中村幸代先生写真

少子高齢化社会における
母性看護の重要性


医学部 看護学科 母性看護学 教授

中村幸代(なかむらさちよ)Sachiyo Nakamura

人がやっていなかった分野を極める

エビデンスがなかった「妊婦の冷え症」

中村幸代先生 インタビュー写真1

私は現在母性看護学全般を専門にするとともに、大きなテーマとして取り組んでいるものがあります。それは私が大学院生の時から取り組み始めた「妊婦の冷え症」に関する研究です。冷え症というと軽いもののように思われがちですが、実は妊婦さんが冷え症で悩んでいるケースは約70%と非常に多く、深刻なものです。実際の例でいうと、大学院生時代の助産院実習で体験したことなのですが、そこでのケアの中心が妊婦さんの冷え症のケアだったという事実があります。ところが、なぜ妊婦さんが冷え症だと良くないのかを調べようとしても、文献がない、研究がなされていない、エビデンスがない、と無い無い尽くしだったのです。ならば私がエビデンスを作ろうと決心して、取り組み始めたのがはじまりです。それからは冷え症自体について勉強したり、基礎的な研究をしたり、ブラジルに住むブラジル人妊婦さんの研究をしたりと、いろいろな方にご協力をいただきながら研究を進めています。その結果、冷え症が早産など異常分娩の原因になること、妊婦さんの身体と心のマイナートラブルの原因になることなどが分かり、助産の現場で行われていることにエビデンスを加えることができました。この妊婦の冷え症に関しては、研究論文もいくつか公表しました。これからは、これらの研究結果を、現場で働く医療者はもちろんのこと、妊婦や女性に対しても広くコンセンサスを得て、一般化していくことが重要だと考えています。次のステップとして、ケアの方法についても、研究を進めています。例えば妊婦さんの冷え症対策として現在推奨しているのは、レッグウォーマーの着用や妊婦さん専用のエクササイズの実施、湧泉という東洋医学でいうツボを中心としたマッサージなどです。どれも簡単にできる事で、これをやると冷え症改善に効果があることが明らかになりました。何より妊婦さんが、冷え症のつらさが無くなったと喜んでくれるのが嬉しいです。

現在、妊婦さんがスマートフォンを見ながら冷え症の予防や改善ができるアプリも作っています。まだ開発中なので社会には出ていませんが、近い将来、たくさんの妊婦さんがこのアプリを使って、快適な妊婦ライフが送れるとしたら本当に嬉しいことです。

母性看護学とヘルスプロモーション

中村幸代先生 インタビュー写真2

私の専門には、ヘルスプロモーションというものもありますが、これについて少しお話ししたいと思います。これは先に述べた母性看護というのは妊婦さんの妊娠前から後までのライフサイクルのサポートという考えにも通じることです。ヘルスプロモーションとは、WHO(世界保健機関)では、「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義されています。すなわち、母性看護学でのヘルスプロモーションは、対象者のもてる力が引き出せるように促し、女性と子どもおよび家族の生活を整える援助過程です。つまり、ヘルスプロモーションの主役は女性と子どもならびにその家族であり、医療者は脇役なのです。ヘルスプロモーションはこうした観点から、妊婦さんに必要と思われる「からだづくり」を研究し、目に見えるかたちで情報提供することを理想としています。

私が中心になって研究している冷え症については、すでにこの考え方を発展させて実践している事がいくつかあります。例えば、研究結果を読みやすいパンフレットにして病院の参加外来に置いてもらったり、日本冷え症看護助産研究会(Keyword-2)といった研究会を立ち上げ、会員に向けて情報を発信したりし、それが現場で活かされ、その結果、女性自らが選択するといったような活動ですね。現在、この研究会の会員は100名以上になっています。こうしたことをこれからも継続していきたいと思っています。

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冷えを症状(病状)である「冷え症」としてとらえ、冷え症看護に関する研究活動を推進すること、エビデンスを基盤としたヘルスプロモーションやケアの提供に寄与することを目的とする。冷え症に関する研究成果等の発表、知見等の意見交換など、冷え症看護/助産に関心を持つ者の交流をはかり、さらなる冷え症看護に関する研究活動を推進し、看護学ならびに助産学の進歩発展に寄与するとともに社会に貢献することを目指す研究会。
WEBサイト:http://hiesho.kenkyuukai.jp/special/?id=9010

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