田栗正隆先生写真

統計学が病気を減らし
医療を進化させる


医学部 医学科 臨床統計学 准教授

田栗正隆(たぐりまさたか)Masataka Taguri

膨大なデータを扱える環境が、新しいチャレンジを可能にする

進化を続ける統計学

田栗正隆先生 インタビュー写真1

私は横浜市立大学で研究を始めて6年になりますが、この間に客員研究員としてカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)に留学する機会を得ました。ここは医学領域に特化した大学であり、生物統計学の研究をする上で非常に勉強になりました。また、統計学のアメリカでの現状も学べたことで、帰国後のモチベーションが上がったと思います。

先ほどからたびたび統計学は欧米の方が日本より進んでいると述べてきましたが、実際に現地の研究機関にいるとその違いはよく見えてきます。まず、アメリカでは生物統計学のみの博士号取得者が年間約80人ほどであるのに対して日本では非常に少ないこと、政府機関から出される研究費もアメリカの方が日本よりかなり多く潤沢なことがわかります。こうした環境の中で行われるアメリカでの研究ですので、いわゆるビッグデータ(Keyword-2)の取扱いも多く、スケールの大きな研究が行われています。同時に、分野ごとに特化した統計専門家が育っており、統計学全般の地位が非常に高いと感じました。

日本でも近年この分野での研究は盛んになっており、本学をはじめ、例えば滋賀大学に新設予定のデータサイエンス学部などは、ビッグデータの解析法などに取り組むデータサイエンティストと呼ばれる人材の育成を目標に掲げています。

統計学はあらゆる事象や現象、傾向といったものが研究対象となり、それぞれの分野で方法論が確立してきた分野といえます。理系では医学、生物学、物理学、文系では経済学、経営学、さらに金融、環境問題、人口問題、マーケティングなど、いずれも統計学が貢献する分野です。医療の領域での統計学は、人の命を扱うので、より正確をめざし、なおかつ倫理的で慎重な判断を下さなければなりません。私たちは、データ集積から解析、予期される結果の解釈までの一連の計画をデザインと呼んでいますが、デザインとは設計することでもあります。私たちの設計に基づいた方法論を使用した研究は今後ますます進化していく事でしょう。

Y-NEXTが研究をさらに加速させる

田栗正隆先生 インタビュー写真2

現在、横浜市立大学初の試みとして、医師主導の治験を実施し、医薬品の承認申請までを大学が行おうとしています。つまり、新薬の開発を大学で行うということで、これは大きなチャレンジのひとつです。

こうした医薬品の開発はもちろん、生物統計学のさまざまな研究において、本学でも膨大なデータを扱うようになっています。そうした中で、私が2016年より活動の拠点とすることになった横浜市立大学の次世代臨床研究センター(以下通称Y-NEXT)は強い味方といえます。

Y-NEXTは、病気に苦しむ市民や国民の皆様に、「次の一手」となる治療法の開発を推進することにより最先端の治療を届ける、という趣旨で福浦キャンパスの先端医科学研究棟に設立されました。地域医療機関と連携した臨床研究を推進するために、統計学、データマネジメント、臨床研究コーディネーターなどの専門職がスタッフとして活躍する施設です。この施設で臨床研究をさらに高度化し、平成27年4月から医療法に設けられた「臨床研究中核病院」への早期認定を目指しています

このような私たちの研究は、大学院での研究ですので、若い方々には縁遠いと思われる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、これから期待されている分野として、多くの方に統計学を知っていただき、どんどん参入してほしいと思っています。

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ビッグデータとは、一般的に使用されている既存のデータベース管理ツールやデータ処理アプリケーションでは処理することが困難なほど、巨大で複雑なデータの集積物を表す。 そもそもビッグデータは、大元の膨大なデータ収集が行われ得ることが前提で、近年の高度情報化社会の進化、日進月歩の情報通信技術、コンピュータの高性能化に伴って最近になってよく聞かれる言葉といえる。こうしたデータを扱えることが現代の研究やビジネス、さらには政策決定でも成功する要因ともいわれている。その技術的な課題には収集から取捨選択、保管、検索、共有、転送、解析、可視化などが含まれ、セキュリティを含め、設備はもちろん、それらを管理するだけの人的資源の確保が不可欠である。

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