vol.3 選挙制度のあり方を、経済学の手法で分析しています 国際総合科学群 公共経済学 教授 和田 淳一郎(わだ・じゅんいちろう) vol.3 選挙制度のあり方を、経済学の手法で分析しています 国際総合科学群 公共経済学 教授 和田 淳一郎(わだ・じゅんいちろう)

政治と経済は相互に影響しあうもの

政治の分野である選挙に経済学の手法からアプローチ

和田 淳一郎(わだ・じゅんいちろう)
国際総合科学群 公共経済学 教授
  • (学部)国際総合科学部 経営科学系 経済学コース
  • (大学院)国際マネジメント研究科
選挙区割りや投票率などをテーマに、経済学者の立場から研究。メディアへの出演や、自治体の選挙管理委員会で講師・委員などとしても活躍。

 経済学を専門とする私が主な研究テーマとしているのは間接民主制で、その中核となる選挙に特に注目しています。「経済学者がなぜ選挙の研究をするのか」と不思議に思う方もいるかもしれませんが、私の場合、分野としては政治を扱っていますが、あくまでも経済学の手法を用いて研究しているのです。
  私が専門としている「公共経済学」は、国や自治体などの公共機関などが行う経済活動を研究する学問ですから、主に市場経済を対象とするような、一般的な経済学のイメージとは異なります。伝統的な財政学が扱ってきた租税や財政支出に加えて、教育や医療福祉なども含めた問題を分析するのが「公共経済学」という学問です。
 その中でも公共選択論は、政治的な意思決定のプロセスに焦点を当てています。この分野では政治家や官僚の活動を自己の利益を追求するための戦略的な活動として捉え、特に選挙は政治家にとって重要であり、各政党の経済政策は選挙に勝つためのものとも考えられます。
 アベノミクスというわかりやすい例を見るまでもなく、政治と経済がお互いに影響しあっているのは明らかです。経済を良くするためには、政治にもうまく動いてもらわなければなりません。そのために一人ひとりの国民ができるのは、選挙を通して意思を反映することなのです。


選挙が公平で魅力的になるためのアイデアを様々な形で発信したい

 大学2年生の時、ケインズ[Keyword 1]の『貨幣論』を読むゼミに入りました。内容が非常に難しくて、いろんな本を参考にしているうちに出会ったのが、彼の『平和の経済的帰結』でした。
 この本は、ケインズが第一次世界大戦後のパリ講和会議でイギリス大蔵省代表を辞職して、1919年に出版したものです。彼は「ベルサイユ条約を批判して、ドイツに多額の賠償金を課すことは破滅を招く」と訴えていて、その後のドイツのインフレや第二次世界大戦に至る経緯を予言していたとも言えます。
 しかし、経済学的にいくら正しいことを言っても、世の中が良くならない場合もあるということも同時に感じました。そこで政治の意思決定に興味を持ったことが、公共経済学を勉強しようと思ったきっかけです。
 とりわけ興味を持ったテーマが「選挙」でした。1980年代当時の選挙制度は今以上に不均衡で、多くの問題に気付かされたのです。その興味は、大学院やアメリカ留学時代、そして現在を通じて尽きることがありません。選挙制度を変えるのは選挙に勝った政治家ですから、司法判断でもない限りルールはなかなか変わることはないのでしょうが、選挙が公平で魅力的になるためのアイデアを様々な形で発信していくつもりです。
 今後は、行動経済学や神経経済学などを用いたアプローチも試みたいと考えています。人間の投票行動には不合理な点も多く見られ、従来の主流派経済学だけでは分析が難しく、社会心理学を中心とした心理学にも大変興味があります。

[Keyword 1]ケインズ
ジョン・メイナード・ケインズ(1883~1946)。20世紀前半を代表するイギリスの経済学者。マクロ経済学の礎を築いた『雇用・利子および貨幣の一般理論』を1936年に発表。貨幣と失業、不況の関係性を示すことで、政府の公共投資などによる経済コントロールを説き、その後の先進国の経済政策に大きな影響を与えた。