難病の原因を解明し、
病気に苦しむ子どもたちを笑顔にしたい

医学群 小児科学(発生成育小児医療学)教授

伊藤秀一

いとう・しゅういち

伊藤秀一

未来を見据えて取り組んでいるもの

小児医療の未来を切り開く環境省プロジェクトに参加

 日々、患者さんと接している中で、「いつから、なぜこのような病気になったのか」とよく聞かれますが、その多くの場合が答えようがなく、明確に原因を説明できるのは、感染症や先天的に遺伝子に異常があるなど、実は一部に限られています。遺伝子に異常がある場合でも、発症する人としない人がいますから、確実なことは言えません。
 私の専門分野でも、ネフローゼ症候群[keyword2]は原因不明ですし、他にも近年、特に患者数が増えている川崎病[keyword3]も原因不明です。川崎病はまさに右肩上がりで患者数が増えている病気で、年間約1万4,000人、200人に1人くらいの子どもがこの病気を発症しています。

 現在、YCUでは環境省のプロジェクトである「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」に参加しています。これは、全国で10万人の妊婦さんと赤ちゃんに協力をお願いし、生まれた子どもが13歳になるまでの間、どのように成長していくか出生コーホート(追跡)調査を行うプロジェクトです。この調査の狙いは、胎児期や生後の環境、騒音、大気の汚れ、さまざまな化学物質などが、子どもの発育にどのような影響を与えているかを調べることです。YCUは現在、「神奈川ユニットセンター」としてこのプロジェクトに参加しており、私はその副センター長として取り組んでいるほか、川崎病のプロジェクトリーダーをしています。エコチル調査により、川崎病を発症した人としなかった人の背景を比べることで、病気の原因や病気の危険因子を発見できるかもしれません。このような研究を疫学研究といいますが、今後一層必要性が高まってくると考えられています。

 

研究とともに、人材育成に力を入れていきたい

 私はリウマチ疾患や腎臓病など、長期に治療を必要とする病気のお子さんを沢山診させて頂いておりますが、その過程で時々、思いがけないことがあります。例えば、小さい頃に重症な病気を発症したお子さんが、新たに開発された治療法により、普通に学校生活を送れるようになり、ある時外来で「医師になるために医学部に入りました」とか「看護師を目指して頑張っています」などと言ってくれることです。そのたびに自分たちの仕事に喜びとやりがいを感じており、私は小児科医という仕事が大好きです。若い皆さんには、どの分野であれ社会に貢献し、自分らしく活躍できる仕事を見つけてほしいと思います。私はこれまで本当に恵まれていて、さまざまな人に育てられ、教えられ、支えられてきました。小児科医は未来のために献身する仕事で、これからも小児科医という仕事にプライドと愛情を持って、診療に研究に活躍する人材の育成に一層力を入れたいと思っています。

 私は、医学生や若い医師に次のABCが大切だと言っています。それは、「A(AMBITION)、B(BORDERLESS)、C(CHALLENGE)」です。(A)大志と情熱を持ち、(B)人種、国、専門性、さらには自分の限界を乗り越え、(C)挑戦し続けること。YCUのOBとして、学生や若い医師がYCUで自分の人生の目標となるABCを見つけてもらえれば嬉しいです。
Keyword 2ネフローゼ症候群

尿の中に大量の蛋白質が漏れ出て、血液中の蛋白質が減ることで浮腫(むくみ)、血液中のコレステロールなどの脂質の上昇等が現れる疾患。主に3~5歳の子どもによく見られる病気で、年間1,000人ほどの小児患者が発症しているが、30%程度の患者は成人まで症状が続く。

Keyword 3川崎病
5歳以下の子ども、特に1歳前後の乳幼児によく見られる病気。高熱が5日以上続いて全身に赤い発疹ができ、唇が腫れて出血したり、手足が赤く腫れたり、目が充血したり、リンパ節が腫れる。いまだに原因は不明で、心臓の冠状動脈に動脈瘤などに重い後遺症が残ることもある。病名は、発見者の川崎富作博士の名前に由来している。
忙しいので、趣味といっても週に1~2回泳ぐか、たまに庭いじりをするくらいです。学生の頃はアクティブにいろいろと活動していました。硬式テニス部の他に、自然が好きで全学の探検部にも入っていたのですが、一泊二日で青木ヶ原樹海を縦断したり、北海道の熊が出そうな山に登ったりしました。他にも、テントを持ってオーストラリアを半周したり、ブラジルのアマゾンや南アメリカの大湿地帯・パンタナールにも行きました。このときは幻の黄金の大魚と呼ばれるドラードという魚を釣り上げたくて行ったのですが、小さなドラードと大量のピラニアしか釣れなかった苦い思い出もあります。いつの日か海外を放浪したいですが、せめて時間に余裕ができたら、カヌーやカヤックに挑戦したいです。若い人たちには旅することをお勧めします。

(2015年3月掲載)

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