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真の国際人を輩出する、
これが私たちの使命


国際総合科学部 国際都市学系 グローバル協力コース 教授

上村雄彦(うえむらたけひこ)Takehiko Uemura

世界の仕組みを知り、現状を正しく認識する

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上村雄彦(うえむらたけひこ)

教授
国際総合科学部 国際都市学系 グローバル協力コース
大学院 都市社会文化研究科 都市社会文化専攻

三重大学、大阪大学、カールトン大学で学び、博士号取得。専門はグローバル政治論。国連機関職員などを経て2009年より本学教授。世界を取り巻くグローバル化への考察とともに地球福祉の観点から持続可能な地球社会のあり方を模索し、具体策としてのグローバル・タックスなどの研究を行う。マスコミなどでも持論を展開し、著書も多数。

一度きりの人生、世界の役に立ってみたい

 今の研究に身を置くことになった原点は、中学生のときに先生から「国連職員になると面白いことがある」と聞かされた時かもしれません。国連職員は、世界に貢献するやりがいのある仕事をするのはもちろん、職員である間は公的な意味での国籍がないとみなされること、したがって特別なパスポートを持っていること、そして給料には原則として税金がかからないなど、中学生ながらも国連は特別な存在だ、と思った記憶があります。その時から「将来は国連職員になりたい!」という夢を抱くようになりました。

やがて大学に進み、国際関係や社会科学系の学びに取り組んでいったのですが、一度きりの人生、国連職員のように、何か世の中の役に立てる仕事ができる人材になりたいと常に考えていました。

国際関係やグローバル政治論に本格的に取り組もうと思ったきっかけは、大学時代に大阪大学教授(当時)の馬場伸也先生の書いた『アイデンティティの国際政治学』という本を読んだことでした。先生の著書で語られている事を簡単にいうならば、一般には力が強い者が社会を支配していると考えられているが、実はその社会を本当に作っているのは支配されている側である。なぜなら、人間は本性として誰かの思いどおりにされたくない、支配されたくないという精神作用があるからだ、という内容でした。つまり、少数の強国や強者が大多数の小国や弱者を力で永遠に支配し続けるのは無理な話で、だからこそ被支配者層が大きなムーブメントを起こせば世界は変わる、ということを学んだのです。世界は私たちが変えることができるかもしれないという考えは刺激的だったし、学問は楽しいものだと思いました。

本当は危ない?世界とその近未来

では、現実の世界は、そして地球はどうなっているかというと、学者としてかなり悲観的なことも語らなくてはならないのが現状です。例えば今、森林破壊や飢餓の問題がどれだけ進んでいるかといいますと、1秒間にサッカー場ひとつ分の森林が消えており、6秒間に一人の子どもが飢餓や栄養失調で亡くなっている、それが現状です。温暖化にしても、学者たちの間で想定されている最悪のシナリオはかなりショッキングなもので、たとえば南極大陸の話があります。南極は大陸とその上にのっている氷からなっています。南極の大きさはオーストラリア大陸の2倍以上。そして氷の厚さは、なんと平均で2500メートルです。広大な大陸の上にこれだけの氷が乗っているのですが、それが温暖化で徐々に溶け出し、バランスが崩れたときに、氷の一部が大陸から滑り出すと、数十メートルの巨大津波が発生し、世界の沿岸部が壊滅する可能性などが指摘されています。そうした最悪のシナリオは、IPCCという世界が認める学者の集まりで検討されており、SFではありません。ちなみに、グリーンランドも南極と同じく、大陸の上に氷が乗っており、それが全部解ければ世界で7メートルの海面上昇が起きます。

もうひとつ、国際金融マーケット(Keyword-1)の問題があります。人が汗水を流して何かを作ったり、誰かにサービスを提供したりして対価を得る行為が実体経済としたら、株、債券、通貨、デリヴァティブなどに大金をつぎ込み、利ざやで大儲けをする国際金融マーケットはマネーゲームです。しかしこのマネーゲームは、実体経済を遥かに上回る規模で世界のお金を動かしています。実体経済の規模約8660兆円に対してマネーゲームの規模は10京円といわれています。とても理解できない数字です。大まかにいうと1%のお金持ちを99%のそうでない人間が地球規模で支えているということになります。

ここで私たち日本人が知っておくべきことは、実は日本の銀行も大きな規模で国際金融市場に参画しているという事実です。つまり世界全体でみたら、日本人は、1%のお金持ちに近い方の存在であることを知っておくべきです。ですから、世界の問題と日本人はつながっている。だから、勉強しなければならないと思っています。同時に、世界では、こうした富の極端な偏在を改善しようとする試みがあるということも、知ってほしいと思います。

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19世紀半ばのロンドン金融市場の国際的な取引形態が、現在の国際金融マーケットの原型といわれ、現在ではフランクフルト、チューリヒ、パリ、アムステルダム、ニューヨーク、東京、シンガポール、香港などの市場が国際金融マーケットとの舞台として認知されている。さらにケイマン諸島などのタックス・ヘイブン(租税回避地)を通した税金を回避する取引も活発に行われている。従来からの株や為替、商品の通常取引に加えて、大きなウェイトを占めるようになったデリヴァティブといわれる金融派生商品の取引とコンピュータの導入によって、決済数は飛躍的に大きくなり、市場が世界経済に悪影響を及ぼすリスクも高くなっている。

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