seminar04 DAISUKE MARUYAMA

研究セミナー特集

Seminar02

知られざる植物たちの姿を科学する(木原生物学研究所) 「重複受精」と「多花粉管拒否」の仕組み。

2018年1月15日(月)開催  
会場:理化学研究所 横浜キャンパス

● 木原研究所 丸山大輔助教

丸山大輔助教による理研-ITbM-木原合同ワークショップでの講演

丸山大輔助教

丸山 大輔 助教

丸山大輔助教

学術院 国際総合科学群 自然科学系列 国際総合科学部
理学系生命環境コース 生命ナノシステム科学研究科
生命環境システム科学専攻
舞岡キャンパス・木原生物学研究所勤務
2010年に名古屋大学理学研究科で博士(理学)を取得。
名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM) 特任助教を経て現職に至る。
主な研究分野は生物科学、細胞生物学、基礎生物学、植物分子、生理科学。2015年に日本細胞生物学会に若手最優秀発表賞、名古屋大学石田賞を受賞。2016年に文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞。

重複受精 -植物は2度受精する-

植物の繁殖行為には、実に不思議な現象が数多くありますが、その一つに、「重複受精」というものがあります。主に被子植物でのお話です。被子植物とは、私たちが最もよく目にする、花を咲かせ、その種子が子房に包まれて成長するタイプの植物です。一般的に動物では、一つの「精子」と一つの「卵細胞」が「受精」します。しかし被子植物では、二つの精細胞が登場し、「受精」が2度起こることがわかっています。これを「重複受精」と呼んでいます。なんでこんな面倒なことを行うのかと、人間である私たちは思ってしまいますよね。実はこの2つの受精は、それぞれ役割を持っていて、精細胞が胚嚢に達すると、二つの精細胞のどちらかが卵細胞と受精して、やがて胚となり、植物の幼体となります。もう一つの精細胞は、中央細胞というものと受精し、後にタネの中で胚の栄養となる胚乳になります。胚と胚乳は、それらを含む種皮とあわせて、子孫に命をつなぐ種子が作られる、と言う複雑な仕掛けになっています。

ライブイメージングで迫る、多花粉管拒否の仕組み

 ここに至るまでの精細胞の動き方も実に巧妙で、2つの精細胞は花粉管とよばれる細長い細胞によってめしべの柱頭から胚珠へとはるばる運ばれ、それぞれ卵細胞と中央細胞で受精します。ところが、最初の花粉から2つの精細胞を受け取り重複受精を終えた胚珠は、それ以降に花粉管を誘引しないようにするしくみを持ちます。これを「多花粉管拒否」と言います。
まず、花粉管を胚珠へと導くには胚珠にある2つの助細胞というものが必須の役割を果たしています。2つの助細胞は、「花粉管誘引ペプチド」を分泌することによって、花粉管を胚珠内へ誘引する働きを持ちます。その後、重複受精完了すると助細胞は不活性化し、花粉管の誘導を停止するのですが、その仕組みの詳細は長く不明でした。そこで私たちの研究チームは、どうして助細胞が不活性化するのか、その過程を顕微鏡(ライブイメージング)で追まりました。その結果、受精後の助細胞が、隣にある胚乳と細胞融合することがわかったのです。細胞壁に覆われた植物細胞には珍しい新たな細胞融合現象の発見です。この現象を「助細胞胚乳融合」と名付けました。さらなる解析の結果、融合後、助細胞が分泌する予定だった花粉管誘引ペプチドは胚乳へと流出したことから、助細胞胚乳融合が花粉管誘因ペプチドの分泌を乱すことにより、花粉管誘引が停止することが予想されました。

雄しべの構造

細胞融合はどのようにして起こるのか

 さらに研究は深いところへと入り込み、助細胞と胚乳の融合に必要なものが何かを調べるため、様々な化学物質を与えたときの細胞融合への影響を調べてみました。
 タンパク質合成を阻害する薬剤(Cycloheximide)を加えた培地で受精後の胚珠を培養すると、助細胞と胚乳の融合が抑えられることがわかりました。つまり、受精後に胚珠内で新しく作られるタンパク質が細胞融合に重要だということになります。さらに細胞周期を停止する薬剤(Roscovitine)の影響を調べたところ、分裂期への移行を止める薬剤によって細胞融合が抑えられました。つまり、融合開始のシグナルは細胞分裂の仕組みと連動していることが示唆されると、そのように判断できます。このように薬剤を使う方法で、助細胞と胚乳の融合に必要な条件が見えてきました。今後、これらの条件を使って、「助細胞胚乳融合」の仕組みについて、さらに詳細な解析を進めたいと考えています。

図は蛍光顕微鏡を使ったイメージング写真。胚乳の核とサイトゾルを緑色蛍光タンパク質(GFP)で光らせて、受精後の胚珠を観察している様子です。

GFP GFP

植物たちの複雑な事情

植物はかつて海の藻のようなものから発生し、光合成を行うことで自分が必要なエネルギーを作り出すことに成功しました。そのとき排出された酸素がやがて地球上に充満し、オゾン層まで作ったことで、私たち人間はもちろん、すべての生物に生存可能な環境を作ってきました。私たちはどうしても動くものに目が行きがちで、植物の摩訶不思議な生態にはあまり触れる機会はないかもしれません。しかし、植物は自分で歩いて移動することができない分、実は自分の体の中で、思いもよらぬ複雑なメカニズムを働かせ、進化し、様々な事情を抱えながら自身を存続させていることがおわかりかと思います。
 木原生物学研究所では、数多くの遺伝的資源を持ち、高度な研究を行っています。これからも、この研究所にご期待ください。

最後に、参加した学生からの一言

セミナー写真4

ワークショップに参加した本学学生のポスター発表の様子

理研-ITbM-木原合同ワークショップでは、施設の紹介や面白い研究を聞くことができました。またポスター発表もあり、異分野の研究内容を詳しく聞くことができてとても勉強になりました。さらに理研の最新の顕微鏡なども見学させていただき、研究意欲が湧く充実した一日となりました。(佐藤 萌子:生命ナノシステム科学研究科 博士前期課程1年)

セミナー写真4

ワークショップに参加した本学学生のポスター発表の様子