSRの項目は多岐にわたるため、専門部署を作れない中小企業は導入が難しいとされてきました。しかし、中小企業だからこそCSRが重要であり、社外との連携もしやすいのです。今後は、そのような連携を円滑に進めていくためのネットワークづくりも重要になっていくでしょう。

[Keyword 2]オープン・イノベーション
会社や組織の枠組みを越え、幅広く技術やアイデアを集めて組み合わせることで、これまで不可能だったイノベーション(技術革新)の実現につなげる手法。従来の企業は自社の中だけで技術を開発していたが、社内のコスト削減や人手不足の解消ができることから、国内でも取り組みが広がりつつある。例として、産学連携による共同研究などが挙げられる。

CSRセンターを通じて地元・横浜に貢献したい

 当時の理事長や事務局の理解と全面的支援のもとに、2006年に設立された「横浜市立大学CSRセンター」は、横浜市大の地域貢献のために、企業などのCSRの取り組みを支援することを目的とした会社(有限責任事業組合)です。センターでは「横浜型地域貢献企業認定制度」の運営支援のほか、中小企業を中心としたコンサルティングやセミナー・講座の開催などを行っています。
 私がCSRセンターという会社を作ろうと思った理由は、地域への貢献と学生への教育の2つです。市民に支えられている大学なので、地元横浜への貢献を目指したいというのが1つ。もう1つは、将来起業したいと思って横浜市大に入学してくる学生も多い中、彼らに自分が会社を興した経験を伝えたいと思ったのです。
 大学での本業のかたわら、私もセンター長として企業の相談を受けることがあります。中小企業の経営者の多くは、日々の業務に奔走しています。だから、私から相手先まで出向いて、専門用語ではない易しい言葉でアドバイスするようにしています。そして、経営の改善のために、すぐに行動に移せるような“処方箋”をお渡しするのです。その通りに実行して業績が改善すると、私の研究がこんなにも役に立つのかと驚くこともあります。
 CSRに関する国際的な基準(「規格」と言います)が2010年に「ISO 26000」として発行されました。ISO 26000は、品質ISOや環境ISOのような認証の制度ではありませんが、今やグローバル企業にとってCSRは必須の要件と言えるでしょう。
 また、横浜市以外の自治体や業界団体などでも、CSRの認定制度を作るところが出てきています。CSRは経営に直結する重要なものとして、たとえ違う名前で呼ばれたとしても、その考え方は当たり前のように定着していくでしょう。