seminar02 ONOE AKIRA

研究セミナー特集

Seminar02

マイクロ工学と材料・生物学の融合による医療応用技術 機械工学や高分子化学と生物学・医学との学際的融合による研究と成果

2018年1月11日(木)開催  
会場:本学 カメリアホール

● 講演:慶應義塾大学 大学院理工学研究科 総合デザイン工学専攻:尾上弘晃准教授
● 招聘コーディネーター教授:小島伸彦准教授

尾上弘晃准教授による講演

セミナー写真1

興津先生の発想から始まった、ひとつの方向性となりうる、再生医療とカテーテル採用技術のお話の続きになりますが、実験では、カテーテルを操作して、少しずつ紐を移植していきました。上手にやると切らずにうまく臓器の皮膜の下に紐を移植することができます。紐であるからこそこういう移植ができるということを見出しました。
 その後ファイバーを移植すると血糖値が正常値に入り、2週間くらいでお腹を開いて埋めた先ほどのファイバーを取ります。そうするとインスリンを出すファイバーがなくなるのでまた高血糖になり、ちゃんと埋めているファイバーのおかげで血糖値が下がったというようなことがいえるようになりました。プロジェクトの結果として、再生医療に使えるような紐の組織の開発に携わった結果になっています。
 この技術なのですが、プロジェクトが終わった後に、ベンチャー起業が立ち上がり、実際にこの技術の産業応用を目指しています。

セミナー写真1

学生がつくった奇跡のゲル?

このような医療用のゲルの技術を使い、慶應大学では、別の用途がないかなということでも研究を進めています。ある時、学生が奇跡のゲルができたといってきました。なんだという風に見たらこんなのができたといいうんです、これはすごいと。見るとスプリング状のゲルなんですね。なんでできたのかわからないけどこんなのができたと。よくよく話を聞いてみると、彼はちょっと雑にやっていて、ガラス管の先端が欠けたものをつかっていたのです。欠けたガラス管を使うと、ゲル化のタイミングが変わるために、こういった面白い構造ができると彼は見つけてきました。こういう現象でこういうスプリング構造を作った報告はなかったので、これをテーマにすればいいんじゃないかということで、ゲルのスプリングを作る研究を展開しています。
 この映像を見てもらうと面白いです。本当にこのような形でゲルの紐がくるくるトグロを巻くんです。水中から見てみると、こんな感じですね。結構均一な径で構造ができます。もう少し寄ってみるとこういう形でできます。これは非常に面白いなということで、どういう原理でそういうものができているのだろうと考察したのですが、要はガラス管の先端が斜めになっていることによるのですが、斜めになっているためにある程度流れ、方向が決まります。決まるとそこの液体に触れるとゲル化が開始するので、こちら側の方が早くゲル化が始まります。アルギン酸はゲル化すると体積が縮むので、縮むとこっち側に引っ張られて、こういった構造ができると。色々調べてみると先端が平らなのは当然真っ直ぐなゲルができるのですが、段々角度をつけていくと、こういう不安定な状態を経て、綺麗な安定なスプリングができます。また、スピードを変えても面白いです。ゆっくりやると不安定なダマができてしまうのですが、ある程度いい感じのスピードでゲルを送り出していくとスプリングになります。これ縦軸は流速です。段々早くしていくと、また不安定になって、スピードを早く出すと、真っ直ぐいきます。つまりこのスピードだと右と左のゲル化の時間差がないので管から出していくのと同じというように理解していただければと思います。
 そして、このスプリングが何の役に立つのかなと考えたのですが、細胞を入れておいて引っ張って、力学的刺激を付加するというような使い方もできるかなと思ったのですが、機械科の学生さんがアクチュエータやロボットが大好きだったので、バイオアクチュエータがいいんじゃないかと。ツリガネムシという池にいる動物がいまして、すごいスピードで変位するようなスタークと呼ばれる器官をもっています。このスタークには長い構造を一瞬で大変形させる仕組みがあります。スプリング型のアクチュエータはゲルで作れるので、ゲルで作れるとしたら化学反応でこういった大きい変位をさせるようなアクチュエータを作ることができるんじゃないかということになり、そのアクチュエータを作る研究をしていました。先ほどのゲルは密になっているのですが、密だと伸びたり縮んだりできないので、浮力を利用して上に引っ張りながら作るとある程度離れたりピッチが空いたゲルができます。最初は密なのですが、段々浮力が多くなってぐわーっと引っ張られて、そうするとピッチが空きます。この材料というのを温度に応答して収縮膨潤するPNIPAMという非常に有名なゲルで作りました。非常に綺麗なものができるのですが、最初は密で段々伸びていくというような構造になっています。


