当院の取組み

がん診療 泌尿器・腎移植科

診療科の特色

診療にあたり、患者さんと良いコミュニケーションを取ることを最優先に考えています。疑問があれば気軽に聞ける雰囲気作りを心がけています。学会認定の専門医・指導医を有する医師は7名、泌尿器腹腔鏡技術認定医が6名在籍しております。
癌の治療前に生殖細胞(精子)の凍結保存を希望される方は、センター病院でのみ対応しています。前立腺癌に対するその他の治療や、他臓器の癌の診断治療は両病院で行っていますが、密封小線源治療は、福浦の附属病院のみとなります。

がん種

腎細胞癌

症状

古典的な3徴候(肉眼的血尿、腹部腫瘤、腰背部痛)が知られますが、近年検診の普及により無症状で発見される症例が70%以上を占めています。年間30を越える新規手術症例を経験しています。

診断

超音波検査、造影CT で診断します。特異的な血中腫瘍マーカーはありません。

病期

病巣の大きさと周囲臓器への浸潤度よりT1からT4まで分類します。
腎静脈に沿って進展し、下大静脈からまれには右心房にまで至る症例も存在します。心臓血管外科、消化器外科とチームを組んでの治療経験があります。

治療

基本は腹腔鏡手術(根治的腎摘出術)です。癌腫の大きさや形態から部分切除を行う症例が増加傾向にあり、ダヴィンチを使ったロボット支援部分切除術も行っています。転移巣も可能であれば切除が第1選択です。呼吸器外科、整形外科、脳神経外科、消化器外科など複数の診療科と集学的治療を行っています。進行症例に対する分子標的薬の延べ症例数は100例以上の経験があります。麻酔科ペインクリニックや緩和医療チームと協力し、早期からの症状緩和を推進しています。

治験・臨床研究など

PET—CT を用いた分子標的薬の治療効果予測に関する臨床研究を、福浦の附属病院主導で行っています。

腎盂・尿管癌

症状

腎臓に出来る癌ですが、腎細胞癌が腎実質(外側)の尿細管から発生するのと異なり、尿を集めて流す腎盂(腎臓の内側)や膀胱へ運ぶ細い尿管から発生する癌です。このため肉眼的血尿が最も多い症状です。

診断

造影CTや、尿路造影検査(排泄性腎盂造影、逆行性腎盂尿管造影)で診断します。尿中の細胞検査(尿細胞診)も診断の助けになります。

病期

腎盂粘膜や尿管の平滑筋組織は薄く、進展が早いことが特徴です。当施設での10年間の統計では、発見時に50%が筋層まで進行した浸潤癌でした。
また膀胱と上皮は連続しており、17.9%で発見時に膀胱癌を合併していました。

治療

患側の腎尿管全摘術が行われます。浸潤癌の場合は術後、抗癌剤による化学療法をお勧めしています。癌特異的5年生存率は80.9%、ステージごとの5年癌特異的生存率はstageI 95.8%、stageⅡ74.1%、stageⅢ64.2%でした。5年膀胱内非再発率は60.6%でした。膀胱癌の発生が多いので、経過観察にはCT検査の他に膀胱鏡による膀胱内の観察が必要です。

膀胱癌

症状

ほぼ75%の症例が無症候性肉眼的血尿(血尿の他に全く症状のない状態)で発見されています。痛みなどの症状を伴わないため、一回目の症状で医療機関を受診せず、病期が進行している症例も珍しくありません。

診断

膀胱内視鏡で診断します。膀胱壁への浸潤度は膀胱MRI が役に立ちます。尿細胞診を行って、あらかじめ癌の悪性度を予測します。

治療

初期に血尿が出現しますのでほとんどの症例は浸潤度の低い表在性膀胱癌です。表在性膀胱癌は腹部を切開せず、経尿道的に腫瘍を切除できます。膀胱の筋層まで癌が進行した浸潤性膀胱癌では抗癌剤による化学療法と手術(膀胱摘出術)を組み合わせた集学的治療が必要です。膀胱を摘出した後は、小腸を使って右下腹部に尿ストマを形成することが多いのですが、症例によっては小腸で人工膀胱を作り、尿道とつないでストマを作らない術式もあります。
当科における過去10年間の浸潤性膀胱癌の膀胱全摘症例の疾患特異的5年生存率は69.3%です。

前立腺がん

前立腺がんは罹患率、死亡率ともに悪化していますが、当院では数多くの経験を基に、患者さん個人の病気に最適な治療方法を提案し、ご本人とよく相談の上で治療方針を決定しています。納得できる最適な医療を実践できるよう日々努力しています。

前立腺がんについて疫学(日本)

残念ながら、我が国においてはがんの罹患率、死亡率ともに悪化しています。
がんの早期発見のためにはPSA(前立腺特異抗原)検診が必要です。PSA検診は血液検査で行います。PSA検診によりがん死亡率が改善することが明らかになっていますので、今後日本でもPSA検診が普及するように我々も活動を続けていきます。

罹患率(日本)罹患率(日本)
死亡率(日本)死亡率(日本)

症状

初期には症状がありません。進行し骨に転移(骨にがんの病巣がある状態)すると腰痛などの痛みがでることがあります。

診断

血液検査(PSA:前立腺特異抗原)でがんの疑いがあるかどうか確認します。がんの疑いがある時には検査を追加し、最終的には前立腺針生検でがんの有無を診断します。

PSA別 癌発見率PSA別 癌発見率

PSA別、癌の発見率(横浜市立大学関連964症例の検討) PSA4-10ng/mL 前立腺癌発見率34% PSA10.1-20ng/mL 前立腺癌発見率48%

血中PSA値と臨床病期・腫瘍悪性度血中PSA値と臨床病期・腫瘍悪性度

PSAが上昇するほど病期が進行しており、がんの悪性度(Gleasonスコア)も悪化する傾向にあります。

血中PSAと予後(癌特異的生存率)血中PSAと予後(癌特異的生存率)

