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国際総合科学部 国際教養学系 国際文化コース 准教授

松本郁代(まつもといくよ)Ikuyo Matsumoto

文化の起源に迫る、歴史研究の道

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松本郁代(まつもといくよ)

准教授
国際総合科学部 国際教養学系 国際文化コース
大学院 都市社会文化研究科 都市社会文化専攻

立命館大学大学院で日本史学を専攻し、博士号を取得。専門は日本文化史・日本中世史。ロンドン大学SOASなど海外で日本研究の視点を学び、天皇の即位儀礼や中世王権に関する分析から文化史としての問題を問う。また、本学学術情報センター所蔵の貴重書のデジタル・アーカイブ化においては中心的な役割を果たし、ゼミ生らと貴重書に関する市民講座なども積極的に行っている。

京都からはじまった研究の日々

もともと歴史や古典が好きで、平安京の所在地であった京都の大学に進学し日本史学を専攻しました。当初興味を抱いていたのは神と仏の関係が作り出す聖と俗、日常性と非日常性など、仏教的世界が時間や空間の基軸になっていた時代に育まれた歴史文化であり、これらがどのような歴史として語られているのか、またそのような歴史はどのように位置づけられるのかなど、歴史学研究としては漠然としたものでした。大学では、中世の伊勢神宮に関する神仏習合や、天皇の即位儀礼をめぐる王権や宗教文化について研究しながら、宗教性を多分にもつ日本の文化的起源やその正統性の在り方といった問題へと関心をつなげていきました。

日本における中世とは、一般的に11世紀〜16世紀、院政期〜戦国時代を指しますが、この中世というのは日本の歴史の中で、現代につながるさまざまな文化的事象が成立した非常に興味深い時期ともいえます。例えば3度の食事をするといった生活習慣や正月行事などの年中行事、茶道や華道など現在「何々道」と名付けられている文化の相伝起源など、現代に息づく習慣や伝統行事の多くがこの頃から始まります。この時期はまさしく文化の起源となる正統的な形式が権力や権威としてではなく生活文化の次元に形成され、その後の日本文化としての成立にも影響を与えるような、俗なる日常に聖なる非日常的世界や考え方が流れ込んでいる、歴史的インパクトをもつ時代だと思います。

学部1回生の時から京都に下宿し、卒論、修士論文、博士論文を執筆するために研究に没頭した日々は、ますます私を研究好きにしました。中世が昨日の出来事であったように感じ、歴史上の人物や仏像について知り合いのように語り、その歴史の現場へ足を運び、黙々と史料を探し図書館で本を読み漁るという夢のような日々と同時に、自分の研究に苦しんだ経験は、現在の私の研究を牽引する原点になっています。

ロンドンで得た新しい学びの視点、そして横浜へ

博士号を取得後、ロンドン大学SOAS(School of Oriental and African Studies)の客員研究員として、日本研究に対する視点や問題点を相対的に学びました。ここでは、専門分野に特化した学びというよりも、学際的(Keyword-1)といわれる各分野の方法論を交わしながらの研究が行われており、今まで、日本、しかも中世だけに的を絞って研究を続けてきた私にとっては、自分の視野や知識の狭さを痛感するばかりでした。また、時に日本人なら日本に関することを何でも知っているだろう、と専門外のことを質問されることもあり、ドギマギしたものです。日本や京都から離れ海外に出たことで、日本の歴史を見る目や研究に対するスタンスが確実に変化していきました。

ロンドンでは、歴史研究とは異なる宗教学的な理論や美術史、図像学的な観点にもとづく研究手法を教わりました。これらは学際的な観点から文化史を捉える上で非常に勉強になりました。また大英博物館や大英図書館も目の前にあり、その後の研究活動を共にするような恩師や友人に恵まれた貴重な日々となりました。

海外における日本研究は、基本的に日本や日本人とは別のコミュニティーで行われており、日本と全く異なる研究認識が共有され、海外から逆に刺激を受け日本で再認識される研究もあり、活発です。こうした環境にいた事で、大文字の日本人や日本という対象を、逆に外部から捉える視点の持ち方を覚えました。この時得られた経験は私の財産のひとつになっています。

15年に亘る京都での研究生活を終え、2008年、次の居場所となったのが、自然豊かな金沢八景にある横浜市立大学でした。京都と同様に幕府が所在した鎌倉や金沢文庫に隣接しており、中世史の研究を続けるには絶好の立地にあり、今度は学生たちとともに新たな挑戦をはじめることとなったのです。

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学際的(がくさいてき)とは、ある研究が複数の学問分野に関わることをいう。これまでの学問は、あるひとつの領域に対して限定的に研究する事で理解のしやすさを求めてきたが、研究の成果は単なる研究対象の理解にとどまらず、それがもたらす社会的意義や研究成果の波及効果を考えるべきであるという観点に立ったとき、多くの場合、関連する各分野からの研究アプローチが同時に行われる必要性が生じる。このため、近年では、分野を超えた横断的な研究手法から事象をあらゆる面から捉え、より幅広く高度な研究成果を求めるような傾向となっている。こうした研究を学際的研究といい、欧米ではすでに一般的な研究形態として捉えられている。

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