vol.1 温かみのある企業再生の戦略的な手法の研究を進めています 国際総合科学群経営管理論 准教授 芦澤 美智子(あしざわ・みちこ) vol.1 温かみのある企業再生の戦略的な手法の研究を進めています 国際総合科学群経営管理論 准教授 芦澤 美智子(あしざわ・みちこ)

企業再生の最前線で得た経験を生かして

M&Aを成功に結び付けるために必要なことは?

 企業再生に必要なのは、経費削減などの「縮小活動」、日々のオペレーションなどの「業務改善」、そして「戦略的改善」の3つです。それらを実行しなければならないことはわかっているのですが、どう優先順位をつけて、限られた経営資源を分配するかについては、現場は手探りの状態で、混乱に陥ることもあります。
 ここで、M&Aを戦略的に行って成功した企業の例をご紹介しましょう。精密小型モーターで世界一のシェアを持つ「日本電産(本社 京都市)」です。同社は、M&Aを発表した後、比較的すぐに投資計画をスタートしており、戦略的に何を行うべきかを、早い段階で決断していると言えます。
 実際に過去の事例を統計的に検証してみると、日本電産のように過去に業務改善を行った会社や戦略的な意思決定で成長している会社ほど、手がけたM&Aが収益性の改善などに結び付いていることが明らかになりました。
 さらにこれからは、再生のための活動の優先順位やタイミングなどについても、仮説を統計的に実証してきたいと考えています。ほかにも業種ごとの研究や、従業員のモチベーションといった組織論的な研究など、テーマは数え切れないほどあります。私一人の力では限界もありますので、共同で研究をしてくださる方を見つけるというのも、今後の大きな課題です。


一本道ではなかったキャリアは今につながっている

 学生たちには「企業戦略の勉強を自分のキャリア戦略にも生かして、幸せなキャリアを築きなさい」と言っているものの、私自身のこれまでのキャリアは、決して計画通りではありませんでした。
 会計士の勉強をして大学卒業後に監査法人に入り、主に海外企業の日本法人をクライアントとして仕事をしているうちに、経営全般を学ばなければならないと痛感し、大学院で経営学修士(MBA)を取得した後、産業再生機構[Keyword 2]に入社しました。
 ここでの仕事は企業再生M&Aで、まさに私がこのテーマで研究を行う大きなきっかけとなりました。特に、カネボウの繊維部門再生チームのマネジャーとして事業再生の最前線に立ったことは、貴重な経験でした。一回り以上も年齢が離れた社員の方々に「一緒に変革をして欲しい」と訴えていくなかで、真剣に全力で相手にぶつかっていかないと人は動かせない、ということも学びました。
 その後、出産を経て、これまでの経験を生かして大学院博士課程で企業再生を研究し、2013年4月、横浜市立大学に着任、教員としてのスタートを切りました。
 学んでは働きを繰り返し、ある意味で試行錯誤の連続だった私のキャリアですが、一貫しているのは、経営管理への興味です。企業再生にも懸命に取り組んできたから、今のキャリアにつながっていると感じています。
 横浜市立大学には女子学生が多く、私のゼミも半数以上が女子です。ワーク・ライフ・バランスが叫ばれるいま、私自身が仕事と家庭・育児をうまく両立させて、働く女性のキャリアにとって良きモデルを彼女たちに提示していきたいですね。

[Keyword 2]産業再生機構
金融再生と産業活性化を進めることを目的に、政府と民間の共同出資で2003年4月に設立された株式会社。有用な経営資源を持ちながら過大な債務を負っている事業者を再生するため、金融機関から債権を買い取り、経営の立て直しを支援する業務を行った。ダイエーやカネボウなど41社を支援し、予定より1年早い2007年3月に解散した。