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国際商学部学生による海外フィールドワーク in 上海レポート

2019.10.17

テーマは「起業」「生活を支えるサービス」。学生が見た、聞いた、感じた上海を紹介

横浜市立大学の特徴あるカリキュラムに海外フィールドワークがあります。学部において盛んに実施されている活動の一つで、主に夏期休暇期間中を利用して授業やゼミ*1の活動テーマに合わせてアジア、欧米などの外国に渡航し、現地企業や大学、研究機関への訪問や市街での調査実習を行います。実習は、渡航前の事前調査、現地訪問・調査、帰国後の実習報告の流れで行われるのがスタンダードになっています。

今回は、国際商学部の芦澤美智子准教授*2が担当する学部授業「特講 企画提案型実習B」と大学院授業「研究指導」の一環で実施された海外フィールドワーク(中国・上海市、2019年8月18日~22日)の様子を学生がレポートします。なお、今回の海外フィールドワークは横浜企業経営支援財団(IDEC)*3の協力を得て実施されました。

*1 ゼミ
国際教養学部、国際商学部では学びたい専門領域に合わせてゼミに所属して行う研究活動のこと。活動期間は2年次から4年次までの3年間。4年次には研究の集大成として卒業論文を作成し、発表を行うことが必須となっています。
※データサイエンス学部、理学部は研究室に所属して研究活動を行います。配属時期は3年次です。

*2 芦澤美智子准教授
国際商学部・国際マネジメント研究科 准教授
産業再生機構や監査法人などで約10年の実務経験を持ち、その実務経験を踏まえて、企業再生/企業変革の研究に取り組んでいる。またこの数年はスタートアップ・エコシステムの研究に力を注いでおり、国際商学部で担当するゼミでは起業の研究を中心に進めている。産官学連携の実践型のゼミ活動に特徴がある。

*3 横浜企業経営支援財団(IDEC)
中小企業等の経営基盤の安定・強化をはじめ、経営革新、新事業創出、創業の促進を図るための支援事業と産業関連施設の管理運営を実施し、横浜経済の活性化と地域社会の健全な発展に寄与することを目的とした公益財団法人。

フィールドワークレポート in 上海

【報告者】
梶谷 響(かじがい ひびき)さん
国際総合科学部国際総合科学科経営科学系経営学コース 2年
千葉県 私立八千代松陰高等学校卒

深谷 萌絵(ふかや もえ)さん
国際総合科学部国際総合科学科経営科学系経営学コース 2年
静岡県 私立浜松日体高等学校卒

私たちは、8月18日~22日の5日間、芦澤先生の引率のもと学部生10名と修士学生(中国人留学生)3名の合計14名で中国・上海市へフィールドワークに行ってきました。
受験生の皆さんに私たちの海外フィールドワークを紹介します。

【スケジュール】
8月18日 日本出国
8月19日 上海交通大学隣接のインキュベーションセンター(NeoBay)・横浜市上海事務所(IDEC上海事務所)への訪問
8月20日 上海市政府・中国工業設計研究院(CIDI)・清華大学のスタートアップ支援組織(TusStar)の上海拠点への訪問
8月21日 アリババグループのスーパーマーケット視察
     3つのグループにわかれ研究テーマに合わせて市内調査
8月22日 帰国

まずは「起業」。

充実するスタートアップ支援

私たちが今回訪れたいくつかの施設は、起業を目指す人の支援を目的として運営されているものでした。私たちのゼミもビジネスプランを検討し、コンテストに出場していたので、起業を支援する仕組みについてとても興味を持っていました。ここから訪れた施設ごとに紹介していきます。
※横浜企業経営支援財団(IDEC)の協力で訪問が実現しました。
近未来の雰囲気が漂うインキュベーション施設の展示に心を弾ませました。

上海交通大学近隣のインキュベーションセンター

インキュベーションセンターとは“インキュベーション=孵化”を語源とし、スタートアップ(≒起業)を目指す人を支援するために運営されている施設のことを指します。私達は中国のトップ校である上海交通大学に隣接されたインキュベーションセンター「NeoBay」を訪れました。この施設は、上海交通大学、上海市、上海地産グループ(不動産会社)の3者により2015年に設立されたものです。

まず施設の大きさとその充実度合いに驚きました。ビルの中には起業に関する行政手続きが一気通貫でできるように、上海市役所の出張所までありました。大学付近にこのような施設があることで、起業に対する大学生の意識が変わるのだろうと思いました。また、実際この施設では創業以来4年間で600社もの会社が生まれていると聞いて驚きました。学生が起業に対して“憧れ”や“身近さ”を感じているのではないかと思います。大学と実際のビジネスの架け橋となって、新しい価値を世の中に広めていこうとする施設の方の熱心な説明もあり、刺激的な訪問となりました。
学生である私たちが上海市政府に入って担当の方とお話できた貴重な機会でした。