セミナー写真2 セミナー写真2

これを2層にして、色々なピッチのものを作って動かしてみましたというお話しですね。このパターンの配置の仕方や厚さなどによって大分収縮の度合いが違うのですが、それを最適化するというより変位を大きくするようなアクチュエータにできます。縦軸が収縮率、横軸が時間です。例えばピッチの差によって、下に行けばいくほど縮んでいます。広げておくと軸方向に非常に多く縮みます。という感じで20%の変位が変形するようなアクチュエータができます。これは繰り返し動作を確認したものです。繰り返すとどんどん伸びたり縮んだりというのは当然できるというのが結果です。こういう形にすることで単純な材料が縮んだり大きくしたりするというような変位に対して、変位を拡大できるというのがこの結果です。この二つのデータはゲルの塊についてです。塊を縮めると65%くらいしかゲルは収縮しないのですが、このようなスプリングの形を作ってピッチをコントロールしてあげると、なんと同じ材料なのに収縮率が20%上がっていきます。これは、断面方向と軸方向で異方的に縮むので、伸び縮みする方向に優先的に縮むような素材といえます。材料は同じなのですが、構造を工夫することでこのような構造ができるというような話です。
紐を作る、というコンセプトから発展して、このような応用研究もしています。

いかに簡単に作れるか。マイクロゲルビーズの研究

紐と同様に、ゲルのビーズでも同じような形で研究しています。マイクロビーズといいますが、これはカプセルでいろいろなものを封入できる機能性があり、注目されています。特にゲルで作ると、細胞であったり薬であったりをうまく中に封入できます。このように封入していると扱いやすく、また溶かして薬を放出したりするというようなことで、さまざまな用途が考えられます。最近はそのパーティクルの中に右と左を作って、いろいろな機能を付与することができるんじゃないかと考えられ、多機能性の粒子というものも多く研究されています。例えばヤヌス型と言いまして、右と左に違ったものを封入するタイプでは、2種類、もしくはそれ以上の薬を入れたりすることができます。こういうもののをどうやって作っているかというと、インクジェットプリンターなどで作ったりしますし、サラダをドレッシングするような感じでかき混ぜたりして作ったりするのですが、均一に作るためによく使われているのが「マイクロスケールの流路」を使うという方法です。オイルの中にポリマーという溶液を流します。そうするとこういった径が揃った液滴がたくさんできます。それをあとでポリメライゼーションで固めて、こういった機能性の粒子を作ります。いろいろなタイプの流路があり、昔からある方法なのですが、右と左で色の違う粒子を作って、例えばこのような粒子はKIndleなどの画素の白と黒の表示装置の画素に使われていたりします。
 これは実際やってみるとかなり専門的な技術がたくさん必要で、デバイスがあって、こういう形でポンプも必要ですし、詰まったりして大変です。かなり慣れていないとできなかったりしますね。また、オイルがあるので、作ったものがオイルの中にできてしまうため、細胞を利用するときは非常に困ります。ですから、これを簡単に作りたいなと思いました。材料の研究をされている先生方と話をしていて、自分たちのところでこういうのを作りたいんだけどマイクロデバイスがないと作れないので、うまくコラボレーションしてやらないといけないのです。どうしても研究のスピードが遅くなってしまって、なかなか思うように進まないという現状があります。ですから可能な限り簡単に作るというようなことを考え、着目したのが、この簡単な原理です。管から液が落ちると水玉ができると思うのですが、当然この管の径、表面張力、重力などによって水玉の大きさが決まります。ということは、管径を小さくしてグラビティを大きくするととても小さいものができます。経験的に100ミクロンくらいの管径で3000Gくらいかけると100ミクロンくらい。これをうまく簡単に再現できないかなということで、これは右と左の液体を変えたバージョンなのですが、このように先ほどのゲルでアルギン酸のゲルの溶液を高重力下でカルシウムの溶液の中に打ち出して、着水と同時にゲル化させるということで、右と左に機能性を持っているようなゲルのパーティクルを作ろうというようなアイデアで技術を開発しました。


