中村幸代先生写真

少子高齢化社会における
母性看護の重要性


医学部 看護学科 母性看護学 教授

中村幸代(なかむらさちよ)Sachiyo Nakamura

女性と子どもおよびその家族のライフスタイルをサポートする
母性看護学

中村幸代先生 プロフィール写真

中村幸代(なかむらさちよ)

教授
医学部 看護学科 母性看護学
大学院 医学研究科 看護学専攻

専門は母性看護学、助産学、周産期、ヘルスプロモーション、冷え症、臨床看護学。少子高齢化社会における重要課題である女性と家族へのケア、周産期のライフサイクルに対応したヘルスプロモーションに関する研究と指導を行う。特に「妊婦の冷え症」への対策と研究においては第一人者であり、著書を多数持つ。

恩師が助産婦だったという意外性

私は横浜市立大学で教授として母性看護学を専門にしていますが、実をいうと、もともとこの領域に強い関心があった訳ではありませんでした。ところが素敵だなぁと思った先生が実は助産師さんであり、その先生が「助産師はいいよ」とおっしゃられた一言で、いつしかこの領域に進むことになったのが実情です。

私の専門である「母性看護学」という言葉ですが、この母性という言葉の定義は意外に難しいものがあります。母性は、女性がもともと持っている性質と一般には思われていますが、必ずしもそうではなく、母性は、母親や妊娠・出産・哺育という生物学的な意味のみならず、女性のライフサイクルにおいて存在し、その多くは後天的に発達するものです。つまり、母性の多くは後天的に育てられます。また、子どもとの相互作用という事でいえば父性も母性と同じであり、むしろ親性、育児性といった方が適切だと解釈することもあります。

そうした定義のあいまいなところもある母性という言葉を含む看護学ですが、現在私たちが考える母性看護学は、必ずしも妊娠してから子どもを産むまでの看護という狭い範囲だけで捉えている訳ではありません。妊娠適齢期から、周産期、子どもを育て、子どもとともに成長する時期、あるいは出産ががうまくいかなかった際のケアなど、女性のライフサイクルに存在する全てが対象と考えています。さらに、女性だけではなく、胎児から新生児とその家族をケアの対象と捉えることも母性看護学の特徴です。さらに、国際的視点では、世界の妊娠・出産で命を落とす妊産婦や、5歳未満で亡くなる子どものうち99%が途上国の人々です。つまり、妊産婦と子どもの健康は途上国において最も深刻な問題となっています。アジア・アフリカの母子保健は世界の大きな課題であり永遠のテーマです。母性看護領域では、途上国の母子保健研修を通して、国際的視点で考えられる学生を育成したいと考えています。

高齢化社会の妊婦とお産の場の事情、そして高度医療施設の役割について

今、日本は世界でもまれにみる少子高齢化社会を迎えています。また、晩婚傾向になってきているのに併せて、妊娠や出産も自然と30代後半にずれ込んできているため女性の出産年齢はあがる一方です。そのため、当然、妊婦さんの出産リスクも高くなりますし、女性にとっては、出産も育児も人生を左右する大きなイベントになります。そして社会問題として取り上げられているように、産院では、お産の数が減っている中で、リスクばかりが増えるとして、閉院するところもあります。特に地方では産院が減少し、せっかく妊娠してもお産ができる産院が近くにないといった問題が起こっています。少子化対策の1つとして、本来ならば、産みたい場所で安全に出産するという選択肢がないという現状を、私たちも認識しないといけないと思います。

一方で横浜市立大学附属病院のような特定機能病院といわれる高度先進医療先進施設においては、より難しい出産に対応する頻度が増えています。事実、現在行われている周産期医療(Keyword-1)では、通常の赤ちゃんが3000グラム前後で産まれるのに対して、わずか300グラム未満の赤ちゃんでも命を助けることができるレベルまで進んでいます。とはいえ、300グラム未満の赤ちゃんの命をつなぐことができたとしても、その子が将来抱える可能性のある問題を救うことにはなりませんし、医療の発展に伴い、今までなかった問題が顕著化してきていると感じています。

また、エビデンスベースが看護学でも重要視されていますが、様々な研究結果から統計的な確実性は推定できてもあくまでも割合の問題であり、個人にとっては本質的に不確実なものです。最先端の周産期医療が実施されても、その人らしい、その人や家族が望むお産は根本的に変わりません。母児ともに健康で心に残るお産になるようなサポートをすることが重要であると思います。

Keyword-1「周産期医療」本文に戻る

周産期とは出産前後の期間の事を指すことばで国際統計分類によって妊娠22週から出生後7日未満と定義されている。周産期医療といった場合には、主にこの期間の妊婦~新生児に対する様々な医療を差す。この期間には、合併症妊娠や分娩時の新生児仮死など、母体・胎児や新生児の生命に関わる事態が発生する可能性があるため、母体、胎児、新生児を総合的にケアして、母と子の健康を守るのが周産期医療である。

コンテンツガイド