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2019年 理学部シンポジウム レポート

2019年 理学部シンポジウム レポート

2019年9月21日、YCU金沢八景キャンパスにて理学部シンポジウムが開かれました。それぞれの専門分野の教員たちによる研究発表が行われ、理学部間の交流を図りました。いずれも興味深いプログラムの中から、いくつかの発表内容をレポートします。

3つのキャンパスから理学のスペシャリストが集結!

理学部や研究所を有する3つのキャンパスから教員が集い、それぞれ個性あふれる研究発表を行うシンポジウムが開催されたのは、今回が初めて。
これは、理学が多岐にわたる学問分野を持つうえ、YCUでは金沢八景、鶴見、舞岡とキャンパスが3つに分かれていることから、互いの研究を知り、キャンパス間を越えて交流を図ることを目的としたものです。今年度、学部再編により、新たに理学部が開設されたことを記念して、「理学部シンポジウム」と銘打って実施しました。

当日は、国際総合科学群長の高山光男教授による開会の挨拶から始まり、舞岡キャンパスの木原生物学研究所所長 木下哲教授、八景キャンパスの生命ナノシステム科学研究科長 橘勝教授、鶴見キャンパスの生命医科学研究科長 木寺詔紀教授より、各拠点における取組を紹介。続いて、各キャンパスから計8名の教員による研究発表が行われました。
ここでは、うち3名の講演について簡単にご紹介します。

美しい花と実りをもたらすフロリゲン 地球の環境変動に適応した食糧生産にも役立つ期待大!

まず、木原生物学研究所の辻 寛之准教授による「フロリゲンの分子機能解明と植物改良への展開 」——植物に美しい花とその後の実りをもたらす「フロリゲン」に関する話。その正体は長い間謎に包まれていましたが、世界中の植物科学者の研究によってごく最近フロリゲンの正体とはたらく仕組みが分子レベルで解明されました。
辻先生はその研究を主導した一人で、この成果は科学雑誌・ネイチャーに発表され、辻研究室の大学院生が撮影した写真は高等学校の生物の教科書にも掲載されています。

辻研究室では世界唯一のフロリゲンの生体イメージング技術、フロリゲン機能の大規模解析技術、野外圃場の栽培と情報技術を組み合わせた解析を駆使して、生物学の新しい領域を切り開く研究が進められています。

また、辻研究室ではフロリゲンが花を作る植物組織の名前から着想を得た“メリステムさん”という可愛いキャラクターTシャツを制作するなど、とてもアットホームな雰囲気のもとで研究に打ち込んでいます。 
木原生物学研究所 辻 寛之准教授

肉眼では捉えられないバクテリア。その小さな世界にはロマンが広がっている!

昨年度、生命ナノシステム科学研究科に着任した守 次朗助教は、環境微生物学、地球微生物学を専門とし、環境汚染と微生物との関わりなどについて研究をしていますが、この日は、「環境微生物学の新境地:除菌フィルターの濾液は新種の宝庫? 」というトピックで講演されました。
大腸菌などの代表的なバクテリアの大きさはおよそ1000分の1ミリ =1マイクロメートル。 そこで、液体試料や薬品などに含まれるこれらの微生物を濾過・除菌するため、編み目のサイズが0.2マイクロメートルの濾過フィルターが広く用いられています。一方で、こうしたフィルターを通過できる「超微小微生物」が存在することも、長年にわたって議論されてきました。
そんな中、2015年にカリフォルニア大学の研究グループは、0.2マイクロメートルのフィルターを通過する新種微生物の大集団を地下水から発見し、こうした未知の微生物群が広く環境中に存在することを提唱したことで、大きな反響を呼びました。こうして、守先生も「除菌フィルターの濾液」は「新種微生物の宝庫」であることに目を付け、本学近くの沿岸海水からも、除菌フィルターを通過する新規の海洋バクテリアを検出・培養することに成功しました。
新しく発見されたバクテリアが、人の役に立つかどうかという議論はさておき、「環境微生物学は未開拓な領域が多く残されている分野で、我々の知的好奇心を刺激するロマン溢れる学問である」と守先生は結んでいます。
生命ナノシステム科学研究科 守 次朗助教

NASAのラボ航空機で森林火災のVOCを調査した日本人初の搭乗者

今回、日本人で初めて、NASAのラボ航空機に乗り込んで、大気中の微量ガスの研究に取り組んだのが、生命ナノシステム科学研究科の関本奏子准教授です。

「大気中微量ガス成分の質量分析:分子計測から地球イメージングまで 」と
題し、講演をされた関本先生は本学卒業の生粋のYCU教員。「質量分析」という微量の物質を測定できる手法を使って、空気中に含まれる有機分子を計測しています。
大気は約21%の酸素と約78%の窒素、約1%のその他の物質でできており、その中には水や二酸化炭素、アルゴン、その他多くのVOC(揮発性有機化合物)があります。二酸化炭素には温室効果があり、地球温暖化の原因になっていることはよく知られていますが、このVOCもフロンやホルムアルデヒドのように地球環境に影響を与え、健康被害を引き起こすとされています。
関本先生は、こうした大気化学をリアルワールドで見てみたいと、アメリカで野外観測のメッカである研究機関NOAA(アメリカ海洋大気庁)に留学。VOCを質量分析で計測するグループに属し、新たなプロジェクトに参加しました。そこで、近年北米で大きな問題になっている森林火災から発生するVOCが引き起こす大気への影響について、関本先生の開発したメソッドをもとに調査を実施。この研究成果が2018年、NOAAのウェブニュースに掲載され、実際の山火事に通用するものなのか、NASAとNOAAの共同プロジェクトに世界中から総勢200名のサイエンティストが集まり、NASAの航空機を使用しての野外観測となったのです。

森林火災の煙の中にはどんなVOCが浮遊し、どんな化学反応が起こっているのか、計測のために煙の中を突っ切っていくというハードな観測に参加できた日本人は関本先生を含め2名のみ。そのリストにはしっかりとYCUの名前が刻まれていました。

関本先生は「まず分子を見て、そして世界を見て行く、というのが私の今後の目標。これからはもっと多くの日本人や本学の学生にもぜひ体験していただきたい」と語りました。

理学という多種多様な領域の中、8人のスペシャリストである教員陣の発表に対し、専門知識をもつ方々の質問が飛び交ったシンポジウム。ピオニーホールでの懇談会でさらに互いの交流を深め合い、幕を閉じました。
生命ナノシステム科学研究科 関本奏子准教授

(参考)当日の実施プログラム

【スーパーコンピュータによる生命系の分子シミュレーション 】
池口 満徳 教授(生命医科学研究科

【DNA ポリメラーゼ θ を介したエ ンドジョイニング 】
斎藤 慎太 助教(生命ナノシステム科学研究科

【“ネイティブ質量分析”による タンパク質の構造機能解析 】
明石 知子 准教授(生命医科学研究科

【環境微生物学の新境地:除菌フィルターの濾液は新種の宝庫? 】
守 次朗 助教(生命ナノシステム科学研究科

【フロリゲンの分子機能解明と植物改良への展開 】
辻 寛之 准教授(木原生物学研究所

【大気中微量ガス成分の質量分析:分子計測から地球イメージングまで 】
関本 奏子 准教授(生命ナノシステム科学研究科

【創薬モダリティ多様化に役立つ質量分析技術の開発をめざして 】
川崎 ナナ 教授(生命医科学研究科

【生きている物質の物理学 】
谷本 博一 講師 (生命ナノシステム科学研究科

【細胞極性の研究から新規微小管制御因子の研究へ 】
鈴木 厚 教授(生命医科学研究科

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