NORIE MIWA & YUKARI TAMURA Seminar03 NORIE MIWA & YUKARI TAMURA Seminar03

研究セミナー特集

Seminar03 「プレイスメイキングと子どもの居場所づくり」 まちづくりの現場からこどもの居場所を誘発する仕掛けづくり

開催日 / 2016年11月29日(火) pm18:00〜19:30
開催場所 / 横浜市立大学 金沢八景キャンパス YCUスクエアY401
対談者 / 三輪律江 准教授
ゲスト / 田村柚香里 氏(ワークヴィジョンズ・プロジェクトマネージャー)

3. 田村 柚香里氏と三輪 律江准教授による質疑応答

質疑応答 田村 柚香里 三輪 律江
質疑応答 田村 柚香里 三輪 律江

質疑応答

【三輪】

田村さんに2つの事例をお話しいただきました。なんでできるんだろうという仕組み、疑問に思うことがたくさんあるかと思いますが、質問がありましたらぜひお受けしたいんですけど、いかがですか?

Q.学部2年のまちづくりコースの和田と申します。本日は貴重なお話ありがとうございました。ゼミなどをやってるんですけどとても今日のお話はその中でとても活かせるんじゃないかという点が色々ありましてとても参考になりました。2点ほど質問させていただきたいと思います。まず佐賀の方で、子ども達と一緒にワークショップや芝生を整備したりとか、子ども達というのはどういう経緯で集まってくるのか?子ども達と一緒にやっていく仕組み的なものはどうなっているのか?というのと、全体のそういうお金の回り方というか、そういう事業をするのにどうやってお金を集めているのか、芝生を作るにもお金がかかると思うのですけど、そういうお金はどうやって集まってきてるのかな?という2点をお聞きしたいと思います。よろしくお願いします。

【田村】

はい、とてもいい質問だと思います。まず子ども達を集める仕組みの方なんですけど、実は佐賀のプロジェクトは佐賀市から私共がまちなか再生プロジェクト推進業務みたいな形で業務委託を受けています。その中で1年目は、まちなか再生計画というものの策定からスタートしました。行政が作る中心市街地活性化の基本計画というのをみなさん多分ご存知だと思うんですけど、それを見ると点の集合でここでは何を作ります、ここでは、何を…といった計画になっているんですね。そうではなくて、私たちは誰もが参加できるような小さなプログラムばかりを集めた計画を作りました。その上でそのプログラムにしたがって社会実験というのをやってきてるんですけども、社会実験自体は当然実験ですから、行政の方で費用の負担をしてます。ただ、借地をしている借地料は行政が負担しています、ここで考えたのは自分でもヒットだったのが手前味噌なんですが。それも固定資産税と同等の金額なので、佐賀の中心市街地の地価が相当下落してることもあってすごく安いんですね。コンテナに関しては、社会実験当初スタートした時は1年で終わるかもしれないというのが前提だったので、これを行政で作ってしまうと、一年のためにお金はかけられないと思い、目をつけたのが市内の建設業者、しかも元気な建設業者。その中の一社がちょうど会社創立50周年記念事業を謳って社会貢献プロジェクトをしますというのを言ってるタイミングだったんですね。そこで持ちかけたわけです。この社会実験ツールとしてのコンテナ建築をその社会貢献として作ってくれないか、もちろん無料でとはいいません、月20万のリース代を払いますと。こういうコンテナはもともとは安いんですが、セミナー写真1家具などを含めるとだいたい1000万ちょっとはかかってきます。実際には、作ってもらうときに自費を投じるとこれは固定資産ではなくてコンテナで移動できるので動産という形になるのですが、経理上は5年間で費用を償却していくという仕組みがあり、そうすると年間200万くらい入って来ればいいでしょうという交渉をして、年間200万でリースをしました。リースをするということは行政はリース代を払うということになりますから、初期投資とか固定のための施設整備のための投資というのが極端に少なくなるわけです。なので行政が建物を作るのに要しているのは年間200万ちょっとのリース代とそれから人件費。運営についてはNPOがやってますので委託をする人件費が市から若干出ていて、プラスαで借地する代金だけという状況です。「わいわい!!コンテナ1」は1年目が終わった時に、建設会社に負担した額が残っていましたが、これは佐賀県内の近隣の民間企業が社会実験を別の地域に移すのであればこのコンテナが欲しいですということで買い取ってくれました。そして今どうなっているかというと、佐賀市の隣の鹿嶋市というところにある子ども達のフットサルコートのクラブハウスになっており、買い取ってくれたことで建設業者もさほどお金を使ってない、さらに社会貢献事業でPRにもなったという、非常に良い状況となっています。また、芝生を貼ったりするお金については、これは最初の年に私どもの事務所が委託を受けた委託費の中から負担をしました。