セミナー写真3 セミナー写真3

どういう風に重力をかけるかについても、どこにでもあるというような簡単な卓上型の遠心機を使えないかと考えました。遠心機の中に右と左に区分けされたガラス管を入れて、アクリルの板とネジで作ったこのガラス管を固定するホルダーを作り、これを中に入れてピッと押すだけで、遠心力で打ち出されて、高い重力なのでとても小さいパーティクルがたくさん生成されるというような原理のデバイスを開発しました。これで簡単に作れることがわかりました。ガラス管の中にチューブを使って液を入れておいて、それをホルダーに差し込み、ホルダーの先、ガラス管の先端の位置を綺麗に合わせておいて、そのゲルを固めるためのゲル化剤である塩化カルシウムを少し中に入れ、セッティング。それでパーティクルが完成します。最短3分20秒でできました。それだけでこのような均一なパーティクルが作れるというような技術です。しかもガラス管とテーブルトップの遠心管で、どこにでもあるので、非常にコストも安いというような技術を開発しました。結構綺麗にできて、実は100ミクロンくらいのパーティクルと小さいサテライトパーティクルというのができます。これは高分子の液体をドロップレットにすると糸を引いて、糸の部分が切れて小さいパーティクルが一緒にできるという原理なので、二つの種類の径の分布ができます。小さい径の方は15ミクロンくらい、大きい径の方は100ミクロンくらいのものができます。びっくりするのが、小さい方もちゃんと右と左で分かれていることです。内部もしっかり分かれています。最初は液体の中に重力で打ち出すので、変形してしまうのかなと思ったのですが、変形せずに綺麗な形で固まるというのが非常に驚いたところです。いろいろなガラス管が市販で売っていますので、マルチコンバートメントライゼーションというところで簡単にこういうものが作ることができます。
 例えば細胞と磁性流体を一緒に入れておくと、こういった必要な材料が封入できて、それを使うと磁場に本当に綺麗を並べたいとか、いろいろな細胞を封入するパーティクルにたくさんの機能を付加できると。ただ、この技術の問題点はアルギン酸じゃないとできないというところです。研究を続けて機能性材料に変えていきたいなという風に思っていまして、現在例えば細胞培養するためのコラーゲンに変えるとか、もっと別のフォトコーリデライゼーションしたパーティクルに変えられるものとして研究開発をしているような状況です。これは非常に簡単ですので、興味があればぜひ使っていただければと思います。

セミナー写真4

共同研究の良いところ

私は機械工学の専門で、自分がそんなにたくさんのことを自分一人ではできなくて、常に共同研究でいろいろな先生に教えていただきながら、協力してもらいながらやっていました。私は共同研究が好きなので、一緒に考えてくれることを非常に心強いと思います。本当に当たり前なのですが、専門外の方から自分の予想外のアドバイスをもらえると言うことはとても刺激になります。非常にやっていて楽しいです。私一人では絶対にできないことができます。そういう意味で共同研究は非常に良いなと思います。一人でやるよりみんなでやったほうがモチベーションが湧きますし、楽しくやれることが多いなということで、いろいろな分野の融合研究をこれからもやっていきたいなと思っています。
 共同研究は、楽しくするためにとにかく軽いノリで初めてみても良いんじゃないかと思いますね。気軽に初めてみたりということは重要かなと。あと思ったことは素直に言った方が非常に良いでしょう。抑えてばかりいるとモヤモヤしてしまうので、素人なんで教えていただきたいのですが、なんでそうやるのでしょうかと気軽に話すということは非常に重要かなと思います。そして、相互理解するまで割と時間がかかるので、焦らずゆっくりやるというのがコツかなと思います。ある時にお互いの理解が進んで、これはいけるとお互いがなった時にすごいパワーが出るんじゃないかと私は個人的に思います。
 最後に謝辞なのですが、私の細胞のファイバーを研究をさせていただきました竹内先生の研究室の皆さんと、移植の興津先生、それから私の研究室のスプリングをやっていた吉田くんに謝辞を言いたいと思います。研究室のウェブサイトがありますので、興味がありましたら是非ご覧になってください。ではみなさんどうもご静聴ありがとうございました。 

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招聘コーディネーターである小島伸彦准教授のコメント

 傷んだ臓器を置き換えるという再生医療を実現するためには、細胞を自在に扱う技術を開発する必要があります。細胞は木や石、あるいは金属などといった、これまで人類が扱ってきた材料とは少し違います。細胞は小さくて壊れやすく、酸素や栄養を与える必要もあります。この厄介な材料を使いこなして、移植可能な臓器をつくっていくためには、様々な研究分野を巻き込んだ学際融合的な研究体制の構築が必須です。今回のセミナーでは、同様の問題意識をもって再生医療分野で融合的研究に挑戦する、新進気鋭の研究者を講師として招聘しました。工学と医学との連携研究について、研究に関するスタイルや文化の違いをどのように乗り越えたのかを紹介された経験談は、参加した教員や学生にとっても大変参考になったと思います。新しい魅力的な研究は、学際領域にこそ芽生えます。このセミナーを機に研究科の中でも様々な学際的研究が活性化することを期待しています。

小島伸彦准教授

セミナー取材にあたって

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この公演のために尽力された方々とのショット。共同研究の楽しさ、難しさについて考える良い機会になる講演でした。

2018年という新しい年のはじめに、工学と生物・医学の融合、そして共同研究の難しさと面白さについて語られる、大変興味深いセミナーでした。
専門的なことはともかく、先生がおっしゃる共同研究での医師の先生とのやり取りなどは、なるほどと思わせるものがあり、お話としてもわかりやすく、楽しい講演でもありました。
マイクロマシンと再生医療の関わり、紐を作るというアイデアなど、学生にとっても貴重なひとときとなったことと思います。

セミナー写真4

この公演のために尽力された方々とのショット。共同研究の楽しさ、難しさについて考える良い機会になる講演でした。