完治を目指すためには、PSAが20ng/mL以下、可能であれば10ng/mL以下でがんを見つけることが重要です。

病期別癌特異的生存率病期別癌特異的生存率

病期: 早期がん、局所進行がん、進行がん  
この3つに分類されます。

専門的な病期分類にはTNM分類やNCCN分類を使用します。がんの悪性度を示すGleasonスコアも治療方針決定や予後を予測する上で重要です。
早期がんであるほど生存率は高まります。

治療概要(治療実績)

外科治療、放射線治療、薬物治療、緩和医療があります。病期とがんの悪性度(Gleason score)、患者さんの希望などを総合的に検討し、患者さんとご一緒に最適な治療方針を決めています。

外科治療

小切開(開腹)、腹腔鏡、ロボット手術があります。当院ではロボット支援前立腺全摘術と腹腔鏡手術を行っています。主にロボット手術を行っていますが、適さない場合は腹腔鏡手術になります。

当院での手術と放射線治療の成績を記載します。
手術、放射線、それぞれの群で年齢や病期、がんの悪性度(Gleasonスコア)などの背景因子には大きな差があります。また、手術は手術単独の治療成績、放射線は放射線と薬物治療併用の成績となっています。よって、手術と放射線、どちらが優れているかを再発率だけで判断することはできませんが、当院ではどちらの治療成績も良好といえます。

手術 最近105例の治療成績
観察期間21カ月
全例、術前ネオアジュバントホルモン治療は併用していません。
全例、術後アジュバントホルモン治療、放射線治療の併用は行っていません。
精嚢浸潤、リンパ節転移のない94例で5年後の非再発率94.6%(再発率5.4%)です。
再発後はサルベージホルモン治療(±放射線治療)を行っていて、臨床的再発やがん死した例はありません。(2014年4月現在)

放射線治療

IMRTの進化版であるVMATで治療しています。
IMRT/VMAT 最近121例の治療成績
観察期間24ヶ月
全例、3か月以上の放射線治療前ネオアジュバントホルモン治療併用(平均8.1ヶ月)。ハイリスク群のみ放射線治療後アジュバントホルモン治療併用2ないし3年併用。1例でPSA再発を認めるのみ(臨床的再発なし)です。(2014年4月現在)

小線源治療

金沢区にある横浜市立大学附属病院に紹介しています。

薬物治療

内分泌治療(男性ホルモン抑制)を行います。方法は皮下注射(と内服薬)です。内分泌治療による骨粗鬆症防止のための薬(ゾレドロン酸など)を併用します。

緩和医療

放射線外照射治療、医療用麻薬導入など、必要に応じて積極的に行っています。

治験、臨床研究および先端医療情報

治験および臨床研究、先端医療を積極的に行っています。時期により内容は異なりますので、詳細については受診の上、お聞きください。

療養生活でのアドバイス

患者さんによって注意点が異なります。詳細については受診の上、お聞きください。

精巣癌

症状

発症年齢のピークは20〜30歳代であり、若年男性の重要な癌です。症状は精巣の無痛性腫大です。

診断

陰嚢内容の腫大に対しては触診と超音波検査で鑑別診断します。転移の検索にはCTが行われます。特異的な腫瘍マーカーとしてαフェトプロテイン、HCG、LDH が病理組織診断の予測や治療効果の判定に有力です。

治療

精索を含めた精巣摘出術(高位精巣摘出術)を行います。摘出臓器の病理組織学的診断と病期により、予防的あるいは治療目的の化学療法が行われます。予防的な化学療法を行うか否かについては、主治医とよく相談して決めて下さい。化学療法により、たとえ転移があっても完治を期待する事が出来ます。副作用もありますが、あきらめずに主治医と共に治癒を目指して頑張りましょう。化学療法をくり返すと残存精巣の造精機能が障害を受けて、無精子症になることがあります。若い患者さんでは化学療法の前に精子の凍結保存のお話しをしています。

陰茎癌

陰茎癌は非常にまれな癌であり本邦における頻度は10万人に対し0.4〜0.5、男子尿路悪性腫瘍の2〜8%といわれています。症例数が少ないため、泌尿器科医師にとっても本疾患の経験数は少なく、治療方針も施設間で大きく異なる場合があります。私たちは以前より横浜市立大学泌尿器科の関連病院で経験された症例を集計しその予後や再発危険因子などの調査、進行度毎の治療法の検討、新規抗癌剤治療法の確立を目指してきました。現在までに集計した症例は110例を超えており、この症例数は本邦ではトップです。

治療

陰茎癌の治療の根幹は1:局所(陰茎)の切除、2:最もリンパ節転移が起きやすい鼠径部(足の付け根)の処置です。

腫瘍の切除と言っても現在では全ての症例が陰茎を取ってしまうわけでなく、腫瘍だけを切除し陰茎の大部分は残る場合、陰茎の半分程度を切断して少し小さな陰茎になる、と言った場合もあります。
陰茎癌は通常、まず鼠径のリンパ節に転移をします。そのため転移を確認するためのリンパ節生検、転移がある場合の鼠径リンパ節の郭清についても経験豊富な医師が常駐しております。主な術後合併症は下肢の浮腫(むくみ)です。歩けないほどむくんでしまう患者さんも多かったのですが、最近はそれも軽度になっています。
進行癌については抗癌剤との併用で、良好な成績を得ています。当院ではシスプラチン、5FU、パクリタキセルの3剤併用療法を行っています。

セカンドオピニオン