vol.2 外科手術の「匠」の技が、生活の質の向上に貢献します 医学群 形成外科学 教授 前川 二郎(まえがわ・じろう) vol.2 外科手術の「匠」の技が、生活の質の向上に貢献します 医学群 形成外科学 教授 前川 二郎(まえがわ・じろう)

外科手術の『匠』の技を伝承するために

日本の超マイクロサージャリーは世界トップレベル

 近年、外科医の数が足りないということが叫ばれています。外科医は1年や2年では育ちません。私自身も、一人前と言ってもらえるようになるまでには20年かかりました。若い人たちに技術を伝え、さらに彼らが次の世代に伝えようとしなければ、外科の技術は簡単には伝わらないのです。
 私たちがリンパ浮腫の手術で用いているのは、超マイクロサージャリー[Keyword 2]と呼ばれる技術です。使用する針はかなり小さいので、ちょっと力を加えただけで曲がってしまいます。ロボットサージャリーの研究も進んでいますが、まだまだ人間の手には及びません。指先の繊細な動きが要求される「匠」の領域であり、手先の器用な人の多い日本は世界でもトップレベルの技術を持っています。
 そのような技術の伝承は、外科にとっては非常に重要な課題であります。私たち大学はその役割を担っており、若い人たちと一緒に忍耐強く努力していきたいと考えています。

[Keyword 2]超マイクロサージャリー
顕微鏡を用いて行う、非常に微細な手術。日本では1965年、切断した指の再接着に世界で初めて成功した。顕微鏡や縫合糸の進歩などにより、これまでのマイクロサージャリーよりも小さな0.3~0.5mm以下の血管やリンパ管をつなぐことが可能になった。

決してあきらめず、病気にチャレンジしてほしい

 私がリンパ浮腫の診断をしていると、患者さんから「ようやく先生のところにたどり着いた」とのお言葉をいただくことがあります。実はリンパ浮腫は、なかなか治療されずに軽視されていた病気の1つでした。いろんな病院を巡ってきた患者さんからそのような言葉を聞くと、やってきた甲斐があったとうれしく感じます。
 治せない病気や、私たちが向き合ってこなかった病気は、まだたくさんあります。医学を志す人には、ぜひそんな病気にもチャレンジしてほしいと思います。自分で治療法を開発するのは面白いですし、医師をしている間にそのようなものを1つでも見つけられたら素晴らしいことです。まだ治療法が確立していない病気を持つ方々に、希望を与えることになるのですから。
 “Be ambitious.”そして“Never give up.”。高い目標を持って、決してあきらめないことが大切です。かつてリンパ浮腫は診断技術が確立されていなかったのですが、リンパを可視化する機器が約10年前に登場して、手術をするうえで大きな突破口となりました。治したいという気持ちで、あきらめずに続けてきたから、それは今や私にとって素晴らしいライフワークの1つになっています。学生や若い方々にも、決してあきらめない気持ちを持ち続けてほしいと思います。

【My Favorite】
 私の趣味は山登りです。よく登るのは八ヶ岳。山は春夏秋冬の4回楽しめて、日本の美しさを実感することができます。手術では細かい指先まで使いますので、研究室に閉じこもらずに、自然に触れて神経を研ぎ澄ますことの必要性を感じています。
 医学も登山も、大事なのは自分の限界を知ること。手術で自分の腕に溺れてはいけないし、山でも引き返す勇気が命を左右します。自分の限界を意識しながらチャレンジしていくという点では、似ている部分もありますね。