2つ目の質問ですが、子ども達が集まるのは、もうひたすら広報です。チラシを作って幼稚園とかそういうところに頑張って撒いてます。あとは市の広報とかですね。コンテナのある一番の街中のエリアについては、一軒一軒人海戦術でビラを撒いてきてもらってる感じですね。

セミナー写真1

Q.一番最初のお話の時に、街中にお子さんやお母さんたちがいないということでしたけど、外から来るわけですか?その人たちの「つかみ」は、市の広報とかからですか?

【田村】

「わいわい!!コンテナ」を始めた時は、子育て世代が全くいないわけではなくて、その側にもマンションがあったんですけど、まち中には出てきていませんでした。ウェブサイトもオープンしましたがあまり見てもらえなかった。なのでオープンします!といった紙媒体を市の回覧板みたいなところに入れてもらったり、あとはお母さんたちの口コミですね。

Q.民間に対する行政のサポートというのは全くなかったのですか?

【田村】

そんなことはないです。コンテナに関わるところは基本的に行政の社会実験という位置付けがあるので、民間の動きに関してはうちが事務所を作ったというところもあって佐賀出身の佐賀に住んでいるスタッフを雇い入れており、彼らが地道に自分たちとその同級生とかでネットワークを作って。そこからスタートして動いているんですけど、人の家とか、人の土地にあくまでエリアマップですけど勝手に絵を描くとかのクリークの活動に関しては、まち中で5年とかやっていく中で、若い人達が戻ってくる。さらにその人達は自分たちで戻ってきてるから、もっとよくしようという意思のある人達が徐々に顔が見えてくるようになった。そういう人たちと一緒にクリークネットというネットワーク団体というものを作ってですね、それを母体に動いているという感じですね。そこに関しては、行政は原則としてはノータッチです。勝手に民間である私たちが、クリークを活用してまちづくりやりたいですと、回っているという感じです。あとは、インターネットを使った情報発信というのは、地方ではなかなかうまくいかないこともあるので、プレスリリースとかをかなりやって、新聞、TVとか、逆にそういう人たちに食いついてもらうリリースの仕方というのも、佐賀の人達に私たちも一緒に教えたりとか、そうすることによって新聞の人達から取材がきたりとか、TV取材の機会を得たりとか、そうやって広がっていく、そういうのが一番効果的なのかな、という感じはありますね。

Q.市役所の職員をしている者ですが、役所のサポートはあると思うのですけど、職員そのものが自らサポートに出てくるとか、このNPOに参加をしていくというような、そのような行政職員側の動きはありましたか?

【田村】

芝生を子ども達と一緒に貼るという作業になった時は、所轄している担当課以外の若手の職員さんたちも皆出てきて、若い人たちと声を掛け合って残りの工事を手伝って頂いたということがありました。また、一番顕著なのはクリークの活動ですね。今民間でやってますということで、行政が元とはなっていないのですが、クリークネットという民間の活動団体が、当然何かをやるときにも費用が必要なので、個人会員と法人会員という2本立ての会員組織にして、個人で月2千円、法人で一口2万円という会費制にしていて、それを活動の原資にしてます。それでイベントをやったり、いろんなことを仕掛けていくんですが、その個人会員には市役所の皆さんも入ってくれてますし、カヤックを借りたりしていますが、それも若手の方々が建設部からトラックを借りて、カヤックは緑化推進課から借りてといったように、若手の個人の方々がサポートしてくださっている。なので一応まちづくり推進課的な役割のところで、セミナー写真2許可を出すとか、貸し出ししますよとか、そういったことはしますけど、本来はそこまでは行政の仕事で、あとは民間がやっていかなくてはいけない。だからそういうことも市役所の職員の方々が個人的に集まってやって下さってる、そんな状況です。中には、行政という立場にいるといろいろ窮屈だったりしますので、民間として独立しませんかと声をかけてる人達もいますけど、今のところはまだまだ、行政の立場でご協力頂いてる感じです。

