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市場の質の向上が
世界を救う


国際総合科学部 経営科学系 経済学コース 准教授

太田塁(おおた るい)Rui Ota

複雑化する国際貿易を読み解く

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太田塁(おおた るい)

准教授
国際総合科学部 経営科学系 経済学コース
大学院 国際マネジメント研究科 国際マネジメント専攻

慶應義塾大学、同大学院、ジョンズホプキンス大学で学位取得後、千葉経済大学専任講師を経て准教授に。2015年4月より本学准教授。専門は国際貿易論、産業組織論。各国で生産される製品の安全基準の違いが国際貿易にもたらす影響や、衰退する需要に直面する企業の行動などを研究。学生たちには、ミクロとマクロ双方に精通した学びを推奨し、積極的に活動を展開している。

恩師から学んだ、学びへの姿勢

私は経済政策が国際貿易に与える影響といった、経済や経営に関する研究を続けています。遡れば中学生の時、ある授業で「需要と供給によってモノの値段が決まってくる」ということを聞き、身近な買い物においても、この原則が活きているのだということに思い至り、この分野に興味を持ったことが現在の研究生活につながるきっかけだったように思います。「需要と供給」という言葉は誰でも聞いたことがあると思いますが、経済学、経営学の学びはある意味、この関係性をどんどん高度に追求していく学問だといえます。

大学在学中に恩師といえる先生に出会い、その先生からは研究の姿勢や視点の持ち方を学びました。それは、「研究者というのは、単に事象を検証していくだけではなく、あたかも医師が患者を診断していくように、起こることの原因は何か?そうなった背景は何か? それが社会に不利益をもたらすのであれば、どうすれば健全な状態にできるのか、そうした視点で研究を進めよ」というものでした。つまり単なる勉強ではなく、課題解決のための研究をせよ、ということです。この考えを自分なりに実践してきたことで、研究者としての自信やキャリア形成ができたと思い、感謝しています。

2015年より、横浜市立大学で教壇に立つこととなったのですが、新しい環境になったことで、今までとは少し違う事に取り組んでみようと思いました。

現在の国際貿易というのは非常に複雑化しています。情報通信技術や物流テクノロジーの発達により、ひとつの製品を作り、販売するという流れの中でさまざまな国が関与していくのですが、それは統一されたルールに則っているのかどうかを注目して見たときに、新しい課題が見えてきたのです。

中間財貿易の発達と国際的な品質基準の現状

例えば日本の電機機械メーカーが製品を開発し、販売しようと考えたとします。では、その製品がどのような経路でできあがってくるかというと、まず、日本で製品のコンセプトを決め、基本のアイデアや設計を行い、財の性能や質の決定をします。そうした開発計画に基づき生産をするのですが、実際の生産は日本で行わず、外国、特に東アジア諸国で行われます。例えば、中国で設計に基づいて材料や部品を調達し、付属品などを用意してマレーシアに運ばれます。マレーシアでは中国から送られた材料や設計図を元に製品の組み立てを行い、これが巡り巡って再び日本のメーカーに納品され、メーカーはやっと販売へとこぎつけます。その販売も、国内向けと海外向けがあったりし、製品を完成品として再び中国へ輸出するといった事も起こり得ます。これはもちろん一例で、関係する国が変わったりはしますが、おおむねこのような形態で製品が作られていることは間違いありません。

ここで注目して欲しいのは、設計や材料、部品、半製品、製品といったものの各国間でのやり取りは、それぞれがひとつの国際貿易として扱われるという事です。これを中間財貿易(Keyword-1)といいます。もちろん最終製品の輸出もひとつの貿易です。この流れの中で、部品であろうと製品あろうとそれぞれの国の法律に基づいて関税がかけられ、製品の品質基準の法律もそれぞれの国のものが適用されます。つまり、メーカーが求めるクォリティを担保するのは、それぞれの国の企業の技術力と良心といった不確定なものであって、各国の法律がしっかり担保してくれる訳ではないのです。もちろん電線ケーブルの国際規格などの統一規格はあるものの、製品製造全体に消費者の信頼を与えるほどの統一規格がないまま、モノがつくられ、価格が決められているのが現状なのです。

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「中間財」とは、最終製品以外の部品や材料、サービスの一切のこと。人的アウトソーシングもそこに含まれると考えられる。製品の生産工程の地理的分散(これをフラグメンテーションという。)により、中間財が国境を越えるごとに、その全額が輸出および輸入に計上されるため、その輸出額をみて、その製品のどれだけが、輸出国で生産されたもの(あるいは付加価値である)か知ることが難しいのが現状である。日本を含む東アジアは世界的に見ても早くからこうした中間財の貿易が盛んであり、2009年の東アジア全体の中間財貿易の比率は50%を超えている。

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