vol.8 地球内部の構造を明らかにして、防災に役立てたい 国際総合科学群 地震学 教授 吉本 和生(よしもと・かずお) vol.8 地球内部の構造を明らかにして、防災に役立てたい 国際総合科学群 地震学 教授 吉本 和生(よしもと・かずお)

地震学に何ができるのか、社会貢献を常に意識

地面の下の構造をイメージにする醍醐味

 私がこの研究を始めたのは、自らが地震を体験したことがきっかけでした。生まれ育った山口県では、身体に感じる地震はほとんど経験したことがありませんでしたが、東北地方の大学に進学し、書店で立ち読みをしていた時、初めて震度3クラスの揺れを体験し、とても強い衝撃を受けたのです。
 当時は天文学を志望していたのですが、強い揺れへの恐怖とともに「こんな地球の現象があるんだ」と感じ、地震学へと進みました。後日、記録を調べてみると、東北地方でたまたま地震が多発していた頃だったらしく、地震学とは不思議な縁で結ばれている気がしています。
 これまでに私は、堆積層よりもっと深いリソスフェア[Keyword 2]の構造を、地震波の散乱や減衰などを解析して調べる研究などを行ってきました。地震研究の醍醐味の一つは、直接には目で見ることができない地球の中を、データを解析することでイメージできる点にあります。研究が進めば将来は、自分が今立っている地面の下の構造がどのようになっているのかが、最近の地図情報サービスのようにモバイル機器などを使って視覚化できるようになるでしょう。
 もう一つ、地震研究には、防災などを通じて社会に貢献していくという側面があります。地震によって直接的・間接的に起こる災害を少しでも減らしていくためにも、日常的に地震が起こる日本では、地震学は重要な研究分野であると言えます。

[Keyword 2]リソスフェア
「岩石圏」を意味する、地殻とマントル最上部の岩盤。一般的に使われる「プレート」と同じ部分を指すが、流動する性質を持つことから地球物理学では下部のアセノスフェア等とあわせて分類される。厚さは最大約100kmで、10数枚に分かれて地球の表面を覆っており、その境界部では地震や火山などの地殻変動が多く発生する。

地震に関する情報をどのように発信していくべきか

 2011年3月の東日本大震災は、マグニチュード9.0と世界で五本の指に入る規模の地震によるものでした。そのような地震が日本で起こり、津波によってさらに大きな被害が出てしまったことには、個人的に大きな衝撃を受けました。私自身が学生時代から長い期間を仙台で過ごしたこともあり、言葉では言い表せない複雑な思いを持っています。
 あれほどの被害を目の当たりにすると、研究者として今までやってきた研究がどれほど役に立ったのかという、ある意味で無力感に襲われることもあります。しかし、常に自分自身を振り返える必要があるとともに、研究を通じてこれから何ができるのかを考えていかなければなりません。
 震災以降、社会が地震に関する様々な情報を求めると同時に、私たち地震学者も研究の成果をどんどん発信していこうという風潮になっています。震度予測のマップといった情報はもちろん、研究途中でまだ不確かな情報でも、社会の役に立つのであれば発信していくべきです。その一方で、情報によって誤解を招かないように、どのような形で伝えていくのかは、今後の大きな課題です。
 情報の受け手側にも、正しく理解する能力が今まで以上に求められるでしょう。普段暮らしていくうえでは、地震のメカニズム等を詳しく知る必要はありません。ただ、自分が住んでいるのがどういう場所で、地震が発生したらどんな被害が予想されるかぐらいは、ある程度の基礎知識として持っておくべきでしょう。