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国際総合科学部 国際都市学系 グローバル協力コース 教授

上村雄彦(うえむらたけひこ)Takehiko Uemura

世界を変える、グローバル・タックスの可能性

グローバル・タックスのコンセプト

上村雄彦先生 インタビュー写真1

国際金融マーケットが世界の命運を握るほどのものとなった現在、共通のリスクは世界全体で負担すべきではないか? これを解決する手段として考えられているのが、グローバル・タックス(国際連帯税)という新しい税の概念です。これは、グローバルな資産や国境を越えて行われるさまざまな取引に対して一定の税を課し、その税収を地球規模課題の解決に充てるという新しい税体系のことです。たとえば、税収の何割かを世界の恵まれない地域の人々に還元することで、国家間や地域間の極端な経済格差を解消することが挙げられます。

この考えはノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者ジェームス・トービンが、1972年に投機目的の短期的取引を抑制するため、国際通貨取引(外国為替取引)に低率の課税をするというアイデアが一つの原型になっています。しかし、トービン税といわれたこの方式は、各国が一斉に参加してはじめて効果を発揮するもので、何カ国かが参加しない場合、取引や金融の流れが一気に参加していない方に流れてしまうという懸念があり、実現には至りませんでした。しかし、トービンが提唱した税の概念は、その後も研究が続けられ、グローバル・タックス(国際連帯税)としてより実現性の高い方法が検討されています。

現在、途上国の貧困対策、温暖化対策など、地球規模課題の解決に必要とされる金額は約130兆円といわれていますが、実際に出されている金額は、ODA拠出金で約18兆円、その他民間資金などをすべて合わせても60兆円程度に過ぎません。膨張したマネーゲームがもたらす富(特に、株式、債券、為替、デリヴァティブの取引)などに対して広く薄く税をかける金融取引税だけで、80兆円、その他のグローバル・タックスの税収をすべて合わせると、理論上は300兆円規模の税収が上がることがわかっています。実現すれば世界に悲劇をもたらしている格差の解消や地球環境の保護にどれだけ貢献できるか、その効果は計り知れません。

こうしたマネーゲームに対する金融取引税はグローバル・タックスが最も大きな効果をあげる本丸といえますが、この他にもグローバル・タックスはいくつかの種類が考えられ、その一部はすでに実現しています。空港で航空運賃とは別に徴収される航空券連帯税、石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料の取引に対して、炭素の含有量に応じて税を課す地球炭素税、武器の輸出入にかける武器取引税、株や資産などで海外での保有を含む金融資産の所有状況に対して徴収するグローバル累進資本課税などです。こうした税の中には、比較的導入の敷居が低いものもあり、そうしたものから徐々に実現し始めています。

研究から具体策の提言、制度の実現へ

上村雄彦先生 インタビュー写真2

 フランスは2006年7月に先頭を切って航空券連帯税の導入を決めました。これは、パリの空港を利用する国際線搭乗客から座席クラスに応じて一定の税を徴収し、そこで得た収入の一部を途上国などのエイズ、マラリア、結核の診断や治療の費用に充てるというものです。飛行機を利用できる=お金のある層から広く薄く税を徴収し、貧困層を援助するというグローバル・タックスのコンセプトを完全に満たした制度といえます。この税はその後、韓国やチリ、アフリカ諸国など、現在14カ国で導入されていますが、これを成り立たせているのが、実施国の政府とユニットエイド(UNITAID)(Keyword-2)という組織です。

ユニットエイドは、フランス、ブラジル、ノルウェー、チリ、イギリスが創設国となり、NGOや財団も理事会に入ってユニークな運営をしている組織です。徴収した税はまず各国の政府に入り、その後一部または全部がユニットエイドに入金される仕組みになっています。この制度がなぜグローバルかというと、どこの国の人間であれ、この税の参加国の空港を利用する際には、必ず徴収されるということです。つまり、まだ参画していない国のひとつである日本も、日本人がパリを飛び立つ航空機を利用するときには連帯税がかかりますので、年間パリに渡航する日本人の総数を考えた場合、相当の額が日本から支払われていることになります。別の言い方をすると、フランスに飛行機で行って帰ってくるだけで、知らないうちに国際貢献をしているとも言えるのです。この仕組みは理屈で考えると拡大するはずです。なぜなら、自分の国の旅行者が外国で税を取られるのであれば、外国からの渡航者にも同じように税をかけたい、ならばこの航空券連帯税に参加しようという意識が働きやすいからです。しかし、実際には航空業界の強い抵抗があり、日本ではなかなか実現していません。航空券連帯税は、徴税もシンプルで、税の使われ方もわかりやすい。2020年には東京オリンピックがあり、たくさんの外国の方々が日本に来ることが予想されています。それだけに、一刻も早く導入が期待されている税といえるでしょう。

このように研究から始まり、具体的な制度の提言が行われ、実際に各国が参加をしはじめる、というプロセスがグローバル・タックスにはどうしても必要です。日本でも2008年から国会の超党派の議員によるグローバル・タックスの議論が始まっていますし、研究者たちによる具体的な提言によって航空券連帯税にとどまらず、グローバル金融取引税などのスケールメリットのあるシステムの実現に向けて、大きな一歩を踏み出す事ができるはずです。

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ユニットエイドは、2006年9月、フランス、チリ、ブラジル、ノルウェー、イギリスの5カ国によって設立された組織で、目的は「エイズ・結核・マラリアという感染症で苦しむ途上国の人々のため、それらの国々の現状では手に入れることが困難な高品質の医薬品・診断技術の価格を下げて、広く供給が行き届くようにすること」(UNITAID憲章)とされている。医薬品等の価格を下げることが可能となったのは、航空券連帯税による税収という持続的かつ予測可能な資金を活用し、その資金力によって製薬メーカーとの交渉力を強化したことが大きな要因となっている。現在の加盟国は2015年現在で28カ国と増えている。

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