骨盤臓器脱について

骨盤臓器脱の疾患情報

骨盤臓器脱骨盤臓器脱

骨盤臓器脱は50歳以上の40%程度が罹患するといわれ、周閉経期以後に多くの女性を悩ませる頻度の非常に高い重要な疾患です。膣から膀胱や子宮、腸がおりてくる病気で、不快感や排尿困難、頻尿、便秘、性交障害など多くの症状を引き起こします。子宮脱や膀胱瘤とも呼ばれることもありますが、現在はそれらを総称して骨盤臓器脱と呼ぶことになっています。人間は文明の獲得のために脳が相対的に他の動物より大きいため、難産の動物であり、分娩時に骨盤の筋肉、靭帯が大きく損傷されます。また、直立歩行で長寿なのも人間の特徴であり、それらの要因によって加齢とともに骨盤内の臓器が膣から脱出するようになります。
骨盤臓器脱は致死的な合併症を起こしませんが、生活の質を低下させ、加齢とともにどんどん進行することが多いとされます。また、分娩によって骨盤の筋肉が損傷すると力んだ時の尿漏れ(腹圧性尿失禁)も起こすため、骨盤臓器脱と腹圧性尿失禁はしばしば合併します。
骨盤臓器脱はその疾患の部位による恥ずかしさのため、病院の受診率が低いとされます。また折角病院を受診しても診察のタイミングによっては脱出が見られない場合もあり、骨盤臓器脱診療に慣れていない産婦人科医では正確な診断がなされないこともあります。

骨盤臓器脱の検査

内診、問診票による症状診断、MRI

骨盤臓器脱の治療

骨盤臓器脱の治療はペッサリーによる保存治療と手術療法になります。骨盤底筋群を鍛える骨盤体操は骨盤臓器脱の治療にはなりませんが、その後の臓器脱の悪化には有効であるとされ、積極的に行ってもらいます。骨盤にはかなりの重力がかかるため、骨盤臓器脱の手術は再発が問題となります。当院は骨盤臓器脱を専門とする医師が在籍しており手術は患者さんの年齢、活動度、尿失禁を合併しているか、性交渉があるか、また脱のタイプにより複数の術式から最適と考えられる術式を選択します。

腹腔鏡下仙骨膣固定術

おなかに5mm~1cm程度の穴を4か所程度開け、腹腔鏡でお腹の中にメッシュを留置して骨盤臓器を支える術式です。現状の術式では唯一腟がきちんと保たれる術式とされ、再発率は当院のデータで2-4%と最も低いです。また経腟メッシュ手術で問題となったメッシュ感染、メッシュびらんは腹腔鏡手術ではほとんど起こりません。
糖尿病や自己免疫疾患のあるかたは場合によってはメッシュによる感染や疼痛の報告があるため、メッシュ手術は行わない場合があります。
腹圧性尿失禁を合併している方は、仙骨膣固定術のみでは尿失禁が悪化することがあるため、骨盤底筋を補強するburch手術を同時に行っています。

腹腔鏡下仙骨子宮靭帯固定術

この手術もおなかに5mm~1cm程度の穴を4か所程度開けて腹腔鏡で行いますが、メッシュは使わずに骨盤内の靭帯を利用して骨盤臓器を支える術式です。仙骨膣固定術より再発率が若干高いもののメッシュを使わないというメリットがあるため、糖尿病や自己免疫疾患などによりメッシュがリスクになる方が対象となります。

膣閉鎖術

膣を経腟的に縫って閉じる術式です。性交渉はできなくなりますが、短時間の手術のため性交渉のない比較的ご高齢の方に行うことが多い術式です。再発率も比較的低く、術後の痛みも軽度です。