MIOKO TSUBOYA & NORMAN NAKAMURA Seminar01 MIOKO TSUBOYA & NORMAN NAKAMURA Seminar01

研究セミナー特集

Seminar01 多文化教育の実践と理論 神奈川における外国につながる子どもの教育支援

開催日 / 2016年7月8日(金) pm6:00〜7:30
開催場所 / 横浜コミュニティデザイン・ラボ さくらworksイベントスペース(横浜市中区)
講演 / 坪谷 美欧子 准教授
ゲスト / 中村ノーマン氏(多文化活動連絡協議会代表)
発表/院生 中沢英利子さん

1. ゲストスピーカー 中村ノーマン氏による講演

中村ノーマン氏

Norman Nakamura中村ノーマン氏

中村ノーマン氏

カナダで日系3世として生まれ、10歳の時に日本へ移り住む。大学院卒業後から、神奈川県川崎市内の製造会社に勤務。本人によれば、日本に来た際に周囲の人に支えられたことで成長することができ、とても恵まれていたと話す反面、制度としての日本国内の外国人受け入れや外国人の子どもの教育などには、不充分な状況があるとの思いを強くする。

その後、仕事を続ける傍ら、「日本の外国人教育や受け入れ態勢に関して、もっと充実したものにしたい=多文化共生のできる日本であって欲しい」という思いから、多文化共生の事を考え続け、川崎市国際交流センター(公益法人 川崎市国際交流協会)傘下の「多文化活動連絡協議会」をはじめ、関連した活動に積極的に参加。日本語を母国語としない人のための高校進学ガイダンスの主催等、外国人家庭とその子どもの支援活動を行なう。

第8期外国籍県民かながわ会議副委員長、教育文化部会長、第9期外国籍県民かながわ会議委員長を歴任、現在川崎市「多文化活動連絡協議会」代表。

外国につながる子どもたちが抱える
最大のハードルとは

みなさん、こんばんは。中村ノーマンです。

ここには、学生の方、社会人の方がいらっしゃると思いますが、このセミナーに参加され、「多文化共生」について考えていただけるということについて、外国人のひとりとして非常に感謝しております。

本日は、「多文化教育の実践と理論ー神奈川における外国につながる子どもの教育支援」というテーマですので、私の行っている活動のなかでも、「外国籍県民かながわ会議(※)」で感じたことを中心にお話をしようと考えています。

まず、この会場の中で「多文化共生」という言葉を知っている方はどれくらいいますでしょうか? 「多文化共生」というのは、わかりやすくいえば、「地域で構成しているさまざまな人たちが共に生きることができる環境」ということです。ここでいう「さまざまな人」のなかには、当然外国人も入りますね。最近、この言葉がメディアでも取り上げられるようになり、例えば日本テレビの「エブリー」という番組では、「外国人と共に暮らす社会へ」というテーマで、これからは外国人とも暮らしていかなくてはいけない時代になる、といったことが語られていました。

セミナー写真1

今日、私が話すことでまず覚えておいていただきたいのは、神奈川県の外国籍の人のおおよその数ですね。これが2015年の統計で約16万6,000人、県民の1.8%、おおよそ50人にひとりは外国籍ということになります。これは全国でも東京、大阪、愛知に次いで第4位です。そして、その中には当然子どもも含まれています。こうした子どもたちが、日本で暮らし社会人になっていくことには、非常に難しさがある。なかでも彼らの成長経過での大きなハードルが、実は「高校進学」であるということを覚えておいてください。

