田栗正隆先生写真

統計学が病気を減らし
医療を進化させる


医学部 医学科 臨床統計学 准教授

田栗正隆(たぐりまさたか)Masataka Taguri

大切なのは、解析の後に正しい解釈ができること

数学の素養だけでなく応用力が必要

田栗正隆先生 インタビュー写真1

これから確実にニーズが伸びると思われる統計学ですが、それを実践する人材に必要な素養とは何でしょうか? 先にも述べたように、統計学は数学の基礎がないと先に進めないこと事は確かです。そうしたことから、理数系でも特に数学に秀でた人がこの道に進むケースは多くあります。また、本学のような医学研究を行う施設では、医学や生物学の分野から統計学に進んでくる者もいます。どちらも、それぞれの得意分野だけでは真の統計学者、特に医療を扱う生物統計学者にはなれないと思います。

統計学の実際的な役割としては、データの収集、取捨選択、解析などを行い、問題解決の理論を構築することなどがありますが、ここに「解釈力」という非常に重要なファクターが存在します。同じデータを用いた解析結果でも、人によって解釈が違えば、違う結論が出てしまいます。この結果に対して責任を負うのが、プロフェッショナルということになりますので、解析結果を正しく解釈できる能力が必要となってくる訳です。統計学の中でも、私の研究領域は統計的因果推論(Keyword-3)という分野ですが、データ解析結果を因果的に解釈するには、適切に実施されたランダム化比較試験(既存の方法と新しい方法に対象者をランダムに割り当てる研究方法)のデータでない場合は非常に慎重さを要します。これを導くのは背景知識を含めた個々の解釈力であり、社会人として健全なものの見方ができるかどうかということでもあります。このような素養が生物統計学者には必要であると考えます。

とはいえ、実際にこの道に入れば、そのような能力も鍛えられます。臨床試験デザインや解析方法について基礎を習得し、実際にデータ解析を実施するといった具体的なトレーニングを行うといったことを通じて自分の得意分野を伸ばし、不得意分野をきちんと学べばいいのです。

医学部のある大学というのは、それだけですごいこと

田栗正隆先生 インタビュー写真2

横浜市立大学の特長は地域に根ざした大学であることですが、医学部のある福浦キャンパスはそうした意味でも、市民ととても近い関係にあると思います。市立大学ですので、さまざまな学部、学系で、市と連携した研究も行われていますので、市大で学ぶということは市民とともに学ぶということであり、とても意義のある事だと思います。

決して大きな規模ではありませんが、立派な附属病院と医学部を擁しているというのは、やはりすごいことです。もし、ご縁があって、私の研究室に来ることになったら、医学の深い話や、医学研究の生のデータに触れるチャンスはいくらでもあります。

最後に、生物統計学をめざしたとして、どのような就職先があるかについて、少し述べておきましょう。

生物統計学を大学で学んだ場合、そのまま研究者となって、大学や研究所に所属する道があります。私などはその典型です。もうひとつは製薬企業などで研究開発チームの一員となる道があります。さらに、政府機関で薬剤を認可する側にも、生物統計の専門職があります。若い方には、ぜひチャレンジしていただきたい分野です。

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医学、工学をはじめあらゆる科学研究や意思決定の基盤となるのが因果推論であり、統計的因果推論とは、解析対象のデータが得られたプロセス、背景知識を活用することによって、統計的関連と因果的関連を結びつけ、データに基づく因果効果の定量的評価を方法論的に行うもの。この分野の権威といわれている人物として、人工知能(AI)研究者でイスラエル生まれの研究者ジュディア・パール、医学領域では疫学者で統計学者のジェイムス・ロビンス、サンダー・グリーンランドなどが挙げられる。

編|集|後|記

田栗先生にお会いして感じたのは、当たり前ですが、とても頭の切れる方だということでした。勉強不足のこちらの質問に対しても、その意図を瞬時に汲み取ってくれ、お聞きしたい内容のお話をすらすらとされるので、ビックリしました。言葉のなかには、因果推論とか、ランダム化といった難しい言葉もたくさんあったのですが、素人にもわかる説明ができるということはすごいと思います。そんな統計学の田栗先生ですが、ダービーなど、競馬のG1レースが行われるときには馬券を買うそうです。その結果についてはあえてお聞きしませんでした。

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