vol.12 企業の生き残りのためには、戦略的なCSRが不可欠です 国際総合科学群 比較社会システム論 教授 影山 摩子弥(かげやま・まこや) vol.12 企業の生き残りのためには、戦略的なCSRが不可欠です 国際総合科学群 比較社会システム論 教授 影山 摩子弥(かげやま・まこや)

社会に対して企業が果たすべき責任とは

CSRは社会貢献だけでなく、経営全般にわたるもの

影山 摩子弥(かげやま・まこや)
国際総合科学群 比較社会システム論 教授
  • (学部)国際総合科学部 国際都市学系 地域政策コース
  • (大学院)都市社会文化研究科 都市社会文化専攻
経済システム論、経済原論を専門とし、CSRに関する実証的な研究を行う。大学発ベンチャー「横浜市立大学CSRセンター」のセンター長として、企業等からの相談にも対応している。

 CSRとは「Corporate Social Responsibility」の略で、日本語では「企業の社会的責任」と訳されます。企業は社会の一員であるのだから、企業は社会に対して様々な責任を果たしていかなければならないが、それが企業の存続につながるという考え方です。かつて企業は、利益を生み出して成長すれば良いとされていた時代もあったのですが、今はそういう考えでは生き残ることはできません。企業が存続していくためには、社会のニーズや人々の期待に応えていかなければならない、というのがCSRの本質です。企業の存続につながる取り組みを「戦略的なCSR」と言います。
 CSRはボランティアや慈善事業などの社会貢献だけを指しているという誤解も多いのですが、経営全般にわたるものであり、その他にも企業のあらゆる活動に関わってきます。CSRを構成するのは、倫理法令遵守(コンプライアンス)や顧客対応、品質向上、労働安全衛生、財務、環境、情報セキュリティなど経営全般にわたっています。例えば、女性が出産しても働きやすい職場づくりや、消費者が望んでいる安全な品質の商品を作ることも、CSRに含まれます。
 どのようなCSRの取り組みを行うかは、企業を取り巻くステークホルダー(利害関係者)[Keyword 1]によって異なってきます。株主に配慮して単年度の利益を上げるような短期的な取り組みもあれば、社員のモチベーションを高めるための長期的な取り組みもあります。一方、法律を守るのは、当然のことですが、法に触れていなくても、料理の使い回しや店員のいたずらのように、批判を浴びるような行為が発覚して、企業が潰れたり経営が悪化したりするケースも少なくありません。
 社会に対して責任を持つのは、企業だけではありません。行政機関やNPO(非営利団体)なども、社会から様々な期待やニーズを寄せられています。そこで、CSRから「C」の文字を取って、SR(社会的責任)の語を使用する場合もあります。もちろん大学も社会の期待を担っていますから、こうやってウェブサイトで情報発信していくことも、横浜市大のSRの一環だと言えますね。

[Keyword 1]ステークホルダー(利害関係者)
企業(NPOなども含む)が行う活動によって、直接的もしくは間接的に影響を受ける関係者のこと。顧客(消費者)や取引先、従業員、株主、地域社会などが挙げられる。企業によってその範囲や構成比は異なり、競合企業や政府、国民を含む場合もある。それぞれのステークホルダーの利害は一致しないため、企業はバランスを取りながらCSRの戦略を進める必要がある。

様々な人がつながる、システムとしてのCSR

 私が専門とする「経済システム論」は、経済を仕組みとして考えて、その全体がどう機能しているかを研究していく経済学の一分野です。CSRに関しても、企業の側からどのようにCSRを実行するかということよりも、社会の中でどういうCSRの仕組みを作っていくかということを中心に研究しています。
 企業が自分だけでいくら頑張っても、CSRは意味を成しません。企業は企業を取り巻くステークホルダーの声に応える取り組みを行い、ステークホルダーは、そのような企業を支持するという構図が必要です。つまり、CSRというのは、企業と多様なステークホルダーの相互作用によって織り成される「システム」でもあるのです。
 身近な例を挙げてみましょう。CSRの活動で全国的に高い評価を受けている横浜市内のとある造園会社の場合、落書き消しのボランティアをしたり、見えないところも手を抜かず、誠実に仕事をしたりしています。そうすると社員は会社を誇りに思うので一生懸命働きますし、お庭の手入れの依頼があって作業をしていると、作業の様子を見たご近所の方がぜひうちでもと仕事の依頼をしてきて、お客さんの輪がどんどん広がっていきます。
 私の最近の研究で、障がい者を雇用することで、生産性を向上できることが明らかになりました。例えば、20人の職場に障がい者が1人加わると、元からいた20人にプラスの影響を与えるのです。法律で義務付けられているという理由だけで障がい者を雇うのではなく、障がい者を皆で支えていこうという雰囲気を作ったり、作業がしやすくなるような工夫をしたりすると、周りの社員のモチベーション向上や、働きやすい職場づくりへと結び付いていくのです。20人の生産性がそれぞれ1割上がれば、それだけで職場全体の生産が2人分も増えることになります。CSRをシステムとして考えると、人と人のつながりによる様々な効果が見えてくるのです。
 CSRの仕組みとして作られたのが、2007年にスタートした横浜市の「横浜型地域貢献企業認定制度」です。これは、地元や地域を意識した経営を行うとともに、環境保全活動、地域ボランティア活動などに取り組んでいる企業を認定する制度で、認定企業は低利の融資が受けられたり、横浜市と横浜企業経営支援財団のWebサイトによる広報のサポートなどを受けられます。この制度の運営には私も企業を評価するための規格の設計や、外部評価員の育成などを通じて携わっています。