つい昨年の3月ですがもともと「わいわい‼︎コンテナ」を始めた時の経済部長が退職されたのですが、その方がおっしゃるには、芝生とコンテナでこんなに人が集まるなんてみじんも思ってなかったそうです。で、それ以前のまちなかの行政がどうだったかというと、商店街の通りごとに組織が分かれていて組織ごとに仲があまり良くない、全くもって組織として成り立っていなかったですし、誰もまちをなんとかしようなんて状態ではなく、かろうじてNPOはありましたけどそのNPOも破綻してしまった再開発ビルをやるために作られたPNO組織の後身のような感じだったそうです。プロジェクト当初は、そういう意識から変えていくということではなかなか大変でしたね。その問題は今も続いています。やはりNPO組織もトップにいる人が何年かに一回変わっていくので、その方の考え方によっては方向性がだいぶ変わってくるという状況ですし、基本的に市からこういうことをやりなさいということで委託をされると、それ以外のことはやらなくてもいいという感じになっていくので、むしろ私たちが佐賀に事務所を置いて地域の人たちと繋がりだしたことにNPO組織の中の若手がちょっと自分たちのやらなきゃいけないことがやれていないのではないか?という危機感を持ち始めたという感じです。

セミナー写真2

【三輪】

今日はですね、プレイスメイキングというところから始まっていて、その中に子どもの居場所みたいなものも誘発されてきたというお話の流れだったと思うんですけど、子どもをまちづくりに参画させるとなると、子どもへの着目という発想がしやすい、発想に流されていきやすいといいますか、でもやはりそれにはある程度大人の方からのデザイニングがしっかりしてないと継続していかないんだなというところですね。それから子どもの居場所づくりというと子どもだけにスタンスが傾いてしまいそうですが、そうではなく、お母さんの側とか、両方のバランスを見ているキーマンというのがおそらく田村さんのような立場で存在してないとできないのかな、とお話を聞いていて思いました。

私のレジュメを見て頂いて、最後のところにまちに子どもの居場所を作るための子どもの参画とその課題というのをいくつか挙げておりまして、その中で少しお話したいと持ったのは、子どものことは子どもの教育者の間だけで閉じて話を進めていくといった傾向があるんですけど、まちづくりという発想で見るとそれはいろんな関係者全体を繋げていかなくてはいけない。相手を巻き込むというか、相手にとっても良いこと、その解釈を伝えていかなきゃいけない。そういう広がりというのが今日のお話からなんとなく見え隠れしていたのと、最後のこれがいちばんポイントで、田村さん自身もとても楽しんでいて、苦労もあると思うんですけど、やっぱり楽しくというところがないと、すごく敏感に子どもがやらされてる感を感じるので、その辺が大人が楽しむ仕掛けがないと、子どもが絶対に楽しんで、そのマインドを続けようという風にならないだろうなと。

【田村】

単に芝生を張るという作業でも、子どもが来れば、お父さん、お母さん、お爺ちゃん、お婆ちゃんがついてくるという、こずるい発想もあるんですけど、子どもたちが楽しそうにしているというのが一番ポイントだろうという風に思ってます。

また喜多方の場合は県立高校のカリキュラムになるんですけど、ワークショップで作業をしている時は興味のない子がいたりするんですけど、実際に現場でやるということになると以外とそういう子たちが張り切ってやってたりとか、そういう過程を踏みながら、子どもたちも自分に何が向いてるか、そういうことを感じていくみたいなので、そのプロセスを見つつ、一緒にやっていく。無理強いはしない。やるまでは希望をなくすこともあるんですけど、実際に子ども達と体を動かす、そうなった時に楽しめてるな、というのは思います。

【三輪】

はい、今日は田村さんに実際の事例をお話頂いたんですけど、地方から学ぶところが多かったなという風に思います。田村さんにもう一度拍手を。それではここで終わりにしたいと思います。皆さんありがとうございました。

セミナー取材にあたって

セミナー写真3

3回目を迎えたセミナーは、まちづくりのエキスパートである本学の三輪准教授が、民間の立場からまちづくりを実践されているワークビジョンズの田村さんをゲストにお迎えして行われました。田村さんはエネルギッシュな活動で成果を上げられてきた方なのですが、壇上に上がった姿を見る限りでは、とても笑顔の素敵な優しい女性、といった印象を受けました。お話の中で印象的だったのは、ご自身の故郷でもある佐賀県のまちづくりのお話の最中にスクリーンで見せていただいた昭和30年台と現在の商店街の比較でした。高度成長期の商店街がこれほど活気にあふれていたのかと驚くと同時に、現代の商店街がいかに寂れてしまっているかを見せつけられた感じです。しかし、そうした現状に実践的なアイデアで、人々を再び呼び寄せるという実績を作られているというところに、大きな感動を覚えるとともに、田村さんや三輪先生のようなまちづくりを真剣に捉えるリーダーの必要性を、改めて感じた、そんなセミナーでした。

セミナー写真3