上海市政府

上海市政府のスタートアップ支援担当部署の方にお話を伺いました。中国は2015年から国の政策として起業支援を積極的に進めているとのことでした。上海市内にある工場や工業団地の多くが、上海市政府の方針に従い、巨大なインキュベーション拠点に形を変えているそうです。上海市政府は起業に必要な資金や手続きのサポートはもちろん、ビッグデータを基にした起業へのアドバイスをしたり、専門人材を集めた相談窓口の提供をしたりしているそうです。また、スタートアップの海外展開のサポートや大学生対象のビジネスコンテストの支援をしているそうです。そうした施策の数々に加えて、起業活動を支援するために、規制緩和にも積極的に取り組んでいると聞いて、「厳しそう」という中国政府のイメージが変わりました。
李董事長は日本語でたくさんの質問に答えてくださいました。

中国工業設計研究院(CIDI)

中国工業設計研究院は、中国全土の企業と連携することで繋がりを生み出し、その中で様々な支援を行っています。また、学生のスタートアップを技術面で支援しているそうです。董事長(社長)の李さんは長い間上海市政府にいて横浜市との橋渡しに尽力されてきたそうで日本語も堪能でした。日本語でのディスカッションだったので、私たちも積極的に質問をしました。時代に合わせて急速に変化しているという中国の文化や人々の考え方について学ぶことができました。
TusStarのオフィスはとてもきれいで周りの方も生き生きとしていて、新しいものを生み出す環境が整っていると感じました。

清華大学のスタートアップ支援組織の上海拠点

中国でランキング1位と言われる清華大学が運営する、スタートアップ支援組織(TusStar)の上海拠点を訪れました。この拠点は「長陽創谷」と言われる地域の中にあります。この地域は、元は工場だった広大な敷地を、大学のキャンパスをイメージした場所へとリニューアルして、たくさんのスタートアップが集まる場所にしたのだそうです。TusStarは、全世界に拠点があり、その多くは各国の大学との繋がりで広まっているそうです。TusStarのスタッフの方々とディスカッションをしているうちに、横浜にも拠点ができるのではないかという期待が膨らみました。

次は「生活を支えるサービス」。

行政や企業による市民の生活基盤の構築や新サービス。

上海市と横浜市は1973年に友好都市となっています。上海市の友好都市は今では60以上あるそうですが、その中でも横浜市は最初に友好都市となった都市だそうで、今でも深いつながりを持っているのだそうです。そうした深いつながりと具体的な取り組みについて学びました。また、上海の人々の食事を支える民間企業の最先端サービスを体験しました。
上海市と横浜市の友好都市提携45周年を記念して作られたきれいなポスターです。上海市と横浜市が上下対象に描かれています。

IDEC上海事務所(横浜市上海事務所)

IDEC上海事務所では、日本企業と中国企業、観光など様々な面で、両国間の繋がりのサポートをしているそうです。今年7月に上海市で開始された大規模なゴミ分別システムの導入にあたっては、上海市政府の方が横浜市を複数回訪ね、横浜市のごみの分別を参考にしたとのことでした。市民の生活を支えるサービスが高水準にある横浜市を誇りに思いました。また、都市同士のつながりが社会システムの発展につながる事例を聞いて、行政の仕事は思ったより国際的だなと思いました。

アリババグループのスーパーマーケット視察

アリババグループは、中国最大のEコマース(インターネットによるショッピングサイト)を運営している会社です。今回訪れたのは、そのアリババグループが運営するスーパーマーケットでした。日本にあるスーパーとの違いとしてまず気づいたのは、商品を入れた袋が店の天井付近のレーンにそって移動していること。これは、ネットで入った注文をもとに、店員が商品を袋に入れてセットしたもので、この後この袋は店を出て、専属のバイクで各家庭まで配達されるのだそうです。中国ではこのように、ネットの世界とリアルの店舗が融合したビジネスがとても盛んなんだそうです。とても面白い仕組みだと感じました。

最後は、「グループ調査」。

渡航前の事前調査で関心を持ったことを体験。

私たちはそれぞれ事前に設定した研究テーマに沿って現地でグループ調査を実施しました。主に、商業施設や市街地で日本にはない種類のサービスを体験しました。上海独自の文化に合わせたサービスが多く、また、アートも取り入れるなど文化的な水準もとても高いことが伺えました。