さて、子どもの教育といった場合、これは第一義的には、家庭の問題であるといったことをよく言われます。本人の努力と家庭のサポートで道は切り拓けるはずである、という考え方ですね。しかし私は、子どもというのは社会を構成するなかでの「未来の財産」であって、やがてその社会に貢献し、きちんと納税ができるようになること。そしてここまでを家庭だけではなく、社会も一緒になって導いて欲しいと思っています。実際のところ、納税したくてもできないぐらいにしか収入がない、という多くの人たちも社会を構成してる一員です。こういう人たちを減らし、皆が納税できるようになってくれた方が、その社会にとっていいに決まっていますね。であれば社会全体、地域のみんながサポートしましょう、と、そういう考え方です。ここでサポートがぜひとも必要と思うのが、先ほどいった外国につながる子どもたちが抱える「高校進学」のハードルなのですが、制度的なもの、言葉の教育の問題など、解決すべきことがたくさんあります。幸い、神奈川県の場合は日本語が流暢ではなくても高校に入学して勉強できる制度があるので、全国的に比べれば進んでいる方ではないかと思っています。

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※【外国籍県民かながわ会議】神奈川県内の外国籍県民の県政参加を推進し、外国籍県民が自らに関する諸問題を検討する場を確保しようという趣旨で、2010年より県民局くらし県民部内に置かれた会議実施機関。外国籍県民に係る施策に関することや課題について議論され、毎期神奈川県知事に提言を行っている。

「多文化共生社会」が必要だと思う理由

ここからは詳細に入っていきましょう。外国につながる子どもにとって「高校進学」がどれほど大切で、且つ難しいかということは後でお話しするとして、まず、外国人といってもいろいろな国の人がいます。神奈川県における外国籍の人たちの出身国というのは実に168カ国にのぼります。この中でパーセンテージが多いのは中国で32.7%を占めていますが、残りの167カ国は分散しており、非常に多様であることが特徴です。

そうしたことからも「多文化共生」を実現する社会であって欲しいと思います。神奈川県では神奈川国際化施策推進指針というものを制定し、これを定期的に見直しています。その中には、「多文化共生の地域をつくっていく」という方針があり、私が関わっている「外国籍県民かながわ会議」も、その役割のひとつということになります。徐々にですが、そういう方向になっています。

「多文化共生」の社会の実現というのは、しょうがなくてそうするのではなく、未来志向を持った社会をつくるという意識でいることが大切だと思います。これだけ多様な国の子どもがいて、それぞれの文化的背景や能力を持ちながら成長し、やがてはその社会で活躍してほしいということですから、未来を見据えたさまざまな支援や施策、ビジョンが必要なんだと思います。

ここで、先ほどから申し上げている高校進学のハードルの話をしましょう。日本の高校というのは、親の代から日本で生まれ、教育されてきた子ども達が受験という競争をして入る、というのが大前提になっています。こうした状況下で、外国につながる子どもたちに、日本人の子どもと同様の受験をさせるというのは、これはたいへんなことです。どんなに真面目で能力があっても、日本独特の受験勉強を日本語の微妙なニュアンスまで理解しながらパーフェクトに行う、なんてことは難しい。その結果、彼らの多くが高校進学をあきらめるということになります。

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ご承知かと思いますが、日本人の高校進学率は97〜98%に上ります。これに対し、外国とつながりのある子どもたちがどれぐらい日本の高校で勉強ができているかといいますと、こちらは進学率ではなく、在学率ということになるのですが、約30%となっています。これは、ある時点で全外国人の子どものうち、30%の子どもが日本の高校に在籍している、ということをあらわす統計なのですが、彼らが日本の高校に入るケースやタイミングが多様なため、このような数字に頼ることになります。ですので、私がここで問題としている、日本に来てずっと経済的に苦しい状況にある外国人家庭の子どもの高校進学率ということになると、さらに深刻な状況が浮き彫りになると予想できます。

いずれにしても7割の外国につながる子どもたちが高校に在籍できずにいるわけです。彼らの多くは給与もあまり上がらず、不安定な職業に就くことが多く、また彼らの親もそのような状態にある場合が多いのです。こうした家庭はいわゆる生活困窮といった状況に追い込まれがちです。日本の家庭における子どもの貧困率は、厚生労働省の調査で16.3%、つまり6人にひとりといわれていますが、外国につながりのある子どもたちの場合は、これまでお話しした内容から、これより相当高い比率になっているはずです。少しでも多くの外国とつながりのある子どもたちが高校に行けて、普通に稼げるような社会になって欲しいと思います。もともと日本では、全ての人が国内で食べて行くのが困難な時代があり、そうした際には、海外に移民を送り出していました。そうした歴史もふまえて、現代日本は、移民を受け入れるということについて、真剣に考えるべき時期にきているのではないでしょうか?

