vol.2 外科手術の「匠」の技が、生活の質の向上に貢献します 医学群 形成外科学 教授 前川 二郎(まえがわ・じろう) vol.2 外科手術の「匠」の技が、生活の質の向上に貢献します 医学群 形成外科学 教授 前川 二郎(まえがわ・じろう)

形態を制御して、患者さんのQOLを高めていく

切除した乳房を即時に再建して、目覚めた時の喪失感を軽減

前川 二郎(まえがわ・じろう)
医学群 教授 形成外科学
  • (学部)医学部医学科
  • (大学院)医学研究科
  • 附属病院
リンパ管静脈吻合(ふんごう)術を用いたリンパ浮腫治療の日本における第一人者。形成外科における移殖手術での再生医療の応用にも取り組む。

 私の担当する形成外科は、手足の皮膚や顔の形態など「形」を作る科です。その診療内容は、患者さんのQOL(Quality Of Life=生活の質)の向上に深く関わっています。
  医療技術の発展によって、がんなどの重い病気になっても、多くの人が治る時代が来ています。治ってからの何十年もの長い人生を「いかによく生きるか」というQOLが、これからの時代には必要とされ、形成外科は大きな役割を期待されているのです。
 例えば、乳がんの手術では、場合によっては乳房を切除し、患者さんはその後の生活を送ることになります。乳房がなくても生きてはいけますが、女性にとって失ったショックは大きく、温泉などに行きづらいなど日常生活に支障も生じます。そこで私たちが行うのが、乳房を再建する手術です。
 現在では、がんの手術が終わると形成外科医にバトンタッチして再建手術をするという、即時再建の手法も確立されつつあります。目覚めた時には乳房ができあがっていて、患者さんの喪失感を軽減できるというメリットがあるわけです。


お年寄りのまぶたの治療もQOLの向上につながる

 形成外科の診療分野は、外傷や先天的な形態の変異、切断した指の接着など多岐にわたります。生命に関わる代表例として挙げられるのは、熱傷(火傷)の治療です。体の広い面積に熱傷(火傷)を負うと、他の救急医や専門医が血液の循環などをコントロールして急性期をしのいだ後に、形成外科医が皮膚の移殖などの手術を行います。皮膚のないところから細菌が入ると、敗血症になって死に至る危険性もあるため、非常に大きな役割を担っているのです。
 一般的には、通常の老化と思われている疾患もあります。まぶたが下がって目が開きにくくなる眼瞼下垂(がんけんかすい)は、加齢によってまぶたの皮膚がたるむことによって起こりやすくなる症状です。視野が狭くなると、つまずいて転倒しやすくなりますから、余分な皮膚を手術で切除することによって、そのような事故を減らすことができます。
 また、目から多くの情報を取り入れることで脳への刺激が増えて、お年寄りの脳の機能が低下するのをある程度防ぐことができるのではとも言われています。老化したまぶたの皮膚を少し治すだけで、患者さんのQOLを様々な角度から高めることができ、形成外科ではそうした治療も行っているのです。