vol.11 クリエイティブに問題を解決できる看護師の育成を目指しています 医学群 老年看護学 教授 叶谷 由佳(かのや・ゆか)

 vol.11 クリエイティブに問題を解決できる看護師の育成を目指しています 医学群 老年看護学 教授 叶谷 由佳(かのや・ゆか)

看護師にもクリエイティブな発想が大切

高齢者が幸せに生活できる看護を目指して

 最後に、これからを生きる学生の方々にお話したいと思います。私が教えている老年看護学は、高齢になってもその人が長く幸せに生活できる看護を目指しています。単に寿命を延ばすだけではなく、QOLを高めて、本人と家族の健康な生活を支えるケアを実践することを考えているのです。
 超高齢社会を迎え、必要とされている研究テーマは多岐にわたります。訪問看護での患者さんや家族との関わり方、地域との連携、虐待など社会問題の解決、患者さんが認知機能を失う前段階での意思決定支援など、老年看護に特有の課題は多くあります。高齢者に多い褥瘡(じょくそう)[Keyword 2]をいかに予防するかについても、病院だけでなく在宅介護の場でも対策が求められています。
 また、健康な高齢者に対して、機能を維持してもらう取り組みも大きなテーマです。私が今、老年看護学領域の教員と企画を考えているのはヨガ教室です。高齢になるにつれて、肺炎で亡くなる確率が高くなり、吸った息をきちんと最後まで吐き出せないという病気になりがちです。ヨガの呼吸法によって呼吸に関わる筋肉なども鍛えてもらうことによって、肺炎や風邪などの病気にかかる割合が減ることを期待しています。
 老年看護学で卒業研究を行った学生の研究テーマは、認知症の患者さんへの接し方や、看護職と介護職の連携、過去に虐待を受けた高齢者へのケアなどです。ブラジルに渡って高齢となった日系人の方々と、日本国内の高齢者のQOLを比較した学生もいました。
 私は学生たちに、クリエイティブな発想を大切にして、自分のやりたいことにこだわるよう指導しています。研究者としても、看護の現場でも、自分で考えることが大事なのです。

[Keyword 2]褥瘡(じょくそう)
「床ずれ」の通称で知られる。寝たきりなどで同じ姿勢が長く続き、皮膚が圧迫を受けたために血流が途絶えて、周辺の組織が死んでしまう状態。予防するためには、体の向きを定期的に変えることや、栄養の摂取、皮膚を清潔に保つことが大切とされている。

コーディネーターの能力が、これからは求められる

 医療の専門分化が進み、看護師が学ぶべき内容はますます増えています。患者さんやいろんな人々と接するうえで、大学で一般教養科目を勉強して、幅広い教養を身に付けることも大切です。横浜市大では、2つの附属病院や医学科とも連携できるという充実した環境のもと、看護に関わる様々な現場をリードしていく人材を育成しています。
 看護教育を取り巻く状況を見ると、保助看法の改正によって2010年からは新人看護職員の臨床研修が努力義務とされ、じっくりと看護師を育てる土壌は整いつつあります。大学でも保健師の資格に関わる授業が選択科目になるなど、カリキュラムが大きく変化しました。
 これからの看護師に求められるのは、コーディネーターとしての能力です。様々な分野の専門医はもちろん、理学療法士や作業療法士、薬剤師、ケアマネージャー、栄養士など、様々な職種と連携して、看護計画を調整していかなければなりません。専門的な知識や技術を持つ人々の間に立って、広い視野で総合的に物事を見ることができるのは、ナースとしての強みでもあります。
 医療の現場に限定されず、健康増進や介護、さらに病院の経営にまで視野を広げて、いろんな場面でクリエイティブに問題を解決してほしいのです。そして、神奈川県をはじめとする全国の医療や保健、福祉の現場で、リーダーシップを発揮してほしいと思っています。将来は起業するようなナースがもっと増えるべきだと私は思います。
 看護に携わっていると、患者さんをはじめ多くの人と出会い、そこから学ぶことができます。私も運良く、いろんな方と知り合うことができたから、今の自分があるのかもしれません。短大の時の怖かった先生も、今となっては自分を育ててくれた恩師で、変わらず交流を続けています。
 人との出会いや、その時に印象に残ったことを大切にすれば、やがて自分の財産になる。それが、学生の皆さんに私が伝えたいことです。

【My Favorite】
 私がいつも心がけているのは、きちんと睡眠時間をとることとバランスよく食べること。悩んでいることがあっても、とりあえず夜は考えないようにして寝るようにしています。そうすると次の日には、「なんとかなるかなぁ」という気持ちになります。また、食べる物で好きなものを一つ選べと言われると迷いますね。おすすめは、出身地である北海道の食べ物。海の幸も山の幸もたくさんあります。
 看護師の皆さんは精神的な負担が大きいとよく言われますが、私にとってのストレス解消法は、友達や同僚と一緒に食事をしながらおしゃべりすることです。普段は話せないようなことも食事をしながらだとリラックスして話せて、お互いのことを深く知ることができるので、そういう場をなるべく多く設けるようにしています。