セミナー写真2

さまざまな提言を行うことで課題が議論され、
社会は少しずつ変わって行く

私は現在、外国につながる子どもたちの進学支援活動を行なっていますが、なによりも勉強に必要な日本語を学ぶ機会をつくることが重要となっています。特に親が困窮している家庭の子どもは、勉強するために必要な日本語を学ぶ機会が少なく、自分の考えを書くことがうまくできなかったり、抽象的な概念を日本語で表すことが苦手です。これでは高校に入っても、勉強についていけず、宿題もできません。私はこうした子どもたちへの支援をもっとひろげようとしていますが、そのなかで、一定の成果を上げつつあるのが「外国籍県民かながわ会議」の活動ではないかと思いますので、それをいくつかご紹介しましょう。

「外国籍県民かながわ会議」では、毎年、さまざまな提言を行っています。先ほど、神奈川県では、日本語が充分にできなくても外国籍の子どもが入学できるような制度があることに触れました。これは、県と国際交流財団という公益財団法人などが共同して進めていることなのですが、「在県外国人特別募集(在県枠)」というのを設け、外国籍または日本国籍(重国籍を含む)を取得して3年以内、日本での在留期間が通算3年以内の子どもたちに向けて、公立高校のうちのいくつかの高校が制度として募集をするというものです。試験科目を5教科から3教科に減らし、試験問題の漢字にはルビを振るなどの工夫がされています。この他にも、「一般募集での特別な受験方法」という制度があります。これは日本に来て6年以内の受験生を対象とし、一般高校入試に当たって、事前申請によって、ルビのついた試験問題の使用、試験時間の延長、面接時の会話をわかりやすくするなど、いくつかの特別措置が与えられるもので、外国につながる子どもたちのウィークポイントをカバーするような内容となっています。

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「外国籍県民かながわ会議」ではこうした制度、特に「在県枠」をより多くの子どもたちが利用できるように、採用する公立高校の数を増やす提言を繰り返し行いました。こうした提言によって、幸いなことに2017年度には、制度実施校の増加が実現する方向となっています。また、入学できればそれでいいというものではなく、高校生活をより充実させるために、地域での学習支援をひろめたり、支援する側の人材の確保について意見を述べる等、入学後の支援についてもアイデアの提供や活動を行なっています。また、学習支援以外にも、外国につながる子どもたちの高校進学をサポートする制度を敷く必要があると考え、外国人家庭に向けて「教育相談会」を開催しているのですが、この活動を神奈川県の教育委員会との共同の事業とすることができました。

また、「外国籍県民かながわ会議」の重要な役割として、社会へ向けての情報発信を行っています。例えば、外国とつながる子どもたちの厳しい現状と支援の必要性についての講座を開設し、一般の皆さんに伝えています。これを受講し、自分も何らかの支援をしたいと思う方々の受け皿となるように頑張っています。さらに、フォーラムを開催したり、日本人と外国人の交流イベントがあれば、そこに私たちも参加して情報発信を行うようにしています。こうした活動を行っていて、神奈川県が良いエリアだと思うことがあります。例えば神奈川県知事は、県民との対話を行っているのですが、その対話の相手方として外国籍である私も参加することができました。こうしたところは国際都市横浜を擁する神奈川県ならではだと思います。

駆け足でのお話となってしまいましたが、「多文化共生」というこれからの日本が避けられないであろうテーマについて、少しでも参考になればと思います。ありがとうございました。

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