vol.4 脳や神経の難病に、臨床研究と基礎研究の両輪で立ち向かう 医学群 神経内科学・脳卒中医学 教授 田中 章景(たなか・ふみあき) vol.4 脳や神経の難病に、臨床研究と基礎研究の両輪で立ち向かう。 医学群 神経内科学・脳卒中医学 教授 田中 章景(たなか・ふみあき)

探究心を持って、脳の分野にチャレンジしてほしい

iPS細胞や脳画像の技術が、研究をさらに進展させる

 未来に向けて、脳や神経のメカニズムはどのように解明されていくのでしょうか。ノーベル賞で話題になったiPS細胞(人工多能性幹細胞)は様々な細胞に分化することが可能です。脳や神経脊髄の神経難病では、存命中の患者さんの脳の細胞を取って調べるのは一般的ではないので、皮膚の細胞を採取しiPS細胞化後、脳の神経細胞に分化させれば、様々な研究が可能になります。
 例えば、病気に薬が効くかどうかを調べるには、動物をはじめとする「モデル」が必要ですが、iPS細胞は患者さんの病気を最も忠実に反映するモデルとして、神経疾患研究でも非常に有効用な手段です。 また、脳の中を見る脳画像のテクノロジーも、今後の発展が期待されます。脳の断面画像は、かつてはCT(コンピュータ断層撮影)が主流でしたが、現在は、より安全で三次元的な情報が得られるMRI(核磁気共鳴画像)が、日本の医療機関で普及し、しかも機能が年々飛躍的に向上してきています。MRIをはじめとする脳画像解析技術の進歩によって、患者さんの脳の状態をより正確に把握し、診療や研究に役立てることができるでしょう。
 このような脳疾患研究は、今後の10~20年が最も重要かつエキサイティングな時代に突入します。若い医師や研究者、さらに将来、大学へ進む中学生や高校生の方にとって、これから最もチャレンジする甲斐のある分野だと思います。

『なぜだろう』という疑問が原動力になる

 医学を含め、すべての学問は未知のことにあふれかえっています。振り返れば、私が医学の道を志したのも、小児喘息を患ったこともあって、子供の頃から「なぜヒトは病気になるのだろうか」という素朴な疑問を抱いたことがきっかけでした。医学部に進んでからは、人間の体の中で最も複雑かつ、最も不思議な脳に興味を持ち、神経内科を専攻することを決めました。さらに、原因がわからない神経難病に取り組むようになったのは、私の原点に常に「なぜだろう」という問いがあったからかもしれません。と言っても、一つ一つ突き詰めていくと、次から次へとわからないことが出てきて、「なぜヒトは病気になるのだろうか」という子供の頃からの疑問は永遠に解決できそうにありません。というより、もし解決できたとしたら、それは医学という学問の終焉を意味します。学生の皆さんには、様々なことに対する探究心を持ち続けてほしいと思っています。医学の分野に限りませんが、「なぜそうなるのか」という疑問を常に持って、そのメカニズムを知りたいと思う気持ちが大事です。どんなに調べても載っていなければ、自分が解決するしかないのだという気概が重要です。教科書を読んで内容を覚えることも大切ですが、それはあくまでも次の疑問や課題を見つけるための手段なのです。
 講義などを通じて、思いもよらなかったような質問を、学生さんから受けることが時々あります。問題意識を持った学生の質問は、私たち教員が逆に刺激を受けて、研究のヒントになることさえあるのです。若い人たちから刺激を受けることを、私自身これからも期待しています。

【My Favorite】
 趣味は音楽鑑賞です。神経内科では患者さんの細かいところまで診察しますので、つい何でもこだわりがちになるのですが、音楽に関してはそれほどでもありません。R&Bやジャズ、ロックなど幅広いジャンルを聴きますね。コンサートやライブに行ったり、オーディオ機器を揃えるのも好きです。自分でも楽器が演奏できたらいいのになあ、と思い始めてからもう20年は経ちますが、未だに実現できていません。でも、あきらめずに時間を見つけて練習したいと思っています。