太田塁先生写真

市場の質の向上が
世界を救う


国際総合科学部 経営科学系 経済学コース 准教授

太田塁(おおた るい)Rui Ota

安心・安全を世界にもたらすために

提言と環境づくりを行うのが使命

太田塁先生 インタビュー写真1

ここまで述べてきたように、現在の国際貿易には、あきらかに品質基準の統一性に欠けるという課題が浮かび上がってきていると考えられます。では、私たち研究者はこの問題にどのようなアプローチで関わり、課題解決の道を探っていくべきでしょうか。

そもそも国際貿易、中でも中間財貿易がここまで飛躍的に発展した原因は、18世紀のイギリスに始まった産業革命による大量生産、大量消費が世界中に広まったことがあげられます。それによってモノの価格が抑えられ、いわゆる労働者階級の人々が豊かな消費生活を行える、というのが最大のメリットでした。その後、安く物を作れる人件費の安い国に生産過程の一部を発注したり、生産工場が移転したりということが行われてきたのですが、これは経済学の言葉でいう比較優位(Keyword-2)という、それぞれの国がその得意分野に特化する事でお互いがメリットを享受し合うという考えに基づいたものです。ここまでは良かったのですが、これが高度に、かつあまりにも複雑に発展した事で、品質規格の不統一といった問題が見えてきたといえます。近年問題となった食品における問題や、自動車業界で起きた問題なども、こうした問題から発生した、わかりやすい例といえます。 また、近年では、モノだけでなく、人のアウトソーシングによる国境を越えたサービスも増えています。例えばアメリカの会社が運営しているコールセンターに電話しても、実際につながっているのはインドということがいくらでもあります。また、アウトソーシングによって時差を利用し、24時間フル操業を実現するケースもあります。いずれもクライアント企業とアウトソーシング企業間の国際貿易のひとつです。

このように日々複雑化していく国際貿易に対して、製品やサービスの質を確保するためにはどうしたら良いでしょうか? 現状では、相手国の法律や現状をリサーチし、相手の基準をきちんと把握することが第一です。次に考えるべきは、対応する国際的なルールや制度を考え、提言していくことです。そうした提言を続けていく事で、国際貿易がさらに活発に、また市場取引がより有効に機能する方法を考えることを共有できればと考えています。取引の場である市場の質を高めることこそ、これからの世界をより豊かにする方法だと思っています。

衰退する需要に直面した企業の対応と課題

太田塁先生 インタビュー写真2

私の研究室でもうひとつ課題としてとりあげているものに、「衰退する需要に直面する企業の価格設定行動」というものがあります。例えばレコード、カセットテープ、アナログカメラなどは、製品そのものが新しい技術に取って代わられた事で、著しく需要が減ったものといえます。また、洋服、テレビ、家具、一部の農作物などは、日本国内の事業者から見ると、すでに海外製品に価格競争で勝てないために事業者にとっては衰退需要として捉えざるを得なくなってしまいます。こちらのケースは先程述べた比較優位の面で、優位に立てる部分がなくなってしまったことによるものです。こうした事態に直面した企業はどのような行動を起こすか、また、どのような行動を起こすのが良いのか? これについては、意外にもあまり研究がなされていない分野なのですが、私はこの研究の重要性を感じ、取り組んでいます。

企業は需要が衰退したからといって、簡単にやめる訳にもいきません。そうした時、まず最初に考えられるのが価格を下げることですが、ここでの価格設定は高度な判断が必要になります。さらに、これを続けていくといずれ採算がとれなくなります。ではどうすれば良いかというと、その製品に固執することをやめ、持っている技術と設備を活かしながら他の製品に切り替えるという方法があります。また、衰退したとはいえ、その需要がゼロでない場合は、製品の品質を上げて、価格も上げ、高付加価値商品に変えてしまうという手法もあります。例えばレコードプレーヤーといった製品は高額となっても、一定数が売れています。海外製品に太刀打ちできない場合も、目先を変えて、価格ではなく徹底した品質管理とアイデアで高機能、高質な製品に切り替えたり、マーケットを見直して特定のターゲットに絞って開発をしたりなど、思い切った転換で活路が拓ける場合があります。

もちろんすべてがすぐにうまく行く訳ではないので、こうした事態に迫られた企業を支援する制度も研究課題のひとつであると思います。

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経済学者であったデヴィッド・リカードが提唱した概念で、最も基本となる貿易理論である。自由貿易においてそれぞれの国が得意な分野(低コストで高品質な生産ができる分野)に特化した製品で輸出し、そうでない製品を輸入することで、双方が利益を享受できる状態をいう。これが高度に発達したのが、現代の中間財貿易であり、世界の実体経済は国際的に見て、この原理で動いているとみて間違いない。課題としては、それぞれの国の関税や規格がまちまちであること、地球規模の環境問題を引き起こす要因となることなどがあげられる。

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