vol.2 外科手術の「匠」の技が、生活の質の向上に貢献します 医学群 形成外科学 教授 前川 二郎(まえがわ・じろう) vol.2 外科手術の「匠」の技が、生活の質の向上に貢献します 医学群 形成外科学 教授 前川 二郎(まえがわ・じろう)

リンパ浮腫と再生医療が2つの大きな柱

手術がすべてではない。総合的な治療に取り組む

 横浜市立大学の形成外科には、大きな2つの柱があります。1つは、私が約30年にわたって取り組んできた、リンパ浮腫[Keyword 1]の治療です。そこで行われるのは、行き場がなくて皮膚の下にたまったリンパ液を静脈に流すために、リンパ管を静脈につなぐ手術で、人間の毛よりも細い糸を使い、リンパ管を近くの静脈に縫い合わせて、リンパ液が流れる道を作るのです。
 もちろん、手術だけがすべてではありません。マッサージによる治療も有効な手段であり、そのための機器の開発にも私たちは携わっています。同じリンパ浮腫であっても、重症度や発症する部位などによって治療法は異なります。脚に発症した女性であれば、スカートが履けないなどというように、患者さんご自身の悩みも千差万別です。患者さんそれぞれの生活に合った、総合的な治療法を適用していくのが大切だと考えています。
 もう1つの柱は、再生医療です。先天的に耳が小さくて、聴力などに影響を与える小耳症という疾患があります。通常は胸の軟骨の一部を使って、耳に移殖する手術を行いますが、使用する軟骨は大きいので、胸から軟骨を摘出する際に痛がる患者さんもいます。そこで、小さな軟骨を培養して増やすことができれば、患者さんの苦痛も和らぐのではと考えて、再生医療に取り組んでいます。今はまだ臨床応用の段階ではありませんが、10年先を見据えて結果を出していきたいと思っています。

[Keyword 1]リンパ浮腫
体を流れるリンパ液が停滞することで起こる浮腫(むくみ)。症状が進むと手や足がむくみ、蜂窩織炎(ほうかしきえん)という炎症を起こしやすくなる。がんの手術などでリンパ節を取り除いた方に多く診られる症状。

地域医療にも貢献できる、多様な人材を育てていきたい

 私の職場は医療機関であるとともに研究・教育機関でもあるため、地域の人たちのニーズに応えていく大切な使命もあります。QOLの向上や再建手術といった形成外科の本質といえるところに中心を置きながら、地域医療に貢献することができる医師を育てるのも大切な役割です。
 最近では価値観の多様化で、個性の強い学生が集まってきます。私も彼らに教えることによって、いろんな刺激を受けることがあります。研究者として大学に残ったり、開業医や地域の病院に入る形で地域医療に貢献したり、彼らの価値観に合った多様な人材を育てていかなければならないと思っています。
 また、今は医療や健康に関する情報が氾濫しています。大学から正しい情報や新しい治療法を発信していくことも、私たちの大きな役割の1つだと考えています。