vol.3 選挙制度のあり方を、経済学の手法で分析しています 国際総合科学群 公共経済学 教授 和田 淳一郎(わだ・じゅんいちろう) vol.3 選挙制度のあり方を、経済学の手法で分析しています 国際総合科学群 公共経済学 教授 和田 淳一郎(わだ・じゅんいちろう)

「一票の格差」の問題点とは?

票の重みの不平等が、経済効率性を歪めている

 国政選挙が行なわれる度にニュースで取り上げられる「一票の格差[Keyword 2]」はなぜ問題とされるのでしょうか。人間は生まれながらにして平等ですから、票も同じ重みでなければならないことは大原則です。
 ところが、日本では地方の一票の価値が都市部よりも重くなり、地方の選挙区の方が政治家の数が多くなっているのが現状です。
 こうした状況の下、「一票の価値の不平等が経済効率性を歪めている」というのが私の考えです。国からの地方交付税や補助金を1人当たりで計算すると、一票の価値が重い地域ほど手厚く分配されることも分かっています。地方では新しい新幹線の整備が進んでいるのに、首都圏のラッシュアワーが解消されないのは、一票の格差が効率性を引き下げる典型的な例です。
 より深刻なのが、保育所の待機児童の問題です。地方では定員に満たない保育所もあるのに、都会では保育所の数が足りないという逆転現象が起こっています。それも本来なら、子供の数が減っているはずなのに、最近になって話題になるというのもおかしな話です。横浜市のように自治体が待機児童ゼロを目指す努力をしているケースもありますが、保育所については、これまでの国政に問題があったと考えます。
 都市部の人々は地方に比べて、身近な場所に国会議員をはじめとする政治家が少なく、政治そのものが遠い存在になってしまっているのです。

[Keyword 2]一票の格差
選挙において、有権者1人が持つ一票の重みが不平等となること。議員1人当たりの有権者数が選挙区によって異なることなどによって生まれる。2012年の衆院選では最大2.43倍、2013年の参院選では最大4.77倍の格差が生じ、憲法違反として選挙の無効を求める訴訟も起こされ、11月の最高裁判決では「違憲状態」としながらも、選挙自体は有効とされた。

一票の平等追求の議論を、説得力のあるものに

 それでは、議員数と票数の割合を、どの県,選挙区でも平等にすることはできるのでしょうか。定数配分は、小数点以下まで計算すれば比例させることができますが、人間である議員の数は整数にしなければなりません。完全な平等は難しいとしても、理想的な議員定数配分の方法を追求する必要があります。
 区割りでは、コンピュータで行うというのも一つの方法です。最適な自動区割りをするための研究を、同僚の坂口利裕教授と共同で実施したこともあります。人の手を経由しなければ、ゲリマンダリング(特定の政党や候補者に区割りを有利にすること)が行われる危険性を回避し、選挙区のいびつな境界分けや飛び地もなくなるはずです。
 人口と定数配分の逆転すら起こっている日本では、注目を浴びることは少ないのですが、一票の平等追求の議論をより説得力のあるものにしていきたいと思っています。