調査グループA班

A班は、中国の商業施設を調べることにしました。まず最初に、上海市内にたくさん見られる「luckin coffee」というカフェを訪れました。このカフェはスマートフォンによる注文が多く、商品ができるのを待つお客さんをほとんど見ませんでした。店内に椅子はほとんど無く、お客さんはスムーズに飲み物を受け取っていました。次に「新天地」という地区に行き、ショッピングモールを視察しました。店内には様々なアートが施されていました。最後にロボットがお酒を作る「ratio」というカフェに行きました。スマートフォンで商品を注文すると、ロボットが自動で飲み物を作ってくれる様子を見ました。最先端技術を用いた効率性と、エンターテインメント性を両立していて、日本では見たことのない光景でした。これらの調査を通じて、上海の店舗は積極的に、特徴を出すための工夫を凝らしたり、スマートフォンを利用して効率性を上げようとしたりしていることを知り、日本よりも新しいテクノロジーを積極的に取り入れて運営をしていることに刺激を受けました。
シェアリングサイクルを利用することで、現地の方々の暮らしをより深く知ることができました。

調査グループB班

B班はまず、60円ほどで乗れる地下鉄とDiDi(ディディ)と呼ばれるスマートフォンアプリで迎えに来てくれるタクシー配車サービスを駆使して、「田子坊(日本でいう浅草のような街)」を訪ねました。田子坊のような観光名所を自分たちの足で歩くことで上海ならではの町の人々の活気や文化の違いを実感することができました。
その後は、今や上海の人々の生活を支えているともいえるシェアリングサイクルを使って上海の中心街に行きました。なんとこのシェアリングサービス、提供している会社によっては最初の三十分間無料となっていて、比較的近い場所への移動はほとんど無料となるのです。しかし外国人である私たちがこのサービスを使いこなすのは難しく(言葉の壁や決済の問題などがありました)、全員が無事に自転車に乗れることができたときは、思わず笑顔がこぼれました。
このように、上海の日々の暮らしを体験することで、日本の生活も実はもっと改善できるかもしれないと思いました。ぐっと視野が広がって、新しい可能性が見えてきて、日本に帰ってもっと勉強しよう、いろいろ挑戦しようというわくわくした気持ちで帰国の途につきました。

海外フィールドワークを終えての感想

梶谷響さん

このフィールドワークで、今後YCUで学ぶ中で核となるであろう貴重な経験をしました。インキュベーション施設を訪れたり、現地の方々と交流したりする中で、日本のキャッシュレス化や起業のための環境整備の遅れを痛感しました。もちろん今の日本にも良いところはあります。だから従来の日本の良さを生かしつつ、どう改善すれば日本の現状を起業などの面でより良くしていけるか、これからのゼミ活動などを通して学び実践していきたいです。

深谷萌絵さん

全体を通して気付いたことが2つあります。1つ目は起業を生み出す環境の重要性です。今回のフィールドワークでは様々な施設を訪問させていただきました。その中で起業を多く生み出すためには政府や大学などが都市全体として支援していく必要があることを知りました。マクロな視点で起業を捉えることができるようになったと感じています。授業やゼミでの学習を前提として、これから学ぶ分野をより広げていきたいと思いました。2つ目は柔軟な考えを持つことの大切さです。上海市で様々なサービスを体験したことで、今までの中国のイメージが大きく変わり、その効率性に驚きました。キャッシュレスやシェアリングサービス等の浸透度は日本より高く、学ぶべき点は多くあると感じました。自国だけの先入観に囚われるのではなく、自分の目で見て学び、広い視点から物事を解決できる人になりたいと思いました。

芦澤美智子准教授のコメント

中国では近年、スタートアップ企業(ベンチャー企業)が新しい技術を次々と生み出し社会を大きく変化させています。日本よりもキャッシュレスが進み、商業施設ではインターネットを取り入れた様々なサービスが導入されています。今回のフィールドワークではこのような中国社会のエネルギッシュな様子を体感できました。また、中国のトップ大学の運営するスタートアップ支援施設を訪れて、スタートアップ企業を生み出す仕組みについて調査しました。今回のフィールドワークを通じて、参加学生は様々なことに驚き刺激を受け、中国のイメージが大きく変わったと言っていました。こうした体験を通じて「もっと世界を知りたい」と考える学生が増えていくのです。今後も私たち教員は、学生がさらなる視野を広げ、世界に羽ばたくきっかけとなる海外フィールドワークを学生に提供していきたいと思っています。
なお、2019年10月10日(木)に横浜インターコンチネンタルホテルで開催されたアジアけ・スマートシティ会議「Yokohama Youth Event 2019」にて、芦澤ゼミの代表学生3名が今回の上海での海外フィールドワークで調査した内容を元に「スタートアップエコシステムが持つ役割とポテンシャル」をテーマとして発表しました。
(2019/10/17)

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